21.tend
「祖父はどんな人だったんですか?」
尋ねると、祖父の友人という男性が涙ぐんで言った。
「松ちゃんはなあ、いい奴だったよ。いつも黙って仕事するんだ」
「そうそう、大変なことでも文句一つ言わずにねぇ。我慢ばっかりして…」
年配の女性が横から同意する。
「忍耐の人だったな。その分周りが見逃しがちだったんだ、苦労をよ」
「確かにお義父さん、そんな傾向がありましたわ」
母がしんみりと頷いた。
「だろう?松ちゃん顔に出さないし、酒も飲まねえ煙草もやらねえてんだから、付き合いが悪いなんて遠ざけられてよ。俺だってもっと話したかったんだ、本当は」
「愚痴なんて全然言ってくれなかったからねぇ。力になれたかも知れないのに」
「鶴子さんが逝ってからは余計だんまりになっちまってよ。誰か本音を聞いた奴、いるのかってぐらいさ」
「勝くんあんた、松蔵さんに可愛がられてたろ。何か聞いてないかい」
困ってかぶりを振ると、周りから悲しげなため息が漏れる。年に一回会うときすらあまり会話しない無口な祖父だったが、どうやら良く好かれてはいたらしい。我慢がちな性格――それが祟ったのだろう。
一人暮らしの部屋で見つかった祖父。最期は酷い腹痛に苦しんだろうに、電話の一つもした形跡はなかった、と医者や役人が言った。
「我慢しなくていいよ…って、誰かが言ってればねぇ」
年配の女性が遺影を見つめた。その言葉はきっと、亡くなった祖母が言ったのではないか、と、僕は思っている。なぜなら、一人きりだった筈の祖父は、不思議に温かい顔で横たわっていたのだから。
「tend(-to V)Vする傾向がある」、
「Vしがちである」。