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植物ハカセな君と  作者: 岡 北海
第一章 2年生編
6/9




「はっ、はぁ、はぁ。」


今は何時だろう。窓からは高い位置に上った月の明かりが差し込んでいる。

体を動かすと、制服姿のままだ。

入浴もせずに長時間寝ていた不快感がある。

ひどく喉が渇いていた。


どうしよう。どうしようもなく怖い。

正体不明の不安がリアナを襲っていた。

とにかく誰か自分以外の動いている人に会いたくなる。

隣の部屋にノックしに行こうか。


リアナがふらりと立ち上がった時だった。


「リアナ。」

「!」

「リアナ、おいで。」

「クラウス……?どうしてここに?」

「さあ、ここにおいで。」


リアナの部屋に制服姿のクラウスがいた。初めて名前を呼ばれた気がする。

鍵がかかっていたはずなのにどうやって入ってきたんだろう。

しかもこんな時間に。


しかし、そんな事どうでもよくなるくらい、リアナは誰かにすがりたかった。

クラウスは見たことのない優しい顔と声音で、両手を広げて自分を待っている。


「クラウス、私っ、」


その長い腕に縋りつこうとしたとき、クラウスは離れて行ってしまう。


「ど、どうして。」

「ははっ、こっちに来るんだ。リアナ。」


クラウスは笑みを絶やさぬまま、部屋を出て行ってしまった。


「待って!置いてかないで!」


リアナも部屋を飛び出した。


ふわふわとどこかに行ってしまうクラウスを、リアナは必死に追った。

手を伸ばせば届きそうなのに、なかなか追いつけない。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、」


動悸が激しい。どれだけ息を吸っても苦しい。

今までの睡眠不足の結果が、全て頭痛になって襲い掛かってきている感じがした。


「クラウス、クラウスどこ?」

「リアナ、ここだ。」


声がする方を見ると、ロープで囲まれた白い花の近くにクラウスが立っていた。

リアナはようやく、自分が中庭まで来ていたことに気づいた。


「クラウス、そんなところで何してるの?」

「リアナもおいで。」


彼は白い花を一輪摘むと、口づけするみたいに香りをかいだ。

その白い花が、強烈に魅力的なものに見えた。

自分も欲しくてたまらなくなる。


ふらふらとリアナも白い花に近づき、ロープをくぐると、一輪とって深く息を吸い込んだ。

すると、ずっと音が鳴ってる頭の痛みや、倦怠感、絶望感、不安が、嘘みたいに無くなった。


「なに、これ。」

「いい気分だろう。まだ沢山ある。」


クラウスは花の蜜みたいに甘い微笑みで白い花束を渡してきた。

受け取ったリアナは、無我夢中で香りを吸い込んだ。

すごい。嗅げばかぐほど力があふれてくる。幸せを感じる。怖いことなんてなくなる。黒いものもどこかに去っていく。

もぐもぐと花弁を口に頬張る。

もっと、もっと欲しい。


不安が再び襲ってくることに怯えて、リアナは一心不乱に花を貪った。





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「うっ、うぐっ、」

「そうだ、全部吐いて。」


ここはどこだ。

口の中に何か長いものが入っている。

顔中がべちゃべちゃな感覚がする。涙と鼻水だろうか。

舌の奥を刺激されて、嘔吐感がせりあがってきた。


「う゛っ、おぇっ、」

「だいぶ吐けたな。」


誰かに背中をさすられている。

服越しに手のひらの温かさがしみてきて、リアナは泣きそうになった。


「立てるか……無理そうだな。」


ジャーっと流水音が聞こえた後、リアナの体はふわっと浮いた。


「うっ、ふぐっ、うぅ、」


自分は泣いているんだろうか。

自分のことなのにどこか他人事のようにリアナは思った。

情けなくて、死にたくなった。

今すぐこの腕から落としてくれないだろうか。


そんな願いも空しく、リアナを抱き上げる腕はしっかりと抱えて離さなかった。




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