御堂涼太は選択する
「私と……友達になってくれませんか!」
お礼を言いたいという神崎の意思を尊重し、休日に神崎と会う事にした俺(女子形態)だったが、今現在、神崎から友達になろうと誘われてしまった。
「ハハハハハ……」
もちろん、お断りします! と本音では断りたいのだが、それはいくら何でも実行には移せない。もし、ここで断っても神崎が諦めてくれるか分からない。
何なら、便宜上は兄となっている男子形態の俺に相談に来るという事態も考えられる。それに、断としても、出来るだけ穏便な手段が個人的にも好ましい。
俺は積極的に人と関わりたくない。しかし、人と関わりたくないからといって、別に嫌われたいという訳ではないのだ。誰しも好き好んで人から嫌われたくはない。それは俺も例外ではない。
だから、俺がこの場で取るべき行動は如何に神崎を傷付けず、今後、神崎との関係をシャットアウトするかなのだが……。
俺は頭の中でシミュレートしてみる事にした。
《友達になる事を受け入れた場合》
「もちろん! こちらこそよろしくね、神崎さん!」
「ありがとう、嬉しいわ御堂さん!」
関係を積み重ねていく神崎と俺(女子形態)。二人の関係はいつからか友達から親友、親友から恋人へ……。
「私……今とっても幸せよ鈴……」
「私もよ……乃亜……」
二人は末永く、末永く幸せに暮らしたとさ……。
【百合エンド】
《友達になる事を断った場合》
「ごめんなさい、神崎さん! アナタとは友達になれません!」
「そんな、どうして!? 理由を教えて!」
「……ごめんなさい、さようなら!」
「あっ……待って御堂さーーん!」
後日。
どうして友達になれないか神崎に相談される男子形態の俺。
↓
校内で突き刺さる殺意のこもった男子からの視線。
↓
ファンクラブ[K3]の過激派が凶行に走る。
↓
降りかかる凶刃。俺、弱冠17歳で死亡。
【死亡エンド】
うむうむ。受け入れれば見事、百合ップル誕生。断れば、見知らぬ生徒の凶刃に倒れて死亡エンド。
ふむふむ。これはどっちを選ぶか迷いますなぁ……ってんな訳あるかっ!
自分の妄想力に呆れるぜ。受け入れれば、友達にはなるが、百合展開に発展するわけはない。
断れば、相談くらいはされるだろうが、流石に恨みを買った男子から刺されたりはしないだろう……。えっ、ホントに刺されないよね?
正直、百合展開に発展するよりは全然、現実的にあり得そうで怖い。それほどまでに、最近のK3過激派の俺に対する恨みは酷い。実は、つい先日も大量の脅迫状・不幸の手紙・その他etc……を貰ったばかりである。
数え切れない程の紙の量は、それだけ俺に対する恨みの深さを知る事ができた。そんなに紙を無駄遣いするくらいだったら、病気の子供に折り鶴でも折ってあげてはどうだろうか?
このまま、いたずらに紙を消費すれば、切り倒された木々が可哀想ではないか! 環境破壊まっしぐらである。
閑話休題。
とにかく、俺はこの場で神崎と友達になる事を受け入れるかどうか、決断する必要がある。
うーん。断った場合、男子形態の俺まで事態が波及し得る事を考えれば、ここで友達になる事を受け入れてしまってもいいか?
友達になるといっても、現実問題、女子形態の俺が神崎と接触できるのは放課後と休日だけ。神崎と接する時間は少ない。頭を悩まされるのも、神崎一人だけだ。
友達になる事を断った場合だと、学校にいる間は男子から目の敵にされ、オマケに神崎が相談のために俺に接触する度に俺の命が脅かされる危険性が無きにしも非ず。
たとえ、命までは取られなくても、K3過激派からリンチに遭って、ボコボコにされる事は普通に考えられるしな。
友達に……なった方が被害は少ないか?
ん? それによく考えれば、友達になっても特に問題なくないか。友達と言っても仲が悪くなったり、喧嘩して友達を辞めるというよくあるイベントに神崎を誘い込めば、自然と友達関係が解消されるかもしれない。
うむ、そうしよう!
神崎には悪いが、友達になった後は、俺(女子形態)が神崎に嫌われるような行動を取って幻滅してもらう、からの友達関係も自然消滅。
これが現状、一番最善な解決方法だ! そうと決まれば、行動に移そう!
俺は不安そうに返事を待つ神崎の目をまっすぐ見つめて、真剣に返事を告げる。
「もちろん! こちらこそよろしくね、神崎さん!」
脳内シミュレート通りの返答である。しかし、現実の神崎は脳内シミュレートのように「ありがとう、嬉しいわ御堂さん!」と答えてはくれない。
「〜〜〜〜〜〜ッ!」
俺の返答を聞いた神崎は、体をギュッと縮こまらせ、ブルブルと震えている。その表情は俯いてるため、伺う事はできない。
かっ、神崎さん……? あの……返答は?
「とっ………………ても嬉しいわ! こちらこそよろしくお願いします、御堂鈴さん!」
溜めに溜めて、神崎は一息で了承の言葉を言い切る。
ふぅ……。
ジッと黙っていたから少し心配になったが、どうやら喜びのあまり震えていただけらしい。そこまで喜ばれると、嫌な気持ちはしない。この後、嫌われるように行動する事を考えると罪悪感があるが……。
「それじゃ、神崎さん。また学校でね!」
このままいけば、この後、遊びにでも誘われそうだ。それは正直、避けたい。大して動いたわけではないが今日は疲れたし、家で嫌われる為の作戦を練りたい。先手を取って、今日は帰るって事を伝えないと。
「うっ、うん。また学校でね……」
まぁ、学校で女子形態の俺に会えるわけが無いのだが……。
俺が帰ろうと足を一歩下げた時、不意に腕を掴まれる。掴んだ相手は当然、神崎だ。
「まっ、待って、御堂さん……! あとひとつだけ、今日アナタに頼みたい事があるの?」
はて、頼みと?
「頼みって何かな、神崎さん?」
「私のこと……下の名前で呼んでほしいの!」
どんな願いが飛び出すかと構えていたが、下の名前で呼んで欲しいだけか……。まぁ、それくらいなら……。
「もちろん良いよ、乃亜ちゃん!」
「〜〜〜〜〜ッ!」
俺に下の名前で呼ばれた神崎は、これまた体を震わせて喜んでいる。神崎……ホントに感情をよく出すようになったな……。
「あっ、ありがとう……えーっと……鈴ちゃん」
神崎は恥ずかしそうにしながらも、女子形態の俺の名前を呼ぶ。
「こっちこそ、今日は乃亜ちゃんに会えてよかったよ!」
「ッ!」
乃亜ちゃんと俺が呼ぶ度、神崎はビクッと震えた後、にへら〜と笑う。神崎さん……口元がだらしなく緩んでますよ。
「もっ、もう一回……乃亜ちゃんって呼んでくれる?」
「うん! 乃亜ちゃん!」
「フヘ……フヘヘへへ……もう一回!」
「乃亜ちゃん!」
「フヘヘへへ……もっ、もう一回!」
「乃亜ちゃん!」
「フヘヘへへ……」
「乃亜ちゃん!」
「フヘヘへへ……」
「乃亜ちゃん!」
「フヘヘへへ……」
結局、30分ほど、乃亜ちゃん! と呼ぶ事になった。途中から、俺もハイになって続けてしまったが、駅前では大変な注目を浴びてしまった。
穴があったら入りたい……。
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