第二十二話
放課後、私と桜ちゃんは二年A組の担任の先生の元へ例の報告をするため、職員室へと赴いた。
正直言ってそれどころでは無いのだが……まあ仕方ない。この話が終わったら、また紅葉ちゃんと連絡取って……
「紅葉……どうしたの?」
職員室の扉へと手をかけつつも、一旦私へと振り向いて心配そうな顔をしてくれる桜ちゃん。
「ん? いや、なんでもないですわ」
「……今日はちょっと様子がおかしいからずっと心配だったのよ。紅葉……」
すまぬな、桜ちゃん……。私は本来の紅葉ちゃんではないのだ!
しかし私も役者のはしくれ。紅葉ちゃんにもなりきってみせる!
「大丈夫だから、桜ちゃん。紅葉は元気もりもりでござる」
「やっぱり変なんだよなぁ……」
桜ちゃんは首を傾げつつ、職員室の扉をあけて「失礼しまーす」と入室。
ふむ、私達が入ってくると、教室でもそうだったが皆注目してくるな。紅葉ちゃんは有名らしいし……。
そのまま私達は担任の先生の元へ。
担任の先生は四十代の男性で、腰の低そうな国語の先生。優しそうな印象を初見で私は植え付けられてしまったが、間違ってはいない筈だ。
「おや、どうしましたか、東雲さん」
「先生、実は折り入ってお話がありまして……」
チラっと桜ちゃんと目を合わせつつ、先生へと話しかける私。
「あぁ、桜ちゃんもそこに居るのですか?」
「……? あぁ、はい」
見りゃわかるだろ、という言葉を飲み込みつつ、先生と個人的な話があると伝える私達。そのまま生徒指導のための個室へと連れられる。
生徒指導室はテーブルとソファー、それにお茶やココアなども飲めるようになっていた。なんて贅沢な……!
「東雲さん、何を飲まれますか」
腰の低い先生は、お茶の用意をしつつ私達へそう伝えてくる。
桜ちゃんは先生へと「コーヒーで」と伝え、私は「ここあ」と一言。
数分後、先生は二つのココアを私達の前へ。
むむ、桜ちゃんはコーヒーがいいって言ったのに……ガン無視とは。
「それで……話とはなんでしょう」
桜ちゃんと一旦、顔を合わせつつ……雰囲気的に私のクラスの担任だから、私から話す事に。
うーん、しかしなんて言おう。まあ、そのまま伝えるしかないか……。
「あの、実は……今度このオーディションに参加してみようと思いまして……」
アス重工からの推薦状を鞄から出し、先生へと。
すると先生はその推薦状を……なんと自分のスーツの内ポケットへ!
「……あの、先生?」
「それで、話とはなんでしょう」
ボケてる? ツッコミ待ち?
「先生、わりと真面目な話なんですが……」
私がそういうと、先生は再び推薦状を取り出し、まじまじと確認しだした。
「ほぅ、大企業からの推薦状とは、素晴らしいですね。それで……このオーディションを受けようと? まあ、今のご時世……こういう事もあるでしょうが……驚きましたね……」
「あざっす……」
「ちょっと紅葉、もっとちゃんとした言葉使いしなさい」
うぅ、すまぬ桜ちゃん……つい素が出てしまう!
だって私、紅葉ちゃんの事よく知らない! それ抜きでも、実在する一個人を演じるのって難しいな……スパイとか変装する時、どうしてるんだろ……私が知ってるスパイはアニメや映画の話だが。
「それで……学校側の許可が欲しいという事ですか?」
「あ、はい」
「まあ、東雲さんは教師陣の信頼も厚いですからね。大抵の事には賛同してくれるでしょうが……」
むむ、桜ちゃんは怒られるかもしれないとか言ってたけど、なんか結構イケそう?
「……東雲さん、この推薦状には桜さんと紅葉さん、双方とありますが……」
「あ、はい、二人で出ます」
「……そう、ですか。少し時間を頂けますか? こればかりは私の独断ではちょっと……」
そうなのか。それだけ紅葉ちゃんと桜ちゃんの信頼は厚いという事だろう。そんな二人が芸能界を目指している。大抵の大人なら慎重にならざるを得ない。何せ、いくら才能があっても……食っていけるのは、ほんの一握りだ。安易に賛同できないという点は私も同意見だし……。
まあ、私がそれを言うのはどうかと思うが。
「それで、こういった推薦状を受け取れるという事は……今までも何か活動をなさっていたのですか?」
「ぁ、はい、実は……動画を投稿してまして……顔とかは出してないんですけど……」
私は紅葉ちゃんのスマホを取り出し……って! 動画! 動画どこだ!
「紅葉……? ほら、これだよ、私達の動画」
「お、おおう、サンクス桜ちゃん……」
フォルダの中に入っていた動画をタップしつつ、先生へとスマホごと渡して見せる私。
そういえば……私も紅葉ちゃんと桜ちゃんの動画見たこと無いな……。団長が言うには双子で歌ってる動画だと言うが……。
「……ほう、これは凄い。これ、全部御一人で?」
「あ、動画編集は主に私が……」
「成程。これで人気が出たというわけですか。この動画、私の方にもコピーさせて頂いても?」
「あ、どうぞどうぞ」
それから先生とあれやこれやと動画の事について語りあった。先生も動画サイトをよく見るだの、好きなアーティストは誰だの……。
なんだ、普通にいい先生だな。これならオーディションも許可されそうだな。
気づけばいい時間にもなっている。高校生の紅葉ちゃんはもう帰宅する時間よ!
「あの、先生、ではこの辺で……」
「あぁ、そうですね、もう下校の時間はとっくに過ぎてますね」
言いつつ席を立って、そのまま生徒指導室から出て行こうとする私の背中に、先生は
「紅葉さん」
「はい?」
「私は貴方を応援しています。オーディション、とてもいいと思いますよ。学校全体で応援出来るように、説得してみせますので」
私と桜ちゃんは、そんな先生へと一礼しつつ……静かに生徒指導室から出る。
むふぅ、なんか普通に好印象だったな。これなら普通にオーディションにも出れそうだな。
※
紅葉と桜が担任と面談している頃、紗弥の体の中に入っている紅葉は、宗吾と連絡を取りあい大学まで迎えに来てもらう。こんな事を頼んでいいのかとも思う紅葉だったが、紗弥が言うのだから致し方ない。律樹という人物が誰であれ、紗弥がそこまで警戒すると言う事は何かがあるのだろう。
「すみません」
「いえいえ、紗弥さんの要請なら仕方ありません。それで……どうされたんですか?」
宗吾にも同じ話をしろ、と紗弥に言われた紅葉は、朝出会った人物について説明した。するとみるみる内に宗吾の顔色が変わっていく。
「……それは、本当に律樹さんなんですね」
「はい、確かに律樹って名乗ってて……」
「……成程、ではご自宅までお供しましょう。それで……こんな事を尋ねるのはおかしいとは思いますが……」
「……はい?」
「……貴方は、一体誰ですか?」




