劔朝日の追憶
ボク、劔朝日は男性嫌いである。男性は視界に入れるのもイヤだし、出来るなら同じ空間にも居たくない。特に、男性に体を触れられた時は、身体中に鳥肌が立って吐き気が襲ってくる。
小さい頃はそんな事もなかったのだが、とある出来事を切っ掛けにして、男性嫌いの度合いは年々酷くなっている。しかし、それでも特に問題はなかったし、何よりボクの周囲には常に女の子達がいた。
女の子達との談話によって、人寂しさなんてものとも無縁だった。だから、ボクの人生にはコレからも男性など必要ないと思っているし、関わる事も一生無いと思っていた。
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自分が女の子にモテると自覚したのはいつからだっただろうか。小学生に上がる頃には、漠然と女の子にモテる事を自覚していたような気がする。女の子にモテる原因には、母も少なからず関わっていたと思う。
母は昔から舞台を見るのが好きだったらしい。特に好んでいたのが、女性が男装して演じる事で有名なとある有名歌劇団だった。歌劇団のファンだった母は、赤ちゃんの頃から私に男の子が着るようなボーイッシュな洋服を着せた。
子供の頃の私は、母が着せるボーイッシュな洋服にも特に疑問は感じなかったし、むしろスカートなんかより動きやすいと思っていた節まである。しかし、小学生に上がった頃から同学年の男子達からある事を言われるようになった。
「女の子なのに、男の子の格好してるなんて変なヤツ!」
小学生に上がり、一般的な性別観を身に付けだした男子たちの目には、女の子なのに男の子の服を着ている私は奇特に写ったのだろう。少なくない男子たちから、服装について揶揄われるようになった。
当然、揶揄われる事を嫌がった私は、母に普通の女の子みたいな服を着たいと伝えた。しかし、子供の戯言だとでも思っていたのか、母はマトモに取り合ってはくれなかった。日々、男子からの揶揄いに耐える私。
そんな揶揄いにも、小学生高学年になる頃にはすっかり慣れて、特に気にしなくなっていた。しかし、小学6年生の時に起こった、ある出来事によって私は完全に男性嫌いになった。
その出来事とは……。
私を揶揄っていた男子の一人から告白されたのだ。
確かに、小学6年生ともなれば、恋愛感情を理解し、異性のことが気になる年齢に差し掛かった頃だ。しかし、この時の私には自分に告白する男子の気持ちが理解できなかった。
どうして、昨日まで散々、「男おんな、男おんな」と揶揄っていた私に告白できるのか?
まったく理解できなかった。その瞬間から、私には目の前の男という生物が酷く醜いものに感じるようになった。
男と出来るだけ近くにいたくない!
そう強く思った私は、母を説得して中学からは女子校に通う事を決めた。幸い、母は女子校に通いたいという私の願いをすんなりと受け入れてくれた。私が行きたいと言う女子校には受験が必要だったが、男への拒絶感が私を突き動かし、見事合格を勝ち取る事ができた。
この頃から、私の一人称が私からボクへと変わった。
晴れて、女子校に通う事になったボク。女子しかいない女子校という環境は、ボクにとって天国に等しかった。
特に、中学から始めた演劇は最高と言えた。
中学生で既に、身長が180cm近くあったボクは、すぐに演劇で男性の役を任せられる事になった。その時演じた男性役の演技が評判を呼ぶと、ボクは演劇ではほとんど男性役を任命される事が多くなった。
ボクの演技に沸く女の子たち。同じ演劇部の部員からの「すごく良かったよ!」という賞賛の声。時には、偶然演劇を見てくれた舞台役者の人間からもお褒めの言葉を頂いた。
まさに、この世の春。中学時代はボクにとって、人生最良の日々と言えた。
しかし、高校に上がるというタイミングで問題に突き当たった。
演劇の才能があると色んな人間から持ち上げられたボクは、将来的に演劇の道に進む事を決めていた。だがしかし、残念な事にボクが通える範囲の女子校には、演劇部が存在しなかった。
何より、将来的に演劇の道に進むためにも、名のある人物からの指導が必要不可欠だった。故にボクは、中学を卒業した後は、共学の高校に通う事を余儀なくされた。
本心では、嫌で嫌でしょうがなかったが、これも将来の為と必死に耐えた。
高校に入ったボクは、指導に定評のある演劇部の顧問からの指導もあり、演技にかなり幅が出るようになった。最初はかなり嫌だった共学の高校での生活も、男子と出来るだけ関わらないようにと過ごせば、耐えられない事もなかった。
気付けばボクも、高校3年生になっていた。高校生活もあと一年。演劇の方も順調そのものだ。2年の文化祭の演劇の後、知り合ったとある劇団の座長から卒業したら、試行的に劇団の舞台に立ってみないかと誘われている。
ボクは大学に進学するから、大学生活との両立という事になるが、今は不安より楽しみが勝っている。この高校にも、思い入れというものができた。
あと少しだが、残りの高校生活を楽しもう。
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とある日の放課後。この日は珍しく、演劇部の練習が急遽中止になり、いつもより早めに家に帰る事になった。
帰宅途中、偶には帰り道を変えてみるかと気分転換にいつも通る道から少し外れた裏道に入ったボクは、男2人に絡まれて動けない女子生徒を見つける。
「あれは……神崎乃亜ちゃんだったかな?」
2年生の中ではかなりの有名人物だ。いや、天蘭高校内でと言い直すべきか。日本人離れした整った容姿は、同じ女性のボクが見ても感心するものがある。
しかし……。
「か弱い女の子が困っているというのに……誰も助けようとはしないなんて……」
男2人に絡まれている神崎乃亜は周囲にチラホラといる男に助けの視線を向ける。しかし、誰一人彼女と目線を合わせる者はいない。
ハァ……。本当に男ってヤツは……。
ボクは巻き込まれる事を恐れて、神崎乃亜に手を差し伸べない男に対して、失望のため息を漏らす。
しょうがない……。男が彼女を助けないというなら、ボクが助けようじゃないか……!
決心して、ボクは物陰から一歩を踏み出す。
しかし、その瞬間ーー
「あの〜、すみませ〜ん」
ーー1人の女子生徒が声を掛ける。
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