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深海の舞台で死に至る  作者: F式 大熊猫改 (Lika)
第三章 双子シングルベッド
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第二十五話

 仏壇の前で手を合わせている女の子が一人。


 朝早くから紅葉ちゃんが一人で住まう一軒家へと来訪した人物。その子は制服姿の女子高生で、合鍵を使ってこの家に入ってきたようだ。そして今は仏壇の前で手を合わせている。


 恐らく彼女は実在する桜ちゃんなのだろう。そして彼女が仏壇の前で手を合わせているのを見て、私は勘違いしていた事を反省した。あの遺影は桜ちゃんのではなく、紅葉ちゃんなのだ。姉である実在する桜ちゃんが、何故か紅葉ちゃんの遺影に手を合わせている。


 何故か……なんて言われるまでも無い。どうやら私は色々勘違い……いや、騙されていたんだ。


 私の中でパズルのピースが適合していく。妹の遺影へと手を合わせる姉の姿を見て、次々とこれまでの情報が組み合わさっていく。


「……桜ちゃん」


 仏壇に手を合わせている桜ちゃんへと、後ろから声を掛ける。するとビクっとしながら振り向く桜ちゃん。間違いない、この桜ちゃんは紅葉ちゃんが作り出した別人格なんかじゃない。


「も、紅葉……どうしたの? 今日はちゃんと起きてるのね。それに家も凄い綺麗になってるし……カレー作ったの? いい匂いが……」


「確保ーっ!」


「ええええぇ!」


 桜ちゃんを捕まえ、そのまま混乱しているスキに椅子に座らせビニールテープでぐるぐる巻きに。

 

「……??? あの、紅葉? これなんのプレイ?」


「ごめんね、桜ちゃん。実は色々と聞きたい事があるんだけども」


「ぁ、私も聞きたいな。今この現状について……」


 だまらっしゃい!

 現在の時刻は七時前。高校に登校開始するのが八時前だから時間は十分にある。

 

「……桜ちゃん、事故の怪我はもう治ったの?」


「は? 事故って?」


 何を言っているんだと桜ちゃんは首を傾げる。私が聞いていた話では、桜ちゃんは事故に遭い死亡、その後に紅葉ちゃんが辛過ぎて別人格を……って感じだったが、先程仏壇に手を合わせる桜ちゃんを見て、そのすべてがひっくり返った。


「ねえ、紅葉……いい加減、これ解いてよ」


 紅葉ちゃんが別人格を生み出した本当の理由。

 それは……


「おい……解けって言ってんだろ……なんなのよ! いい加減にしろよ!」


 私は桜ちゃんをジト目で観察し続ける。

 顔は歪み、美少女の姿はどこにいったのか……まるで醜く藻掻く小鬼がそこに居る。


「紅葉! 立場分かってんの!? 昨日動画投稿してなかったでしょ! 何してんのよ!」


 そうか……そういう事か。

 全ての元凶はあの動画だったんだ。動画編集は全て紅葉ちゃんがやっていた。この暗い家でたった一人、取り残されて。


「お父さんとお母さんは元気?」


「あぁ? これ解けって言ってんだろ! 聞こえてんのか!」


 醜い、実に醜い。

 私は目の前で怒り狂う桜ちゃんの前で、いつかやった幽霊の芝居を再現する。轟君ほど感受性は高くなさそうだが、十分に伝わる筈だ。


「……紅葉? おい、聞いてんのか……って……」


 その場を支配する。冷たい空気、突然の冬が到来したかのように。

 みるみる内に桜ちゃんの表情は凍り付いていく。


「紅葉……? ほ、ほんとに……紅葉?」


 私は無言で、不謹慎極まりない芝居を。人差し指でそっと、自分の左手の手首をなぞる。すると桜ちゃんはそこから想像し、何が起きたのか推測してくれる。


「嘘……嘘……違う、違う……ただのイタズラよ! ほ、ほんとに死んじゃうなんて……思ってなかったのに……」


 仏壇に妹の遺影を飾って、手を合わせる事がただのイタズラなのか。

 始まりはきっと些細な事だったんだろう。たまたま、投稿した動画がバズってしまった。そこから得られた予想外の収入が、この家族を狂わせたんだろう。


 そして元々、紅葉ちゃんには別人格を生み出すという特異な才能があったのだ。幼い頃からそれは度々家族を気味悪がらせた。しかしパソコンの操作に長けていた紅葉ちゃんは、ひたすら動画編集と投稿をするだけの人形として……価値を見出されたのだ。あくまで私の想像だが。


