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「もう戻ってくんなよ」

 友達の一人が泣き出しそうな顔でそう言ったのを、少年はよく覚えていた。彼が自分を思ってそう言ってくれたのが分かったので、飛んで帰りたいのを我慢している。

「タケ君、ご飯出来たよ」

 新しい母親に呼ばれ、少年は笑顔で台所へ急いだ。嫌われてはならない、幸せで居なくてはならない、施設に戻されてはならない。「あの力」のことを、知られてはならない。

 しかしこの日、慣れない環境で気を張り続けていた少年は、ミスを犯してしまった。

「キャッ」

 新しい母親の足に躓き、彼女の持っていた包丁を落とさせてしまったのだ。まっしぐらに少年の頭へ向かう刃先を、母親は間一髪で掴み止めた。

「危ないじゃない!大丈夫?怪我してない?」

 大慌ての母親だが、少年はそれより彼女の右手から垂れる血が恐ろしくなった。

「おかあ…さん、怪我…」

「あらホント。ちょっと切ったわね、あいたたた」

 言いながら、彼女は少し悪戯っぽい笑みを浮かべたのだが、少年はそれに気付かなかった。

「あー痛い。絆創膏じゃ間に合わないわ、お医者に行こうかしら。お金がかかるわねえ」

 お金と聞いて少年は青ざめた。

「ど、どのくらい?」

「そうね、ざっと三億円かしら。すごーく沢山よ。タケ君、三億貰える切符を買ってきてくれない?」

 指に包帯を巻きながら彼女が渡した紙幣を掴んで、少年は一心に駆け出した。母に頼まれた「宝くじ」を買うために。

 だが新しい母親は知らなかった。少年が異常な運を持った、ある種の異能者であること、そしてその力で儲けすぎた前の両親がそのために命を落としたことを。

 そして少年も未だ知らない、宝くじは必ず金が貰えるものではなく、それは少年が願う故に当たってしまう三億であろうことを。

 この親子が幸せになるかどうかは、誰も知らない。


 

「(費用)を要する」、

「~を奪う」。

 


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