第三十七話
運命の結果発表……! ステージの上に並ばされる面々。目の前には数人のおっさん達。その中に轟監督も居た。このおっさん……自分の役目はここまでとか言っときながら、ちゃっかり審査員してるじゃないか。
「ではこれより……結果発表を致します」
静まり返るオーディションの受刑者達……もとい、受験者達。
審査員のこれから発する一言で、良くも悪くも人生が変わる。私はたぶん落ちただろう、そう思っても、やはりドキドキが止まらない。
もし落ちたら劇団の設立に着手する、でもその話すら嘘だったら? 何も問題はない、私は失う物なんて一つもない。いや、あったわ……にゃん子の中華料理屋……。
うぅ……天津飯が食べれなくなるのは寂しい! こうなったらにゃん子を家に住まわせて……
というか審査員よ! 溜めすぎだろ! 早く発表しておくれ、私達の心臓はそろそろ限界よ!
「……エントリーナンバー、十五番……河野宮 梓さん。おめでとうございます」
あっさりと、私達のオーディションは終了した。選ばれたのは河野宮さん。この子は歌の方で参加していた子だ。演劇チームからは選ばれなかったか……。アス重工が必要としている人材が居なかった、それだけの事なんだろうけども。
「……納得できません……」
その一言を発したのは、他でもない河野宮さん本人。他の受講者が言うならまだ分かるが、合格者本人がそう言いだした事で私達は全員注目する。
「……一応、理由を尋ねておきましょうか」
「私よりも上手い子なんて……一杯居たし、私は芝居なんて出来ません……ここに参加して自分の実力不足を痛感しました……私は周りにちやほやされてるだけの……世間知らずだったんだって……」
そんな事ないと思うがなぁ……私も半分死んでたからアレだけども、この子の歌声は結構響いて来るものがあった……と思う。確かに歌唱力とか見たら紅葉ちゃんの方が上のような気もしないでもない……が、その程度の差だ。正直……実力の差なんていくらでも埋められる。これからはアス重工の名の元、優秀な先生が彼女に付く事になるだろうから。
「成程、確かに実力不足だ。俺達がお前の歌唱力だけ見て選んでると思ってるんだからな」
むむ、髭ヅラ! なんであんたそんな言葉しか出てこないの! もっと優しく言いなさい!
「今更、合格者を変更する事なんて出来ねえ。大企業も絡んでるし、それ以前に今から選び直すなんて言って選ばれた奴が、それこそ納得するとは思えないしな」
それはそうだ。だって審査員が選んだのが彼女なんだから。次点で選ばれても……。
「で、でも……」
「お前が降りるってんなら、早乙女に次のマスコットガールも続投させるしかねえ。そうなったらこのオーディションでかかった経費、早乙女に支払うギャラ、その他諸々の損害は誰に請求すればいい?」
当然、そんなの……と全員の意見が一致しているように、河野宮さんへと視線を送る。途端に真っ青になる河野宮さん。
「いや、あの……」
「実力不足が身に染みたんなら十分な成果だろ。これからは最高の環境で自分を磨けるんだ。俺達はお前ならそれが出来ると思ったから選んだ。文句あるか」
轟監督の迫力の前では河野宮さんも頷くしかない。しかしなんか不完全燃焼だな……合格者がこんな不満タラタラだったらなんか……
「おいおいおい! もっと喜べよ! 俺達の頂点に立っといて、そんな顔で締めんじゃねえよ!」
一人の演劇チームの大男がそう叫び出した。そしてそれに触発されるように周りの連中も「そうだそうだ」と河野宮さんを責め始める。そして胴上げしようと言う事になり……
「え、ちょ、いや、あの」
「観念しろやぁ! 俺達の怨念……全部お前に預けた! これからアホみたいに有名になれや!」
「なんでそこで怨念なんですか……?!」
そして受刑者全員の怨念を込めての胴上げ。皆泣きながら笑いながら、河野宮さんを胴上げして祝う。そうしてやっと河野宮さんも覚悟を決めたようだ。オーディションを制覇した者として、正式に審査員から賞状を受け取った。
※
「お疲れ様でした。残念でしたね」
「宗吾さん……」
会場の外に出た私は、紅葉ちゃんと合流。そのまま一緒に帰ろうとしたら宗吾さんがそこに居た。
「送りますよ。どうぞ」
「あざっす……」
ワンボックスの助手席に私、後部座席に紅葉ちゃんを乗せて、宗吾さんは車を発進させた。そういえば私、宗吾さんにオーディションで合格したら結婚してくれとか……言ったな。いや、宗吾さんだって別に本気にしてるわけじゃ……
「紗弥さん、これ、アス重工の方からです」
車を運転しながら、なんか封筒を渡してくる宗吾さん。むむ、なんだ、この分厚い封筒は。札束でも入ってるのか?
封筒を開けると、そこには小難しい書類がぎっしり。なんか施設の使用許可とかアス重工との契約とか……なにこれ。
「あの、これって……」
「劇団を設立するんでしょう? オーディションに落ちたとはいえ、次の目標が出来ましたね」
「……うん。ぁ、紅葉ちゃんさ、良かったら私と……」
と、後部座席に座る紅葉ちゃんも劇団に誘おうとしたら……めっちゃ泣いてた。オーディションに落ちて余程悔しかったのか……いや、普通はそうだよな。私がちょっとねじ曲がってるだけだ。
「紅葉ちゃん……よっこいせ……」
「ちょ、紗弥さん?! 走行中に後部座席に移動しないで……子供じゃないんだから……!」
「妹の一大事よ!」
そのまま紅葉ちゃんの隣に座りつつ、頭を撫でると私に抱き着いてくる可愛い妹。声をあげて私の胸でなく紅葉ちゃん。いかん、もらい泣きしてしまいそうだ。私だってねじ曲がってるけど、それなりに悔しいんだから。しかしここで泣くわけにはいかん。
「紅葉ちゃん……一緒に劇団……やる?」
コクコク頷きながら私の服で涙と鼻水を拭う紅葉ちゃん。しかし構わんと、私は優しく抱きしめる。
「大丈夫だよ、これから……一杯頑張れるから。一緒にがんばろ。自分が納得できるまで……」
「うん……」
こうして私達のオーディションは幕を閉じた。




