ロビィと火山地帯のなかまたち!
澄ました顔の女が、ジト目で崖の上に佇んでいた。
身長175、あるいは4500ほど。きりとした美人だが、幼さを残した可愛い顔立ち。
ただ、その表情だけが、過ぎるほど穏やかに凪いでいた。
左で分けた前髪は2切れの巨大真だこ刺し、頭頂部から垂らされた横髪は長くスライスされたはまち、後頭部の右側には巨大な1貫の蒸しえび握りが肩に尻尾を垂らすように斜めに固定されており、後頭部そのものはゴツみの少ない巨大なひとつの唐揚げだ。
たくさんのまつ毛は白く透き通り、刃物のように鋭い灰色のジト目を飾っている。また、耳は長細く尖っている。
鼻は尖らず、閉じられた口と同じく少な目なサイズ。
服はまとわず、全裸のまま。代わりに控えめに膨らんだ胸から、わき腹、そして下半身のほとんどを宇宙模様に染めていた。
さらに両手の中ほどから指先までも宇宙に染めて、それらは(当然、体の方も)塗装ではなく、常にとりどりの星がチカつき、瞬いて色を変えている。
また、胸と両二の腕に巻かれるように、透き通った長い槍いかの刺し身が横断している。
そのため、頭のえび尻尾が剥き出しの丸い肩にかかるように、尖ったいかの身端も腕後方から垂らされている。
足にはいた口の広いベルト付きのアンクルブーツには、艶々とした赤いイクラが溢れんばかりに乗っかっている。
そんなふうな風体をした、彼女はロブリン天体繰り。
愛称ロビィの、人の形をした宇宙と寿司ネタのハーフだ。
ロビィは崖の岩に片足を乗せて、膝に頬杖を突いて、こう言った。
「ここまでは、ただの外見描写だから。次からは読み飛ばしていいわよ」
「というわけで、こんにちは。銀河にキラつく、いちばん星。強くて可愛いロビィちゃんでーす」
「うぉおお~! 死ね、ロビィ~!」
猛吹雪の嵐中、宙高く跳んだまま額ピースをきめるロビィ。
その真下から風と雪の壁をブチ破って、超巨大白熊のΣフイガロがキバ剥き出しで現れた。
フイガロのキバは、サーベル牙。フイガロの爪は、鋭く伸びた針とげ山。
凶悪な赤い目と、図体に合わぬ細い頭。彼はハテノ銀河でも特段危険な、SSランクのマッシブ・モンスターである。
ロビィは少しだけ目をキッとさせ、真面目に背後のフイガロを睨んだ。
山のようなフイガロは、今まさに頂上の顔を、超特急で迫らせている。
ロビィは急いでビーム天体を練り、空中で反転、フイガロに向き直りながら両手を広げた。
「太陽閃熱!」
「うああ~! ま、眩しい! 目があ、目があ~っ!」
「フイガロ。目潰しからの奇襲は、あなただけの特権ではない!」
放たれた熱線に顔を焼かれ、ギガンディッククローで顔を覆って悶えるフイガロ。
その隙にロビィはくるくる、くるくる、空中回転。雪の原に着地すると同時に、右拳を腰に引き、立ち上がり振り向きざまに平手を突き出す。
ようやくフイガロが目を開くと、ロビィの必殺パンチが彼の体を貫いた。
「メーサレスパンチ!」
「うごあ~っ!? たかがチビのパンチが、オレの巨体に風穴を開けるとは!」
ボッコォオン! 繰り出された正拳突きが、フイガロの太い腹を大穴に貫く。
フイガロが慌ててるうちに、ロビィは両手で大きく円を描き、それから片手を伸ばして小太刀をひと振り取り上げた。
ヒュンヒュン、ヒュンヒュンと風切り音。
きらめく刃がロビィの手を中心に、まるで風車のように回る。
「名づけて、サレスブレード! ハッ!」
「うう……ひ、酷い目にあったぜ──はっ?」
逆手に構えた太刀を装備して、棒立ちのフイガロへ突撃するロビィ。
彼女がフイガロの背後に到達した時、フイガロの首がボトリと落ちた。
「ん……? うわわわ~! 首が、オレの首が落ちた~!」
「フンッ! 天体技法で終わらせましょう!」
すぐさまロビィはフイガロへ向き直り、体を後ろにひねってビームを溜める。
そして振り向きざまにビームをまとった両手を組んで、
「コスモアーツ太陽紅炎!」
「うぎゃがががががっ!? どわ~……!」
放たれた必殺プロミネンスが、巨大シロクマを撃ち抜いた。
爆発白煙に砕かれて、切れ端が飛び散るΣフイガロ。組んだ手を解いて、仕事終わりとばかりに足を伸ばすロビィ。
フイガロの死に伴い、雪の嵐も止んでいく。消えかけの風の壁、それを割るようにして、
「──うお~! おれは流浪のオステウスビニア! 先祖の無念を今ここで晴らす!」
「な……何っ!? クッ」
「死に晒せロビィ~! ロングノーズビーム!」
突然、現れた甲冑多眼魚人オステウスビニア。彼の開いた剣山のような口から、恐ろしいトラバサミを備えたビームが吐き出された。
とっさにロビィは両手を広げて、バリアをはった。
「ロブリンバーリア!」
「ムダだ~! わがロングノーズビームは、獲物に着弾するまで威力を増す! ビーム対決など、思うツボでしかないのだぞ~!」
展開された透明な板にトラバサミビームが直撃して、激しいスパークを撒き散らす。
火花は徐々に力を増し、ついにビームバリアが砕かれた。
爆発。
着地したビニアが、トゲまみれの鎧を揺らして、あざ笑う。
「は~っはっはっは! これにてロブリン、敗れたり。はっははは……」
「甘~い! よく見ろ、ビニア! 砕け散ったのはロブリンにあらず」
「……な、何だとっ!?」
顎を持ち上げて笑っていると、雪の夜月に影がかかる。
鳥か? 雲か? いや、ロビィだ!