「なんで……なんで勝手に死んじゃうのよ! あんただけじゃないのよ! 私だって惨めな思いしてるんだから! なんで真面目君は……あんたにばっかり……」


 紅葉ちゃんは現実の姉とは別の、優しい姉を別人格として生み出した。元々姉が憎いのなら、もっと別の人格を生み出すだろう。わざわざ姉という事は……紅葉ちゃんは本当に桜ちゃんの事が大好きなんだ。


 でもその仕打ちに、紅葉ちゃんは耐えれなかった。高校生が一軒家で、たった一人でひたすら動画編集の毎日。このくらい家で、たった一人で、毎日毎日……学業を熟しながら、いつか家族の元に帰れると信じて。


「……桜ちゃん、大丈夫。私はまだ生きてるから」


「……へ?」


 芝居を解いた。しかし桜ちゃんは未だに涙目で怯えるような態度。

 この子も中々感受性豊かなのかもしれない。そもそも紅葉ちゃんが別人格を生み出すという途方もない事をしてしまっているのだ。その姉ならば、この反応は当然かもしれない。


 そういえばオーディションの事は……この姉も知っていた。あれは紅葉ちゃん一人で決めた事じゃない。ちゃんと実在する姉も、ちゃんと先生に報告に行くと言っていたのだ。


「桜ちゃん、オーディションは? どうする?」


「……出るわけないでしょ……そんなの。あんたがどうしてもって言うから……でも、あれ、一人しか受からないじゃない。そんなのに出たって選ばれるわけ……」


「一緒に先生に報告に行こうって言ってくれたじゃない」


「そんなの……! あんたはあっちの姉と一緒に行くんでしょ?! 私には関係無いわよ! 一人で行って赤っ恥かいて泣いちゃえばいいのよ!」


 ……もう完全に家族の修復は不可能なのか?

 それはそれで……私は心置きなく紅葉ちゃんを……


 しかしそれでも……無責任な希望を持ってしまうのは罪だ。

 いつか東雲家が、紅葉ちゃんをまた迎えに来てくれる、そんな希望を持つのは……


 私は桜ちゃんのビニール紐を解いた。そしてそのまま


「さようなら、お姉ちゃん」


 紅葉という他人の人生を勝手に決める。

 これは罪だ。大罪だ。悪だとなんとでも言われようが言い訳のしようもない。

 でも私は……


「ま、まって、紅葉……どういう事? 紅葉!」


 



 ※




 それから数時間後、高校をサボって昼間から制服姿で街中を彷徨っていたら、どうなるでしょうか。


「君、学校は?」


 当然……こうなってしまう!

 おまわりさんに捕まってしまった!


「え、えっと……サボリっす……」


「なんとけしからん、本官が学生の時はもっと……」


 あぁ……おまわりさんのありがたい説教が延々と……。

 うぅぅぅ! ごめんなさい、サボってごめんなさい! だってそんな気分じゃなかったもの!


「聞いているのか?!」


「ひぃ! もちのろんです!」


「親御さんは? 名前と住所、電話番号を……」


「え、えっと、漆原紗弥……住所は……電話番号は……」


 ってー! しまった! つい本物の私の方の情報言っちゃった!

 どうしよう! お母さんに電話かけられる!


「お、おまわりさん! お母さんにだけは秘密にしておいてほしいなり!」


「ええい! 観念せい! 叱られてしまえ!」


「そんな御無体な!」


 そのまま本当に我が家へと電話をかけるおまわりさん!

 不味い……これで本当に母親が来てしまったら……


「……? おい、小娘」


 小娘て。


「うちに高校生の娘なんぞいないと、あしらわれてしまったぞ! 本官に嘘をついたな!」


「ついてないもん! ぁ、いや、ついてたかもしれないけども……」


「ええい! 正直に言わんと逮捕するぞ!」


「ひぃ!」


 って、あれ? 今警察官に絡まれてる女子高生を見て見ぬふりして通りすぎたのは……兄弟子では?!

 

「そ、宗吾さん! 助けて!」


 まさか警察官に逮捕寸前の女子高生に名前を呼ばれるとは思ってなかったのか、兄弟子はビクっとしつつ……ゆっくりこっちを振りむき……


「ひ、人違いです……」


 ってー! なんかダッシュで逃げやがった! あのやろう!


「むむっ! 怪しい奴! 本官から逃げれると思うなよ!」


「私も追いかけます! 逮捕してやりましょう!」


 私とおまわりさんは街中を猛ダッシュする兄弟子を追い掛け回した。


 え、何してんの私……。





 

 

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