お姉ちゃんは普通嫌い
私の名前は佐藤絵美と言います。ありふれた名前ですよね?佐藤という名字は日本で一番多い、という事をテレビで見た私のお姉ちゃんが最近、中学二年生に進級早々おかしくなり始めました。
私とお姉ちゃんの見た目は小さい頃からよく似ていると言われてきました。黒髪のセミロングに標準的な体型。私は結構この姿が気に入っているので今までイメチェンをした事がありません。お姉ちゃんは髪を伸ばし、金髪に染め上げ、縦ロールなるものを引っさげています。食事制限やトレーニングもはじめだし、すらりとした体型をも持ち始めました。
努力することは良い事です。常におしゃれに気を使っているお姉ちゃんを見てそう思います。でも動機がおかしいのです。好きな人が出来たとかそのような事ではありません。
普通が嫌なのらしいのです。
お姉ちゃんはよく高笑いをする子になりました。口癖はおーっほっほっほです。お嬢様です。どこからどうみてもお嬢様なのです。
常に扇子を携帯しています。携帯電話ではなく扇子です。センスがいいですねなんて。
お姉ちゃんの資金源がわかりません。聞いた所男に貢がせているそうです。嘘です。絶対嘘なのです。そんな性格ではありません。外見は変えられても内面だけはすぐに変えられるはずは決してありません。
ドレスを着て学校に登校して来ました。ヒラヒラフリルのシャンデリア。もうお嬢様なのか不良なのかわかりかねます。普通な私にはわからないのですよ。
学問の成績の順位が上位に食い込み始めました。平均点を上回るぐらいだったあのお姉ちゃんがですよ。一位が取れなくて悔しいようで白のハンカチの端っこを噛んでキーッと叫んでいます。
ただ、体育の成績が悪いです。ドレスなので。
わからないことばかりの存在、私のお姉ちゃんですが、ついに改名してきました。成城と書いてせいじょうと読むそうです。正常じゃねーよ。だれか清浄してあげてください。
ノックをせずにお姉ちゃんの部屋に突入しましたら一人で社交ダンスの練習をしていました。顔を赤らめました。涙も浮かんでいます。お姉ちゃんは普通なんだから無理しないで下さい。
いつもいつも変わらなかった日常がお姉ちゃんのおかげで変わってゆく。ただ痛いです。痛すぎるのです。お姉ちゃんの行動が。うふふ
お姉ちゃんがノックをせずに私の部屋に入って来ました私はとっさにノートを閉じますですがお姉ちゃんに見咎められました大変です
「何してるの絵美」
お姉ちゃんこそ常識外れな行動は慎んで下さいよ普通の癖に
「見せなさい」
止めて下さい見ないで下さい駄目です駄目です駄目です駄目ーー。
残念ながらノートを取られてしまいました。私の唯一の楽しみが。普通じゃないーー
普通じゃない“私”の普通じゃない趣味を取らないでくださいまし。
「また、こんな物を。絵美は」
「普通じゃ、ない?」
「……」
たじろいでいます。たじろいでいます。私は続けます。
「普通のお姉ちゃんにはわからない。普通になりたいのに。普通になれないの私は。普通に見せようと似せようと努力しても。姿形に声に性格全部同じ。双子の私達。みんなの言う見分け方。普通がお姉ちゃん。おかしいが私。同じなのに、どこか違う。わからないのに、わかってしまう。会う人会う人に私は普通じゃないと言われる。絵美エミ笑み、私は笑ってごまかす」
手を差しだす私。
「せめて物語の中では普通で居させて?ね?おねーちゃん♪」
「……私のせいだよね」
お姉ちゃんが悲しそうに俯きました。え?何故です。お姉ちゃんは普通にしているだけだから何も悪くはないですよ。
「私が普通だからーーううん、“何もしないから”絵美がこんなにも苦しんでーー」
だーかーらー。悪いのはおかしい全部私。
「物心ついたときからずっと絵美は苦しんでた」
お姉ちゃんは私の普通妄想ノートを握り締めています。ちょ。止めて下さいよそれまだ新品ーー
「私は明日からこのノートの通りになる」
ーーえ、あれ、今よく聞こえなかったんですが普通の事言ったんですよね?
