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第四十一話

 東京には世界が違う場所がある。まさに東京育ちで、地方から入ってきた人間も入り込めないような、ザ・東京のとある地域。かく言う私も東京生まれで東京育ちだが、育った劇団がアレだったために比較的……まあ、ごく普通の青春を送っていたわけだが……


「では……あとはお若い方同士で」


 私は今、まさにそのザ・東京のとある地域で育った男とお見合いをしている。着物を着せられ何処ぞのお嬢様に見えなくもない、そんな雰囲気を醸し出しながら。雰囲気だけでいいなら朝飯前だが、お見合いとなると話は別だ。っていうか何でこうなった。


「紗弥さんは……今大学生でしたね」


「は、はひ」


「どんなお勉強を?」


「え、えと……なんかこう……経済の事を少々……」


 勿論嘘だ。芸能科の私は経済の事なんぞ毛程も気にしてない。精々、SNSで政治家に対する愚痴を目で流してるくらいだ。


「普段は何をされているんですか? あぁ、すみません、質問攻めにして」


「い、いえ……。普段は……」

 

 どうしよう、実は劇団作る為に奔走してます! なんて言えない。何故ならこのお見合いを企画したのは、何を隠そう母だからだ。私が劇団を作ろうとしている事は勿論秘密。いつまでも隠し通せるものだとは思っていないが、出来る事なら今はまだ知られたくない。もう戻れない、そんな所に立つまでは。


「普段は……すみません、映画みたり……漫画読んだり……」


「ははは、僕もです。最近はひと昔前の漫画を読むのにちょっとハマてます」


 くそぉぉぉぉ! 完全に合わせられた! 完全に私に合わせてくれてる! なんか悔しい!

 ルックスは兄弟子に似てるような気もしないでもない……が、サラっとスーツを着こなす社会人オーラは似て非なる物がある。兄弟子がスーツ着てる所なんて見た事ないし……舞台の上で燕尾服なら着てたが、あれはそういう役柄だったから……兄弟子本人のオーラではない、たぶん。


「ど、どういった漫画を?」


「そうですね、昔すぎて分からないかもしれませんが……ア〇ラとか」


 しってるぅぅぅぅ! 全巻持ってるぅぅぅぅ! 兄弟子が!

 どうしよう、分からないフリした方がいいのか? 穏便に済ます為には、あくまで私はお嬢様を演じなければならない! そう、如何にも貴族! って感じの。


 思い出せ……大学にそんな子居た筈だ。一緒にお茶でもどう? とか誘われて連れていかれた店で、普通に万札吹き飛んだ経験、私にもある筈だ!


「す、すみません……題名はなんとなく……」


「はは、そうですよね」


 理想は相手に「ぁ、こいつ合わないわ」と思わせる事。あからさまに失態を犯すわけにはいかない。母の顔に泥を塗らせずに、穏便に相手に引いて頂かねば。


「少し、外を歩きませんか」


「ぁ、は、はい!」


 元気よく返事しつつ、母に教わった礼儀作法を思い出す私。

 いや待て、こういうザ・東京で育った貴族の前で軽いマナー違反をすれば……穏便に嫌って頂けるのでは? 

 こういう時、男が立つ前に立ってはならない。何故なら見下ろしてしまうからだ。なので私は全力で立ってやるわぁあああ!


「はぅ!」


 しかし私のアキレスは私の意志についてこなかった。なんかこう、グギっと嫌な感触がしたかと思えば、そのままよろけてしまう!


「大丈夫ですか?」


 サラっと私の体を支えてくる貴族。軽く肩に手を添えながら、いつのまにそこに居た? と思う程に軽やかな動きで私の横に。

 歳は私と五つ程離れた男。しかし甘いルックスと対応力は、確実に私より若々しい。ベッドの上でiPadと煎餅に齧りついてる私とは違う人種だ。


「だ、大丈夫です」


「今日は早々に切り上げますか。少し急用を思い出してしまいましたので」




 ※




 最後の最後まで気を使われた。私が緊張でガッチガチになってて、重い空気に耐えれそうにないと思われたのだろう。実際その通りなんだが、なんだか腹が立つ。敗北とはこういう事を言うのか。


