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劔朝日の追憶3


「御堂……涼太……?」


 ボクの予想に反し、学生証の写真に写っていたのは、天蘭高校の男子生徒であった。女子の写真を想像していたボクは当然、面食らう。


 なぜ、どこからどう見ても女性であるはずの彼女が男子生徒の学生証を落としたのだろう?


 目の前で先程見た光景と、今ある現実の情報にまったく整合性が取れない。ここまで頭が混乱したのは久々である。


 まるで、初めて演劇の舞台に立った時のように、どこか現実感のないフワフワとした気分がボクを襲う。


 頻りに何度も学生証を食い入るように見つめる。目を擦っても、頬を抓っても、夢から覚める事は無い。この学生証が現実であることは疑う余地はない。


 ボクは今……間違いなく混乱している。


 混乱しているが……眼前にある現実を認めないわけにはいかない。


 ナンパ男たちから神崎さんを助けたのは黒髪ロングの謎の女子生徒。でも、女子生徒が落とした学生証に写っていたのは男子生徒。


「つまり……つまり……」


 頭の中で、一つの結論が作り上げられていく。


 結論を出すには早い……。


 早いがしかし、改めて状況を整理すると、ボクにはコレしか考えられない。


 つまり、彼女はいや、彼は……



「女装した男子生徒……?」



 自分で言っていて信じられない、突拍子もない発想だ。しかし、そう納得してしまった方が、目の前の現実に折り合いがつくし、神崎さんが彼女の事を知らないという事にも説明がつく。


 おそらく、黒髪ロングの彼女の本当の姿は、御堂涼太という天蘭高校の男子生徒なのだろう。だから、ボクにも見覚えがなかったのだ。


 見覚えがないのも当然だ。なにせ、彼女だと思っていた人間の正体は男なのだから。天蘭高校の女子生徒をほとんど記憶しているというボクのプライドは守られる事になった。


 しかし、そんな事よりボクにとって問題なのは……。



「ボクが……男に魅了された……!!!」



 今さらになって、自分が男に魅了されたという事実に耐えがたい屈辱感を覚える。カーッと頭に血が上っていくのをハッキリと感じる。体温が上がって、体から熱が出る。



 男性嫌いであるはずのボクが!


 同性以外には興味ないボクが!


 天覧高校の学園の王子様と称されるボクが!



 男に一瞬とは言え、魅了された。この事実を認めたくない。しかし、一度起きた事が無くなるわけがない。


 劔朝日、人生最大の屈辱だ……!


 だが、この怒りを御堂涼太なる男子生徒に向ける事がいかに理不尽であるかも理解している。彼が困っている女子を放って置けない、高潔な精神を持っている人物なら尚更だ。


 この怒りはどうにかして飲み込むしか無い。


 幸い、ボクが女装していたとはいえ、男の御堂涼太に魅了されたという事実は、ボクにしか知り得ない事だ。


 この学生証は神崎さんを助けた御堂涼太くんに敬意を表して、返すとしよう。彼に女装趣味があるという事実も、墓場まで持っていく所存だ。


 それで、今回の件は全て忘れるとしよう。






ーーーーーーーーーー






「中々見つからないな……」


 御堂涼太くんの学生証を拾ってから翌日、ボクは御堂涼太くんなる人物をひっそりと探していた。


 但し、天蘭高校でも有名と自負している学園の王子様たるボクが人を探していると噂になれば、すぐにその人物が誰かと追求が始まる恐れがある。


 そうなれば、御堂涼太くんが注目を浴び、下手をすれば、彼の女装趣味がバレるという事態に発展する可能性もある。


 だからこそ、御堂涼太くん探しは誰にも悟られる事なく、ひっそりと行う必要がある。


 個人的には、人生最大の屈辱感を味わった事もあり、別に御堂涼太くんに好感は持っていないが……。


 ボクが御堂涼太くんに配慮するのは、あくまで困っている女の子を助けたという事実に対する恩返しみたいなものだ。


「そう! 全ての女の子はボクの庇護対象! だから、御堂涼太くんに気を遣っているのは、引いてはボクの為という事さ!」


 誰もいない空き部屋で、一人ボクは孤独に叫ぶ。


「…………」


 いったい、ボクは誰に言い訳をしているんだ……。


 ハァ……。とにかく、早く学生証を御堂涼太くんに返すとしよう。それでこの件は解決だ。






ーーーーーーーーーー






 放課後、ボクは未だに御堂涼太くんの所在を掴めていなかった。捜索している事がバレるわけにはいかないとはいえ、一人で探すのは中々大変だ。こっそりという条件が付けば尚更だ。


「……仕方ないな」


 ボクは一旦、今日の捜索を諦めて演劇部の練習に行く事にした。もうすぐ、披露予定の演劇が控えているのだ。


 御堂涼太くんの捜索も大事だが、演劇の方もおろそかにする訳にはいかない。しかも、ボクはその演劇の主役の一人だ。


 演劇のメンバーに選ばれなかった部員やサポートしてくれている大道具などの人たちの為にも、完璧な演劇に仕上げなければならない。


 ボクは更衣室で演劇の衣装に着替えると、演劇部のみんなが待つ体育館へと急ぐ。


 しかし、体育館へと向かう途中、廊下の曲がり角で誰かとぶつかる。ぶつかった衝撃でバランスを崩し、尻餅をつく。


「すっ、すまない。急いでいたものだか……」


 言葉の途中で、ボクは息を呑む。


 ボクがぶつかった相手、それはボクが今日一日探し求めていた人物。


 御堂涼太くんだったからだ。


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