お姉ちゃんが次の日からおかしくなり始めました。
お姉ちゃんは髪を伸ばし金髪に染め上げ縦ロールなるものを引っさげています。食事制限やトレーニングもはじめだし体調を崩し始めました。
お姉ちゃんはよく高笑いをする子になりました。口癖はおーっほっほっほです。痛い人です。どこからどうみても痛い人なのです。
常に扇子を携帯しています。携帯電話ではなく扇子です。センスが悪いですね。
資金源がわかりません。
ドレスを着て学校に登校して来ました。ヒラヒラフリルのシャンデリア。不良です。普通でない私にもわかります。
学問の成績の順位が下位に食い込み始めました。平均点を上回るぐらいだったあのお姉ちゃんがですよ。無理のし過ぎです。
体育の成績も悪いです。ドレスなので。
わからないことばかりの存在の私、のお姉ちゃんですが、ついに改名してきました。成城と書いてせいじょうと読むそうです。正常ですから。だれも清浄しないであげてください。
ノックをせずにお姉ちゃんの部屋に突入しましたら一人で泣いていました。顔が赤いです。涙も浮かんでいます。お姉ちゃんは普通なんだから無理しないで下さい。
いつもいつも変わらなかった日常がお姉ちゃんのおかげで変わってゆく。ただ痛いです。痛すぎるのです。私の心が。うふふ……ふふ……ふ……もう止めてよぉお姉ちゃん……。
人は普通ではない、おかしい人間を弾いていく。皆の調和を保つために。自らの調和を保つために。私は元から弾かれていた。だからどうって事ない。むしろこちらが普通の日常だ。私のお姉ちゃんは途中から弾かれた。日常が変わってしまった。耐えられるはずがない。普通の子なのだから。ましてや原因が私のねじ曲がった性格の矯正をしようとしての行動なのに私は変わっていないしお姉ちゃんが苦痛を感じるだけなのだから全くもって救われない。
馬鹿なお姉ちゃんだ。馬鹿。馬鹿なのに。嘘。普通なんだからわかってんだろ。こんな事しても何にも改善される事はないって事。いい加減にしろよ。いい加減にして。いい加減にして下さい。
今度は私が変わらなきゃならないじゃないですか。
私のクラスにはお姉ちゃん並みに普通に見える人が居る。その人物は常成静という人だ。クラス内で唯一、演劇部に所属していて、随一の天才演劇部員と呼ばれている人だ。何故なら演劇部は部員数が少なく、本来ならば登場人物の少ない簡単な演劇しかできないところを、この人が準主役から脇役といった様々な役を演じることで壮大な舞台を成立させているのだ。
もちろん演じる役全てに手抜かりがなく、演劇終了後の舞台挨拶で役と名前の紹介が行われるまで一人が多数の人間を演じていたことなど初めてうちの学校の演劇を見た人は気づかない。実は部員が少なかった事に驚かされる。それ程に常成静の演技力、変装術、メイク技術がずば抜けているのだ。
……ここまで説明すれば後はわかりますよね。お姉ちゃんほどの普通人間は世界にそう何人もいるはずがないのです。凄い人なのに普段は普通に見える。もう決まったようなものです。
私は演劇部に入部して常成静さんに弟子入りをします。
ごくすんなりと入部していた文芸部の退部を承認してもらい、そのまま演劇部へと突撃いたしました。元々部員が少なかったので歓迎いたされました。
まずは皆さんの演劇練習を観察することが基本となります。様々な役になりきって多種多様な側面を見せる人達。やはり常成静さんが演じる役に一番違和感がないです。一体何者なのですかあなたは。
