逃げた先
俺と神崎は偶然、目に入った建物の中へと潜り込む。
「ハァ……ハァ……!」
急遽、始まった男たちとのチェイスで俺も神崎も疲弊していた。神崎が疲弊するのも無理とない事だ。
俺だって、人と人との追いかけっこなんて、中学生の時に友人とふざけてやった鬼ごっこが最後だ。神崎も恐らく、追いかけっこなんて久しぶりの事だろう。
もっと言えば、今のこれはただの追いかけっこではない。大の大人(それも男性)との全力の追いかけっこなのだ。
実際、神崎はよく付いてきてくれている。なんせ、捕まる事とイコールで男たちにどんな目に遭わされるか分かったもんではない。
レ○プだけならまだしも、強姦されているところを映像で撮られて脅迫されたり、或いは、強姦した後は俺たちを殺して証拠隠滅を図る可能性すらゼロとは言えない。
俺たちは男たちの顔をハッキリと目撃している。男たちの中に、俺たちを解放した後、警察に通報される事を恐れて、殺して口封じをするという発想をする者がいてもおかしくはない。
「ハァ……ハァ……! とにかく、今のうちに警察を呼ぼう。警察が来れば、流石にあの人たちも追うのを諦めるはずだよ!」
「ハァ……ハァ……! うん、そうだね」
この状況で最も無難かつ最良な行動、携帯電話で警察に通報することを神崎に提案する。当然、警察に通報するという俺の案は、神崎からも同意を得る。
警察さん。普段は、苦労して犯罪者を取り締まっても、国民から嫌われるとか誰がなりたいんだよこんな職業とか思ってすみません!
今後は警察官として職務に従事する方々に毎日、感謝のお祈りを捧げることも辞さない覚悟です!
だからどうか……こんなクソッタレな状況から救ってください!
俺は半ば祈るような気持ちを込めながら、スマートフォンの緊急通報のボタンをタップする。すると、見覚えのある数字のキーパッドが表示される。
俺がキーパッドに110と打ち込もうとした刹那ーー
「ああ〜〜ッ! クソがッ! どこに行きやがったんだアイツら!」
ーー建物の外、すぐ近くから男の怒声が響く。
「ッ!」
おいおい、今の声……かなり近かったぞ!
咄嗟に神崎と俺の口を押さえる。ほとんど、条件反射的に体が動いたのだ。俺と神崎の2人は男に居場所を悟られまいと息を殺して状況を見守る。
「まあまあ、落ち着けよ。まだ遠くまでは逃げていないはずだぜ。こっちは人数がいるんだ。表通りまでの道を塞げば、逃げることは出来ねえさ!」
「……それもそうだな。おい、それならよ」
「分かってるって! 一服しようってんだろ? 本当にお前はニコチン中毒だな!」
「うるせえよ! タバコを吸うのは俺の生き甲斐なんだよ!」
タバコ……!
俺はハッとなって周囲を見渡す。
建物の中にはタバコの吸い殻がかなりの数、放置されており、タバコ特有のニコチンの匂いが鼻腔をくすぐる。
俺はなんてバカな奴なんだ!
焦りのあまり、建物のあちらこちらに捨てられたタバコに気が付かないなんて……!
いや、それ以前にこれだけタバコの匂いが充満している時点で気付くべきだった。
ああ……なんて最悪な事実に気が付いてしまったんだ!
俺たちがいる場所、ここは男たちのアジトだ……!
偶然、潜り込んだ場所が追われている相手のアジトだったなんて、どんな最悪な偶然だよ!
男たちがやたらとこの辺に詳しかったのもこれで説明がつく。俺たちが行く先々を男たちは先回りしていた。
それも当然の話だ。ここは男たちの生活圏。今日、初めて通った俺たちが、この辺を知り尽くした男たちに敵うわけはない。
まんまと俺たちは男たちの手のひらの上で踊っていたというわけだ。
ーーガチャ。
この建物の唯一の出入り口である扉が開く。扉が開けば、もちろん中にいる俺たちと男たちは出会う事となる。
「ッ! てめぇら! こんな場所に隠れてやがったのか!」
「おいッ! 女たちを見つけたぞーッ! みんな集まれッ!!!」
男たちの号令で続々と建物の中に人が集まってくる。5分もしないうちに、俺たちを追っていた男たちが勢揃いする。
「へへへ。まさか、俺たちの溜まり場に隠れてやがったとはな。どうりで見つからねぇわけだ」
「ああ、でももう逃げることは出来ねえぞ。見ての通り、ここの出入り口はこの扉一つだけ。助けを呼んでもこの辺を通る人間なんざ滅多にいねぇ。お前らは完全に八方塞がりだぜ……へへへ」
男の言ってることは多分、本当のことだ。実際、男たちから逃げている際にも人っ子1人見かけなかった。つまりそれは、俺たちにとっては助けが来る可能性がごく僅かであることを示している。
「まさか、自分からヤリやすい場所に移動してくれるなんてな。手間が省けたぜ」
そうこうしているうちにも、男たちと俺たちの距離はすぐそこまで詰まっている。
男の言う通り、八方塞がりだ。俺たちがこの状況を切り抜ける術はない。
この状況から逆転する方法……。
一つ……一つだけバカらしいが試してみる価値のある方法がある。俺自身、成功する確率はまったくと言って分からない、そんなバカらしい方法。
俺の手を握る神崎の手が震えているのを感じる。これから、自分に襲いかかるだろう脅威に怯えているのだろう。
「……んね」
「?」
震える神崎が何かを呟くが、うまく聞き取れない。もう一度、俺は聞き取ろうと耳を澄ませる。
「ごめんね……。私のせいで鈴ちゃんまで巻き込んじゃって……! ごめんね……ごめんね……ごめんね……」
「……!」
違う……。神崎の所為なんかじゃないさ。悪いのはどう考えても逆恨みしている男の方だ。
神崎が責任を感じることなんて無いんだ!
泣いている神崎に対して、たくさんの言葉が心から湧いて出る。しかし、どれひとつとして俺の口から言葉が発せられることはない。喉元まで出かかった言葉は音声として形になることなく消えていく。
……迷っている場合じゃない!
可能性が低くたって良い!
俺は今、泣いている神崎を救いたい!
覚悟を決めた俺は、自分の中でバカらしいと却下しかけた方法を実行に移す。
「助けてッ! 劔先輩ッ!!!!!」
俺が考えた案、それは劔先輩に助けを求めること。
近くに劔先輩がいるわけない。俺だってそれくらい分かっている。
しかし、最近感じていた誰かからの視線。これが劔先輩だと信じて、思いの限り、劔先輩の名前を呼ぶ。
「劔先輩ーーッ! 劔先輩ーーッ! 劔先輩ーーッ!!!」
何度も、何度も叫ぶ。僅かな可能性を信じて喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
「おいおい、何をやっーー」
ーードンッ!!!
男が俺の行動を訝しがるその刹那、閉じられていた扉が勢いよく開く。
「……!!!」
完全に賭けだった。だが、俺は賭けに勝ったぞ!
「御堂く〜ん! ボクのハニー! 助けに来たよッ!!!」
開かれた扉の前には、俺の求めていた人物、劔朝日先輩が立っていた。
「面白かった!」
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