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お出掛け


 ついに、神崎乃亜との2度目のお出掛けが始まってしまった。一度目は神崎から助けてもらったお礼と、友達になってくれと言われただけだから、実質、今回が初めてのお出掛けだ。


 ホント、何でこんな事になったんだっけ?


 予定では、一度目の接触で神崎からお礼を頂戴して、速やかに別れるはずだったのだ。それを何を罷り間違ったのか、友達になって尚且つ、こうして出掛けるまで発展してしまった。


 現在、身体は女性でも本質的には男性としての自意識を持つ俺からしたら、今の状況はかなり辛い。ごく一般的な男子生徒の価値観しか持たない俺には、女子である神崎に話を合わせるだけで精一杯である。


 幸い、俺の愛想笑いにも神崎は気分を悪くした様子が無いのが救いか。


 肩を弾ませて意気揚々と歩く神崎は誰が見ても上機嫌と一目で分かる。当事者の一人である俺は、こんなにも気分が沈んでいるというのに……。


「鈴ちゃん! とりあえず時間も潰せるし、近場のショッピングモールへ行こうよ!」


 気が重い俺の内心を知ってか知らずか、神崎はグイグイと距離を縮めてくる。肌と肌が触れ合いそうな、恋人の距離である。


 あの神崎さん、それ以上くっ付くとアナタの胸が当たってしまいます……。


 確かに、今の俺は神崎と同性の女の子そのものなんですが、思春期を迎えた男子としての俺の心が騒ついてしょうがないんです。


 どうかお願いします!

 それ以上、きょ、距離を……距離を近づけないでーーー!


 たった今、俺と神崎との間では熾烈な争いが繰り広げられている。


 神崎が俺に一歩近付けば、俺が一歩下がる。


 一歩近付けば、一歩下がる。一歩近付けば、一歩下がる。


 この一連の動作を繰り返し、互いにとって最良のポジション取りを巡って細かい動きや牽制を繰り返している。


 俺が神崎からやんわり離れるたびに、神崎が「むーー!」と唸って、実に可愛らしいが、可愛さに目を奪われたが最後、俺の理性が終わる。


 本能の方の俺が、「いっその事、思いっきりくっ付いちゃえばいいじゃん。同性なんだし、何も不自然な事なんて無いじゃん」とチャラ男風に囁く。


 ここで俺の中のチャラ男の言う事を聞いて、神崎とくっ付くのは簡単だ。しかし、一度、一線を越えてしまった俺の理性は二度と防波堤の役目を果たす事はなくなる。


 神崎とくっ付くだけならまだしも、それ以上の事を本能が求めないと断言できようか?


 もし、俺が気の迷いで神崎の身体に触れる事態になれば、俺は二度と女性として表に出る事が出来なくなる。周りが何も言わなくても、俺自身が俺を許せないのだ。


 故に、俺はここで本能のままに神崎のボディータッチを受け入れる訳にはいかないのだ。


 結局、俺と神崎はショッピングモールに辿り着くまでの間、熾烈な争いを繰り広げる事になった。結果は何とか俺の勝利で終えた。






ーーーーーーーーーー






 ショッピングモールに着いた俺たちは、神崎の提案もあって、モール内のカフェで一息つくことになった。


「あっ! アソコが今、話題になっているカフェだよ!」


 カフェを目指し、モール内を歩いていると不意に神崎が指を差す。釣られて指が差された方向に顔を向けると、確かにそこには小洒落たカフェが他の店舗に隣接する形であった。


 店内には、数名のお客が順番を待っている。大層な行列などは出来ていないが、中の席が全て埋まっているところを見るに、それなりに繁盛しているらしい。


 但し、順番待ちの客も、店内で世間話に花を咲かせている客も全て女性客である。年齢層は10代〜20代で統一されている。


 間違いなく、男一人だったら入れない場所だな……。いや、今の俺は紛うことなき女子だが。


 店内に入って、順番待ちのシートに名前を書く。店内に設置された椅子に座って待っていると、程なくして、「御堂さま〜」と言う店員の声が聞こえる。店員に案内されるがまま、空いていた奥の席へと座る。


「思ったより、すぐに順番が来てよかったね」


「そうだね」


 とりあえず、神崎に同意しておく。

 テーブルの端に差されたメニュー表を取り出す。メニュー表を見ると、中には如何にも映え〜って感じのやたらと盛られたデザートたちが目白押しであった。


 ふむ、なるほど。店内を女性客が占めるわけだ。一般的な男性が見れば、尻込みしそうな程の迫力がある。


 しかし、俺はスイーツに関しては、それなりに造詣が深い。甘いものがダメだという男性群に相反するかの如く、週に一度は甘いものを摂取する男である。


 しかるにこのメニューを占めるスイーツたち。悪くない。うん、中々悪くない。


「鈴ちゃんは何にする? 私はこの【ふわふわパンケーキ〜ストロベリーソースがけ〜】と【メロンソーダ】にしたよ!」


「私はこの【スペシャルデラックス抹茶パフェ】に【アイスティー】にするよ」


 俺はスイーツの中でも抹茶と名のつくスイーツは目に付いたら、とりあえず頼んでしまう位には目がない。あっ、茶道の抹茶は別に好きではないです。


 注文が決まると、すぐに呼び鈴を鳴らして店員を呼ぶ。そして、先ほどの注文を伝える。


 待っている間、「楽しみだね〜」なんて言い合いながら、待つこと10分少々。テーブルに注文した商品が並べられる。


「「うわ〜〜!」」


 恥ずかしくも、神崎と同じ反応をしてしまった。目の前の神崎はというと、今時の女子校生らしくテーブルに並ぶスイーツを撮っている。


 神崎もイン○タとかするんだろうか?

 フォロワー数がとんでもない事になりそうだな。


 その後、「はいあーん」をしたがる神崎と一悶着があったりしながらも、俺たちはゆったりとした時間を送るのだった。


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― 新着の感想 ―
ワク、ワク! 面白かったです。確かに一度防波堤という名の理性の概念といいますか、壊してしまうと防波堤として意味がなくなりますよね。(過去の実体験) 塾をサボったら、、、、うぐっ。
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