意外と早く私も練習に参加させてもらえるようになりました。なっただけです。なりきれません。失敗も何もないのです。私が演じる役全てに違和感が出る。当たり前です普通にしてても出るのですから。他の方々は私への指導を行う事が出来ません。何がおかしいのかわからないのですから。常成静さんだけは何やら考え込んでいる様子でしたが結局私に対して口をきく事はありませんでした。
私はそれでも滞在し続けました。違和感が見られようと違和感で見られようと気にすることはありません。皆も見て見ぬふりをしてくれています。いえ一人だけ、下手くそな私の演技を睨み付けている人が居ました。おそらく三年生の演劇部の方かと思われます。気の強そうな方でした。
演劇部の活動を終えて帰宅準備をしていた私は、その人に呼び止められ、体育館倉庫内に連れて来られました。
怖いです。怖いです。怖いです。
体育館には誰もおらず、体育館倉庫には私とその方の二人だけです。
「あんたさ、わかってんだろ」
トゲのように生えそろう無造作な髪のその人は私の心をずぐずぐと刺してきます。
「単刀直入に言うぞ?こっちは迷惑なんだよ。俺たちはな、確かに少人数の演劇部だよ。出来ることなら常成の負担を減らしてあげてぇから、部員が増えたら嬉しいよ。でもなぁ、中途半端なヤツに入って来られてもウチは混乱するだけ。邪魔なの。わかんだろ?普通じゃないんだよ、あんた」
すわった目をしたその人は私との距離を詰めて来ます。私は後ずさります。積まれたマットの山がそれを阻みます。その人は私の左右の逃げ場を奪うように両腕を突き出してマットを掴みます。身動きも、逃げも、助けを呼ぶことも、出来ません。怖、い、の、です。
「だからさぁ」
あたたかい息がかかってきます。思わず身をすくめます。目もぎゅっとつぶります。体が恐怖で動きません。
「止めて欲しいんだよね、部活」
おそるおそる開いた目の先には瞳が。
黒い黒い瞳が私の瞳を睨みつけていました。
断ったら、どうなるかわかんだろ?……と。
「……嫌…………です」
どうして私はそんな事を言ったのでしょう。何故私はそのような事を言ったのでしょうか。お姉ちゃんのため?自分のため?いえ、違います。わかりません。わからない。でも言わなきゃならなかった。言わなきゃ何も変わらないと思ったから。簡単に変わるものじゃないけれど。残りに残った私の普通の部分がそうさせた。
私は自らの視線をその人と相対させます。
「今なんつった?」
「嫌です」
「調子乗ってんのかテメェ?どうなるかわかってんの」
「わかってはいます。でも断ります」
「言っとくけどお前が加害者なんだからな?」
「周りの空気をぶち壊してでも私は普通を演じられるようになりたいのです」
「……普通?何言ってんの」
「私は双子の妹なのですがお姉ちゃんが性格の歪んだ私を更正させようとお嬢様になりました」
「…………」
「別に私自身が周りにどう思われようがかまいません。もうとっくに慣れています。性格を歪めましたから。ですがお姉ちゃんがそれを許しません。私にまともになって欲しいと、私の普通になりたいという願いを叶えようと、必死に身を削ってまで頑張っています。応えなければなりません。普通じゃない私でも妹、お姉ちゃんの妹なのですから」
ついついいつもの語り癖が出てしまいました。その人は呆れているのか一言も発することがありません。
「……なんて冗長な台詞をたれましたが、あなたには関係のない話ですよね。姉妹間の問題ですので。迷惑ですよね。そうですね、もうちょっと演劇部の活動を頑張らせて下さい。常成さんに普通の演じ方を教えて貰おうと入部したので、一通り教えて貰えましたら、退部いたしたいと思います」
「…………」
……何か考えこんでいるようです。というかさっきから同じ体勢のままです。密着し続けています。……はっ!!……まさかっ!
