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お出掛け2


「さすが、今、話題になってるだけあって、美味しかったね!」


「うん、すごく美味しかった」


 カフェから出た俺と神崎は、他愛もない話をしながらモール内をブラブラする。


 今、話題だというカフェのスイーツは悪くなかった。うむ、決して悪くなかった。派手な見た目ほど甘くなかったし、ちょうどいい塩梅の甘さというものを店側が理解していた。


 あれなら、もう一度来店することも吝かではない。神崎以外と……。


 特に目的を決めずに動き始めたが、神崎が目的もなく歩いているとは思えなかったので、神崎に目的地を尋ねてみる。


「次はどこに行くの?」


「うーん。着いてみてのお楽しみ!」


 目的地を知りたい俺の質問を神崎はやんわりと退ける。


 はぐらかされてしまった。神崎の足取りを見るに、目的地があるのは間違いないが、それが何処かまでは俺には分からない。そんなに、このショッピングモールに明るくないしな。


 ここは自宅から1時間半離れた天蘭市のショッピングモール。過去、このショッピングモールに訪れた回数は両手の指では数えられないが、両足の指も入れれば数えられる程度の数には収まる。


 それに、ここに来るのは数ヶ月ぶりだ。記憶力に特に自信のあるわけでもない俺では、細かい店舗の位置まで把握していない。精々、大まかにフードエリアや服飾エリアが分かる程度だ。


 エリアで言えば、今向かってるのは服飾エリアの方向だったような気がする。という事は、神崎が向かっているのは服飾エリア?


 もし俺の予想が当たっていたなら、神崎は服でも買おうというのか。


 思考している間にも、どんどん服飾エリアが近付いていき、そしてとある有名なアパレルショップの前で神崎が立ち止まる。


「はい、ここが目的地だよ!」


「わっ、ワーイ……」


 予想通り、神崎は服を買おうと思っていたわけだ。


 予想が当たって少し気分を良くした俺だったが、すぐに眼前に立ち並ぶ可愛らしい服の数々を見て気分が沈む。


「私、思ってたんだよね。確かに、鈴ちゃんの服はシックでまとまってるけど、もう少し明るい色合いの服を合わせても良いんじゃないかなって!」


 神崎の熱弁も今の俺の耳には右から左へ素通りである。


 まあ、当然といえば当然なんですが、神崎が連れてきたのは女性客をメインターゲットにしている有名アパレルブランドの店舗であった。普通の女の子であれば、目の前の服を見て少なからず、目を輝かせるべきなのかもしれない。


 しかし、残念ながら俺は身体は女の子、頭脳は一般的男子のごく普通な男子高校生である。ただ、世界でも稀な体質を持っているだけで。


 故に、俺が女性物の服を見て無意識に顔を引き攣るのも致し方ないことである。笑顔を保とうと頑張って口角を上げるが、やはり途中で顔が引き攣る。


「さっ! 早く入ろうよ、鈴ちゃん!」


「はっ、はい……」


 やたらとテンションの高い神崎に引っ張られて、アパレルショップの中へと入っていく。


 そして、入ったあと開かれたのは現在の俺、御堂鈴のファッションショーという名の着せ替えショーであった。


 神崎は店中の服を引っ張ってきては、俺に着て欲しいとせがみ、着替えた服装を見せるたびに「カワイイ〜〜!」と大袈裟に反応する。なんか眼も妙に血走って、「ハァ……ハァ……」と鼻息が荒い。


 俺の服装を見てーーカワイイ、カワイイと反応するのは構わないのだが、着替えるたびに猛烈な勢いでスマホで連写するのだけは辞めてほしい。


 俺は知った。スマホを連写したときに聞こえるーーシャシャシャシャシャパシャ! という音は、結構人を怯ませる効果があることを。


 いや、もしかしたら人間以外の動物にも聞くかもしれない。ある日、森の中で熊さんなんかと出会った時に試してみるのはどうだろうか?


 但し、スマホの連写音が熊を逆に激昂させる恐れがあることも留意しておいて欲しい。例え、森の熊さんに頭からガブリと逝かれても、当方は一切責任を負いません。


 俺が頭の中で現実逃避している間にも、神崎は「うーん、やっぱりこっちの方が……」、「いや、やっぱりあっちの方が……」などと、俺に着せる服を一生懸命に選んでいる。


 神崎さん、もう何でもいいですからそろそろ終わりにしませんか?


 えっ、ダメ? そうですか……。


 結局、俺はその後も小一時間、神崎の着せ替え人形として為されるがままになるのだった。






ーーーーーーーーーー






「あー、楽しかった!」


 俺の着せ替えタイムを終えた神崎は、「あ〜、余は満足じゃ〜」とでも言いそうな程、満足げな表情で晴れやかな顔で笑っている。


 神崎さんが満足そうで、俺も良かったです……。おそらく、今日1日で神崎のスマホは俺の着せ替え写真で容量を圧迫されたことだろう。


 現在、疲れた表情で歩く俺の右手には、先ほどのアパレルショップで購入した女性物の服が入った紙袋が握られている。


 初め、これ以上女性物の服がタンスに増えて欲しくない俺は神崎に「だっ、大丈夫だよ〜」と暗に服を買いたくない意思を伝えていたのだ。


 しかし、結局、神崎の強い押しに負けて、神崎セレクションの服を幾つか購入することになってしまった。帰った後、部屋のタンスにこの服たちが収納される事を考えると、苦笑いしか出ない。


 まあ、そんな事より、今神崎はどこに向かっているのだろうか。服も買った事だし、目的は終えたと思ったのだが、神崎の足はまだ目的を持って歩いているように思える。


「あの……今はどこに向かってるの?」


「ん? あっ、ここだよ。ここが私が来たかった場所」


 神崎が来たかったという場所、そこはなんと男性絶対不可侵の領域。女性物の服の中でも特にデリケートな領域。


 ランジェリーショップであった。


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