「ミーティアバスター! 彗星キィイーック!」
「おのれ、バリアは跳んで逃げるための囮か! し、しまっ──」
怯んだビニアは構える暇もなく、飛来した隕石に貫かれた。
爆発を背にして、片膝をついて着地するロビィ。端を紅に彩られた彼女の目が、
「……ん? えっ、」
「──ギェー……ン」
風の隙間を裂く、何か小さな鳥をとらえた。
フイガロが死んで、雪原が解除される。辺りはたちまち、ベリージャ火山地帯の様相をなす。
火山灰と黒岩の台地。溶岩の川の上空を、超巨大ペリカン、嘴怪鳥アルガドラーザが羽ばたいていた。
血走った彼の目は遥か上空、宇宙こえて地球へと向けられている。慌てたロビィは、尾を引き飛ぶガドラーザを追いかけた。
「ひょええ~! 寒い寒い寒い寒い~!」
「クッ。何て速さ……! 第三宇宙速度を使っても、なお追いつけない!」
すぐに2人は銀河を抜け、広大な外宇宙へ躍りでる。ロビィの限界ギリギリのスピードを超えて、アルガドラーザは遥か太陽系へ爆進する。
このままじゃ、いけない。ロビィは内心、冷や汗をかいた。
アルガドラーザは火山の住民であるため、その体温は約60000度。もしも彼が小さく脆い地球に降り立っては、恐ろしい被害に繋がるだろう。
「止まれ~! 止まりなさい、アルガドラーザ!」
「寒いぃ~! 引っ越し引っ越し、引っ越しいいい~!」
クチバシをガタつかせ、何度も凍りついては、まったくスピードを緩めずに地球へ向かうアルガドラーザ。雪と寒さに襲われてパニックを起こしたため、完全に冷静さを失っている。
ついに遠く、小さな銀河系が見えてきた。
いよいよロビィは大慌て。
「やむを得ないわ。許して頂戴、アルガドラーザ」
「寒い──ガキーン! 早く──ゴチーン! うわわわわわ、引っ越しををを~!」
「レクトルージョン『切り離す』」
ザキン! と虚空の斬撃音。たちまち通常時間の流れから、ロビィの体が切り離される。
動きが緩やかになるほどに、通常速度に取り残されたアルガドラーザが、またも激しく凍てついていく。
彼の前まで飛びついたロビィが足を振り上げると、彼女の体に時間の波が再び絡みついた。
「──えっ、うわわわ~! ロビィ!?」
「魚卵散弾!」
「そこをどけ、ロビィ~! ぐわわわわ、ぎゃあ~っ!」
蹴りに伴って発射される、イクラの散弾銃。それが、考えなしに突撃したガドラーザの体を何度も何度も打ちすえる。
宙空でのたうつガドラーザへロビィは素早く接近し、長い嘴をそっと撫でた。
「サイン。アストロラーベ」
「ぐええ~……どけよ、ロビィ……早く引っ越さないと、オレは、」
「数え唄メロウ」
「ガクンッ! ぐ──……」
クチバシを垂らし、頭をさげて、ガドラーザは眠りに落ちた。彼の体が本来の体温を取り戻し、まとわりついた氷が溶け出す。
ロビィは我が子にそうするように、そっと彼から離れて、
「終わりなさい、ガドラーザ!」
「ぐー。フゴッ」
「崩壊星収縮終焉!」
「ぐぎががぎご……」
歯ぎしりをするガドラーザへ、黒い禍つ星を発射した。
星は、すぐに肥大してガドラーザを飲み込み、再び小さくなって潰れて消える。
ガドラーザも消えた。
彼が再び目を覚ますのは、明日の故郷火山地帯だろう。
彼を生かして帰せなかったのは、己自身の未熟のためだ。
ロビィは渋い顔で、空を見つめた。