「はい、相手の方から伝言」


「は? もう顔見せるなって?」


「なんでよ。あんた何したのよ」


 お屋敷みたいな店の中、控室で着物から普段着へと着替えた私に、母から便箋を受け取る。今のこの時代に便箋て。まあ連絡先も教えてないから無理もないだろうが……。


 開いてみると、そこにはまたお会い出来れば……みたいな事が書いてあった。そして気が向いたら連絡してくれと、メールアドレスが。


「いい人じゃない。レクセクォーツのエリートだけあるわね」


 大手IT企業のエリートのくせに便箋なんぞ使いおって……と再び心の中で笑ってやろうと思ったが、やはり相手はこちらの連絡先を知らない以上致し方ない。あぁ、どこかに無いのか、あの男を笑ってやれる材料は。


「で、どうだった? 結婚する?」


「ちょっとオカンよ。私はまだ大学生なり! 結婚なんぞ一ミリも考えとらんわ!」


 なんか先日、兄弟子に結婚して、みたいな事言ったが。

 しかしあんなの、兄弟子とて本気にしてるわけがない。華麗にスルーされた筈だ。


「こういうのは早い方がいいのよ。別に本当に結婚しろだなんて言わないわよ、要は経験よ、経験」


「お心遣いだけ頂きますぅ」


「それは結構」


 しかし母は何故突然、私にお見合いをしろなどと言ってきたのか。そして私は何故それに素直に応じているのか。私の鼻先に吊るされた人参は分かりやすい物で、なんとこのお見合い話を受ければ一人暮らししてもいい、という物。

 これまで一人暮らしなど考えてこなかったが、ここ最近、母の目を盗んで行動する事が多くなった。加えて今、我が家には紅葉ちゃんも居る。高校を中退し、大学に入学する為、勉強に専念したい彼女に静かな環境を用意してあげねば。なら私が出て行った方が良くね? というのが私が勝手に決めた結論。


「で、部屋はもう見つけたの?」


「まだ……まあ、バイトはもう見つけたから、おいおい……」


「どんなバイト? まさかあんた……三日で五十万稼げるとか怪しい所に……」


 そんな危ない道を通るつもりはない、っていうかどんなバイトだそれ。もう顔に傷の入った怖いお兄さんが出てくる展開しか思い浮かばない。


「大丈夫だよ、アス重工っていう大企業のお手伝いというか……」


「あんたが? 工業の勉強なんてしてたの?」


「今は色々やってんの」


 これ以上は言えない。母に劇団作ってますぅー! なんて言おうものなら……もう部屋に閉じ込められて、さっきの男との縁談を勝手に進められて……いかん、背筋に悪寒が……。





 ※





 翌日、私は大学が終わった後、にゃん子の実家……即ち中華料理屋へと赴いていた。そこで天津飯を大盛りで注文しつつ、先日あったお見合いの愚痴を聞かせる。にゃん子は私がお見合いをしたと聞くと、嬉しそうに齧りついて来た。


「あんた、結婚? はやくね? でも相手いい人だったんでしょ?」


「いや、人類の敵だと思ってる」


「もう決めちゃいなよー、そして私にロマンスを聞かせておくれ」


「たぶん愚痴まみれになるのが目に見えてるからヤダ。っていうかロマンスって……」


「そういえば連絡先貰ったんでしょ? なんて人?」


 なんて人だっけ……。そういえば伝言の書いた便箋は貰ったが、勿論連絡なんぞいれてない。鞄に後生大事に入っているが。

 私はその便箋を取り出し、にゃん子へと。


「荒野 匠一郎(しょういちろう)……? なんか階級高そうな名前だな……」


「名前だけで分かるのか、そんなの」


「政治家の名前思い出してみな、こういうの多いでしょ。えーっと……」


 するとにゃん子は……なんとスマホで名前を検索しだした! お前! それは……人として怪しいやつ!


「にゃん子! それはモラルの面から言って如何なものかと!」


「何言ってんのよ。危ない男だったらどうすんの。お、でたでた。やっぱり結構な金持ちだね。江戸時代から続く……由緒正しいなんとか屋の……」


 江戸時代……なんか偉い人を祖先に持ってるのか?


「……ん? なんか……あれ?」


「どうした、にゃん子」


「……この人、投稿消しまくってる。表示できないの多いな……もしかしてこれは……」


「なになに?」


「……なんか急いで前の女の痕跡を消したみたいな……」




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