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神崎乃亜は出逢う


《神崎乃亜視点》


 場にそぐわない暢気な女性の声が割り込む。

 歳は私と同年代。制服が私と一緒のデザインである事から天蘭高校の生徒だと分かる。


 顔立ちはそれなりに整っているが、眠そうな目が顔の好印象を打ち消している。化粧すれば、かなり化けそうな顔だ。


 確かに、誰か助けて欲しいと願ったが、正直、あまり頼りになりそうには見えない。逆に、私は彼女が巻き込まれないか心配になる。


 アンタ、助けてくれたのは嬉しいけど、早く引っ込みなさい! 私を助けても何の得にもならないわ! むしろ、アナタまで巻き込まれるわよ!


 こんな状況だというのに、私は彼女が関わらない事を祈っている。しかし、私の願いと相反して、女の子は尚も私を助けようと前に出る。


「実はそこの彼女、私とこれから約束がありまして……」


「……!」


 しばしの硬直の後、彼女の言葉に思わず、目を開いて驚いてしまう。


 ハッ! ここは彼女に合わせて約束があると言うべきだった。彼女は何とか私を助けようと藻掻いているんだわ。しっかりしなくちゃ!


 しかし、一度、大袈裟に反応してしまった事が消えるわけではない。男たちが私から女の子へと興味を移し、先ほどの私の反応について責め立てる。


「……ヘぇ。彼女の方には身に覚えが無いみたいだけど?」


「本当は約束なんてして無いんじゃないの?」


 男たちは私たちが約束なんかしてない事をおそらく見抜いている。ニヤニヤして女の子を見つめる姿からは自分たちの優位を信じていると分かる。ナンパなんかしてる最低男の癖に自分たちが優位に立ったからって調子に乗って……!


「そっ、そんな事ありませんよ。もう神崎さん、約束忘れちゃったの?」


「えっ! ……ええ、ごめんなさい。忘れていたみたい」


 今度はちゃんと彼女に合わせる事ができた。多少、強引ではあったが、作り話を成立させる事ができた。気を張っていたお陰だ。これでコイツらが引いてくれると良いんだけど……。


「……というわけなんで。すみませんが、彼女を離してあげてくれませんか?」


「……チッ!」


 彼女の呈した苦言に、ついに私の腕から男の手が離れる。ずっと圧迫されていた腕が解放され、思わず力が抜ける。


 ほっ……。これでやっと解放される。若干、頼りなくはあったが彼女のお陰でこんな状況からおさらば出来る。


 解放された私は彼女へ向かって一歩を踏み出すーーその瞬間、諦め悪く黒髪の男が割り込んできた。


 もう、しつこい! いい加減、諦めなさいよ!


「おい、待て……! 君、本当に彼女と知り合いかい?」


 ギクッ!


 黒髪の男の言葉に、女の子があからさまに動揺する。表情が固まり、額からじんわりと汗が出ている。


 なっ、なんて分かり易い反応……。


「い、嫌だなぁ〜。もちろん、知り合いですよ〜。ねっ、神崎さん!」


 彼女の話に合わせて、首を縦に振る。しかし、それでも尚、男の詰問は止まらない。


「ふ〜ん……。それじゃ、お互いの名前くらい知ってるよね?」


 ギクギクッ!


 女の子の額からはさっきとは比較にならない量の汗が滲み出る。その汗が冷や汗であることは一目瞭然である。


  ちょっと! わかり易く動揺してるんじゃないわよ! 額から汗を大量に流して、これでは自分は嘘を付いていますって言ってる様なもんじゃない! 少しは取り繕いなさい!


 動揺が顔に出るのは私も女の子のことを言えた義理では無いが……。


「おじさん、心配だからさ〜。一応、ふたりとも互いに名前を言ってくれないかな〜」


 女の子の動揺に目ざとく気付いた男は、畳み掛けるように言葉を重ねる。相次ぐ口撃に女の子がついに沈黙する。女の子は顔を伏せ、肩を落とす。


 ……もういいわ。これ以上、無関係の彼女を巻き込む訳にはいかない。彼女には正直、かなり感謝している。彼女のお陰で、家族以外の人間というのも悪くないとちょっぴり思えた。


 他人なんて自分の容姿しか見てくれず、本当の意味で友達と呼べる人間になんて一生会えないと思った。


 でも、彼女の様な人間が他にもいるのなら……憧れだった友達だって作れるかもしれない。


 再び、男の手が私に触れようと近付く。もはや、私に抵抗の意思はない。とにかく、彼女を巻き込みたくなかった。彼女が心配そうに私を見つめる。


 ……大丈夫。私なら大丈夫だから……。


 ああ、でも……。


 どうせなら……彼女と友達になりたかったな……。


 今にも、私を掴もうと男の腕が迫る。再び襲いかかる恐怖に、私は思わず目を瞑る。


「……!」


 しかし、結論を言うと、男の手は私を掴むことはなかった。


 咄嗟に割り込んだ彼女が男の手を掴んでいたから。


「すみませ〜ん」


 最初に割り込んだ時と同じのんびりとした口調で、彼女は男の腕を振り払う。


 何してるの!? 私のことはもう良いから! アナタだけでも逃げなさいよ!


 私の内心なんかお構いなしに彼女は、言葉を続ける。


「すみませんが、神崎さんは見逃してくれませんか?」


「あぁ!?」


 男の一人が低いダミ声で相対する彼女に威圧する。しかし、彼女に動揺は見られない。


「その代わり……」


 男たちを諭すように優しい声音で語りかける。しかし、その後の彼女の行動に、私は驚愕する事になる。


 なんと彼女は……


「私がアナタ達の相手をしますから」


 自分のスカートをたくし上げていた!


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