「私に惚れたんですね!?」
「なんでやねん!!」
その子はすかさず手を引っ込めたのち、驚愕の表情でタイミングよく突っ込みを入れてくれました。うん?あれ?というかこの声はーー
「あっ……しまったついつい」
愉快な常成さんでした。
「うん、大体わかった。そうゆう事か」
うんうん頷く常成さん。カツラを取ってメイクを拭き取ったその姿は紛れもなく常成さんでした。なんでやねん。ねん。
「言う前にわかったのですか?私が常成さんに弟子入りをしたいという事を」
「へ?弟子入り?いやいや、知らないよ、そんなの。というか私は弟子はとらん」
「流石は巨匠、おっしゃる事が違います」
「ふぉっふぉっふぉっ。くるしゅうないくるしゅうない。じゃなくて」
常成さんはパントマイムで空間を四角に切り取りどっかに投げ捨てました。
「あなたとあなたのお姉ちゃんーー絵美と美恵と私は同じクラスじゃん。普通の美恵が突然お嬢様になっててびっくりしたわよ。そんで絵美が演劇部に入部、もとい荒らしにきて一体この姉妹には何が起きたのかと。やー、ようやくつっかえが取れたよ」
「……ぐすん……」
「……ごめん謝るから。ごめん。泣かないで、酷い事言ってごめん」
「じゃあ是非弟子に」
「嘘泣きか!!」
「やだなあ、そんなわけないじゃないですか。これはお姉ちゃんの涙です」
「なんで絵美の瞳から!?」
「双子ですから」
「双子にそんな能力がッ!?」
「ふざけてないでそろそろ真面目に話しましょう」
「それもそうね」
二人で近くに詰まれたマットに腰掛けました。ホコリっぽいですが目をつむります。鼻がつまります。くしゅん。
「で、あなたは普通になりたいわけ?」
「はい」
「そんな必要ないと思うけど」
「と言いますと」
「普通じゃないっていうのはあくまで他人の評価でしょ?その他人が言う普通じゃないっていうのはその普通じゃない人にとっては普通なんだから変えるのも悩むのも必要ないって事。それとも絵美は誰から見られても普通だと言われなきゃならない事情でもあるの?」
「……ありません」
私は何がしたかったんだろう。悔しかっただけなんだろう。お姉ちゃんばかり優遇されて私がないがしろにされて悔しがったんだろう。いつのまにか目的に、普通に捕らわれていた。
「あ……いやー、ってもこれは私の経験した普通論であって一般論でも何でもないから気にしないでね。それに絵美が決める事だから。いいよ。普通に振る舞えるようになりたいのなら協力したげる。別に弟子になんなくても、友達のままで、付き合ってあげるよっ」
常成さんは優しい人でした。こんな私でも……普通だと、友達だと、そうであるんだと言ってくれました。私は、その優しさに甘えます。重ね重ねご面倒をお掛けします。
「お姉ちゃんを……助けて下さい」
「いよっし!この常成静様にまっかせっなさ~い」
ありがとう。常成さんに。お姉ちゃんに。巡り合わせに。ありがとう。
問題はあっけなく片づきました。問題というのは、他人からのお姉ちゃんの評価が最低になった事についてです。ドレスを着て、お嬢様口調で、明らかに無理をして、演じているお姉ちゃん。他人からの、クラスからの評価は最悪です。何故ならそれは異常、普通ではないからです。常成さんのとった行動、それは、クラスのお姉ちゃん以外の女子も普通じゃない異常な人達に仕立て上げてしまったことです。女子からすれば、自分達がそうなのだからお姉ちゃんを気にしない。男子からすれば、ただ少しお姉ちゃんが早くおかしい人物になっただけで、現状ではクラスの大半の女子がおかしくなったおかげで気にする事が馬鹿らしくなってしまいましたとさ。
ちなみに大半というのは常成さんが数人の女子には演説を行わなかったからです。それは現状がベストだったり、危険思想の持ち主だったり、そのうち目覚めるだろう人達だそうです。
あ、どうやったのかは聞かないで下さい。私もよくわかりませんから。常成さんの演説を聞いていたら、いえ、“演”説を見ていたら、そうなる事がとても魅力的に思えてしまったからです。もう皆さん本性というか本能爆発です。なんちゃって。
数日後。演劇部の活動を終え、常成さんと二人きりになった帰り道でのことです。
「エミエミ~、いいねいいね~、大分演技力が上がってきたよっ」
「そうですか?ありがとう御座います。常成さん」
「……んー。……姫。そろそろ敬語を止めては頂けないだろうか」
「なりませんわ。あなたは私の恩人。尊敬に値する人物ですもの」
