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御堂涼太は誤魔化したい


「私に……妹さんを紹介して欲しいのッ!」


 ………………はい?


「妹を……」


「うん」


「紹介する……?」


「ええ」


「なぜ?」


「あっ、会ってお礼が言いたいの……」


「なるほど……」


 もう一度、確認しよう。


 妹を……紹介する?


 ……実在しない妹を?


 神崎……なんて無茶な事を言ってくるんだ……。お前は俺に苦難を用意しなければ、気が済まないのか?


 さすが獅子かんざき我が子(オレ)を千尋の谷に突き落とすことにかけては他の追随を許さない。しかしだ……。


 ……いないものをどう紹介しろと?


 我が家はずっと前から、父と母と息子の3人家族である。いっそ、母(42歳)に学生服を着てもらって妹だって紹介するか? いや、想像しただけで悲惨な光景が浮かんだから辞めておこう……。


 解決方法……一つだけあるにはあるが、出来れば実行したくはない。


 現在、俺の心情は、9回ツーアウトでサヨナラ満塁ホームランを打たれたピッチャーのように呆然としていた。完封勝利から、まさかまさかの大逆転サヨナラ負けである。


 ライオンの牙から逃れたと思ったら、逃げた先にはティラノサウルスが待ち構えていたような気分である……。だがしかし、このままパックリ頭から逝かれるワケにはいかない。


 ……決してやりたくない。やりたくはないが、こうなったら残す方法は一つである。



 【女子形態のオレが架空の妹を演じる】。



 コレしかあるまい。まさか、架空の兄だけではなく、妹まで演じるハメになるとは……。それも性別は男と男でも、女と女でもなく、男と女である。俺一人で二人の兄と妹を演じる。


 これぞホントの一人二役ってか?

 この話を、世にも奇妙な物語としてテレビ局に売り込めるんじゃないか? 決してそんな事はしないが。


 ハァ……。やるしかないか……。


「わかったよ、神崎さん。俺から妹に伝えておくよ……。じゃあ、いつ頃なら会えるか教えてくれる?」


「えっ……。ほっ、ホントに紹介してくれるの?」


「するする」


「そっ、それじゃあ……明後日の土曜なんてどうかな?」


「うんうん、明後日の土曜ね」


「集合場所は天蘭駅、駅前で……」


「場所は駅前っと」


「時間は11時とか……」


「あっ、ごめん。妹は朝が絶望的に弱いんだ。12時以降にしてもらえる?」


 12時以降じゃないと、女性形態になれないんです……。男の俺が神崎に会っても仕方ない。しかし、俺もよくスラスラと言い訳が出てくるものだ。


「そっ、そう……。なら、15時はどうかな?」


「オーケー、オーケー。明後日の土曜日、15時ね。妹に伝えとくね」


「ええ、ありがーーちょっと待って?」


「ん?」


 感謝を伝える途中で突然、神崎が待ったをかける。俺、なんか変なことでも言っちゃった?


「……どうして妹さんの予定を、兄であるアナタが詳しく知っているの?」


「ッ!」


 かっ、神崎、鋭すぎるッ! 少しの違和感も見逃さないとか、アナタは探偵ですか? いかんいかん。こんな事、考えてる場合じゃない。


「うっ、ウチの家は家族同士でなんでも言い合う家庭なんだよ!? だから、妹の予定を俺が知ってるのもおかしな事じゃないんだ!」


「……」


 神崎は目をジトーッと据わらせて、疑いの視線を向けてくる。


 ごっ、誤魔化せたか……!?


「……そう。まぁ、そんな家庭があってもおかしくは無いか……。疑ってごめんなさい」


「わっ、分かってくれればいいんだよ……」


 おー怖っ! ちょっと油断するとこれだ。こりゃ、神崎との会話は気が抜けないな……。土曜日は気を引き締めないと。


「それじゃあ、妹さんにしっかり伝えてね」


「あっ、ああ……。任せてくれ」


 やっと神崎との話が終わる……。今日一日でどっと疲れたな。普段、あまり喋らないツケが回ってきたか。


「あっ、これ一応私の連絡先。登録しておいてね」


「おう……」


 自分の席まで帰るかと思った矢先、神崎はクルンと振り返って一枚の紙、神崎の連絡先が書かれた紙を置いていく。


 御堂涼太は【神崎乃亜の連絡先】を手に入れた! ゲームならこんな感じの一文が流れる事だろう。


 神崎乃亜の連絡先……。

 男子に一人一万円で売れたりしないだろうか……。3万円でも買うってヤツがいそうだな。


 下らない事を考えている間に、神崎は自分の席まで帰っていった。


 明後日の土曜日……憂鬱だ。






ーーーーーーーーーー






 神崎に(存在しない)妹を紹介すると約束した翌日、アレから俺は、我が2-A組のクラスメート(主に男子)から目の敵にされている。いや、正確には天蘭高校の男子全体からか。


 昨日の事は、もう既に校内では噂になっているらしい。神崎はともかく、俺に至ってはかなり酷い噂も捏造されている。


 曰く、妹を餌に美少女を誑かしたク○野郎。


 曰く、衆人環視の教室の中、美少女を辱めた人間のゴミ○ズ。


 それはもう、酷い言われようである。これ訴えたら、慰謝料もらえないかな?


 とにかく、今はこれ以上噂が悪化して、御堂涼太を抹殺する会なるものが設立しない事を祈るのみだ。……まだ出来てないよね?


 兎にも角にも、神崎と関わるのも明日で終わりだ。神崎と関わりさえ無くなれば、俺へのヘイトも次第に薄まるはずだ。


 俺の平和な日常が戻る日も近い……!


 しかし、俺の期待を裏切るように、現実は妙な方向へと変遷していく……。


「すまないが、御堂涼太くんはここにいるかな?」


 ほら、非日常がやって来た。


 俺を呼ぶ人物、それは【天蘭高校の王子様】。


 劔朝日先輩だった。


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