「しかし……姫……拙者と姫の間には地位と権力と財力と富と名声と秋の空と……」
「なんか同じこと二回言ったうえに関係ないしよくわからないものが混じっていましたが」
「実際どれも私の方が上回ってるしね」
「失礼な。秋の空は負けませんよ」
「そこに食いつくかっ!?なら私だって負けないぜ!」
「話が脱線していますよ」
「エミのツッコミのタイミングが未だに掴めん……もう少し後にして欲しいな……」
「うん、ごめんね、静」
「いやまあ個人差あるしね……ん!さり気ないな!今さり気なく私の名前を!?」
「……そういう事は恥ずかしいから露骨に指摘しないで欲しいな……」
「ですよねー」
常成さん、もとい静は目を細めて誤魔化すようにそっぽを向きました。私がさり気なく敬語を止めたことは指摘しませんでした。優しすぎますよ、もう。
「あ、そういえばエミのお姉ちゃん、美恵の様子は、どう?」
静は話題を変えて話しかけてくれました。というかそれが本題ですけれども、ね。
「うん、大丈夫。ドレスは親戚に返したし、明日には制服で登校してくるよ」
「流石に服装を変えるのは学校的にまずいからね。なら、いいんだけど。……髪の色と形状はうちの学校は自由だけど……あなたのお姉ちゃんはまだお嬢様を続ける気なの?」
「そうみたいだよ」
「うーん……適材適所で考えると、美恵のキャラは普通が一番似合ってると思うし、お嬢様キャラはうちらのクラスに適役がいるんだけどなぁ……まあそっちは別にいっか。その人委員長キャラ目指したいらしいし」
「……もしかしたら、お姉ちゃんは。お嬢様を止めたら、おかしいを止めたら、私がまた傷つくと思ってまだ続けようとしてるんじゃ……」
「それはまあ、本人に聞いてみることだね」
そして、私は、自宅に、着いて。
ーーなによりも、先に、お姉ちゃんの、部屋に、向かいました。
お姉ちゃんの部屋をノックします。どうぞ、と声がかかります。ドアを開けると、あの頃の、普通に過ごしていた頃のお姉ちゃんの姿がありました。私と同じ見た目。今では髪は若干、お姉ちゃんの方が長いですが。私はとてつもなく安堵しました。
「良かったーーお姉ちゃんこれから普通に戻るんだね」
「戻りませんわ」
「…………………………え?あ、れ?」
見た目は普通。黒髪のセミロングに普通の服装、普通の見た目。なのに。性格が、口調が……戻ってない。もしかして無理を続けたせいでお姉ちゃんは本当におかしくなっちゃったの……?戻れなくなっちゃったの……?そんな……私の……せいで……。
「うぅうううぅうう……ひっく……うえええ」
「えええ!?何で突然に泣き出すのよ絵美!?」
「お姉ちゃんがぁ……普通に戻れなくなっちゃったぁ……」
「違う違う!戻れないんじゃなくて戻らない!私の意志!ね、今は私普通でしょ!」
「うん……いつもの優しい普通のお姉ちゃん……良かったあ……」
まあ半分嘘泣きなんですけどね。静の演技指導の賜物です。涙を制服の裾でぬぐい取ります。私はお姉ちゃんに言いました。告げました。宣言しました。意志を、込めて。
「お姉ちゃん。もう私は大丈夫。お姉ちゃんが普通に戻っても私は二度と壊れたりしないよ。頼りになる友達も出来た。お姉ちゃんの思いも受け取れた。これ以上心強いことは、望むものは、ないよ」
私は笑います。微笑みます。自然に、普通に、自分を、さらけ出せました。
しかしーーお姉ちゃんは言いました。
お嬢様のように言いました。
「ならよかったわ。私が懸念していた事は絵美と私の世間の風当たりの事。絵美はもう大丈夫のようですし、私への酷い評価もクラスの女子が皆同じように独自のキャラをあらわにしていったお陰でうやむやになりましたわ。うふふふ……おーっほっほっほっほっほっ」
お姉ちゃん、もといお嬢様が可憐なポーズ、腰をくねらせ左手をそこに置き、口元に右手の甲を向けながら上品に笑っています。背景がお花畑です。画面いっぱいに美しいバラの花がつまっています。この年で幻が見えるなんてやっぱり私は普通じゃないです、はい。ーー冗談抜きにしてお姉ちゃんの演技力が私を上回っていた事について少しだけイラっときました。
「それにわたくしーーううん、私は」
にっこりと、普通に微笑んで皮肉げに言いました。
「普通が、嫌いだもの」
お姉ちゃんは、普通嫌いだった。
たまに文章がおかしくなっているのは仕様です。自然です。普通です。
さて、次に出てくるヒロインたちはどなたでしょうか?
そう、それは画面の前のあなたたちです!
・・・普通の後書きってどんな後書きなんでしょうかね。