第二十一話
電話が来た、と弥生ちゃんに伝え、先に食堂に向かってもらう。私は理科準備室らしき物を見つけ、そこに入り込み電話を受けた。躊躇いがちに「もしもし」と応答すると、焦りと喜びが入り混じったような息遣いが聞こえてくる。
『もしもし……私、東雲 紅葉という者ですが……』
「紅葉ちゃん……」
たぶん、この声は私の声。ややこしいけど、紗弥の声だ。自分の声を電話先で聞いた事など無いが、まあたぶん私の声。
「えっと、初めまして……漆原 紗弥です……」
『……! 紗弥さん? あぁ、良かった……これでまた別人とかだったらどうしようかと……』
まあ、入れ替わり系のラノベとかで良くあるよな……連絡したら別人、または時系列狂ってたり……。
試しに私達はお互いの、今の日付と時間を確認し合う。間違いなくリアルタイムで私達は電話している。
『あぁ、本当に良かった……ただ入れ替わってるだけのようです……』
うん、その安心感分かる! もう入れ替わってる事自体、非常識極まりないけども、その安心感は分かるぞ! 頼むからこれ以上ややこしい事になってませんように……って感じに。
「ごめんね、紅葉ちゃん……たぶん、原因私なんだ……」
私は焼肉から帰る途中、変な奴と出会い、異星人と間違えられた事を説明。その際、妙な攻撃を受けたことも。紅葉ちゃんは決して疑ったり笑ったりすることもせず、受け入れてくれる。
『もう今なら何でも受け入れれる自信があります……。私は目が覚めたらベッドで寝てて……ぁ! それより紗弥さん! 紗弥さんのお母さんって……あの漆原燈子さんじゃないですか! 女優の!』
おおう、なんか凄い興奮してる……。君のような女子高生にまで我が母が知れ渡っているとは……光栄だぞ。
『それで紗弥さん、今どちらに?』
「えっと……今は高校だよ。紅葉ちゃんのお姉ちゃん……桜ちゃんに連れられて……」
『あぁ、成程……。桜は世話好きというか、お節介というか……。ちなみに私も大学に居ます。白熊大学。実はここ、私の志望校なので……来た事あるんですよね。こんな形で登校できるなんて思いもしませんでしたが……』
ほぅ、大学に行けたのか……。というか、紅葉ちゃん高二の今の時点で志望校決めてて、大学の場所までチェック済みなのか? 優秀すぎんか?
まあ……それより他に確認しておきたい事は山ほどあるが、その前に……
「ところで……スマホのロック、よく解除出来たね……」
『ぁ、それなら簡単でした……』
ギク……
『あの、ごめんなさい……あれ……見ちゃいました……』
ひぃぃぃぃぃ!
『紗弥さんの手帳に大きなハートマークで囲われた男性の名前……その方の誕生日ですよね、パスワード……』
「そ、そのとおりです……」
そう、我が愛しの兄弟子……宗吾さんの誕生日が私のスマホのロック解除だ。あぁぁぁ、ハートマークのページはさっさと破り捨ててお焚き上げしとけばよかった……しかしそのおかげで、今この電話が出来るというもの……。
『ちなみに私のスマホのロックも誕生日です。自分のですが。十二月二十五日ですので、1225ですね』
「ありがとう……クリスマスだね。覚えとく。元に戻ったらクリパ兼お誕生日会しようね……」
『楽しみです……なんですが、まずは元に戻る方法を模索しましょう。私的に五十八通りの方法を考えてるんですが……』
そんなに?! 元に戻る方法そんなにある?!
『ただ、大半は危険な物ばかりです。紗弥さんの言ってた、異星人ハンターを見つけるのが一番近道だと思います……』
そうなるよな。あいつ見つけて……またあの妙な装置を使えば戻れるかもしれない。
でも余計にややこしい事になる可能性もある。
『……最悪、このまま人生送り続けるという手も……あるとは思います』
「いやいやいや、私はいいよ? こんな可愛い紅葉ちゃんの姿で人生送れるなら……。でも、紅葉ちゃんは私なんかの姿で人生送るなんて、絶対嫌に……」
『な、ななななななに言ってるんですかぁー!!』
ひぃ! 耳が! 耳がキーンとした!
『紗弥さん、自分の事……どう評価してるんですか?! 世間知らずですか!? もっと危機感持ってください!』
危機感て……何の話……?
『す、すみません……こんな事言いたくはないですが、真夜中に一人で出歩いて良い方じゃありません、紗弥さんは……。実際、それでこんな事になってるんですから。反省してください』
「すまねえ……」
『分かって貰えればいいんです。それにこのまま人生を送る……というのは最後の手段です。それで、あの……色々確認したい事がありまして……』
うむぅ、私も私も。色々確認したい!
『紗弥さん、食事面で気にされてる事ありますか? アレルギーなどもあったら教えて欲しいのですが……』
あ、そっち? いや、大事だよな! アレルギー持ってて知らん内に食べちゃったら命の危機! 幸い、私にアレルギーは無いが……精々花粉症くらいだ。
「特にないよ、焼肉で特選カルビを大盛りご飯に乗せて食べてるくらいだから……」
『そんな事してるのにこの体系維持出来てるんですか?! 人生舐めてますか!?』
ひぃぃぃ! ごめんなさい!
『……その、私も得にアレルギーなどはありません。でも……食べ過ぎには注意して下さい……』
「わ、わかりました……ぁ、私も一つ確認いい? 実は……」
私は真面目君の事について説明。彼からの告白を断ってしまった事も含めて。
『あぁ、それは別に大丈夫です』
真面目君……南無阿弥陀仏……。
『真面目は何度ふってもらっても構いません。というかフリ続けて下さい。本当は桜が……真面目の事を好きなんで……』
「ん?! そ、そうなの?」
『はい……。真面目とは高校からの友達なんですが……あいつだけなんですよ、私と桜の見分けがつくの。なんか桜……それが凄い感激しちゃったみたいで……口には出しませんが、実はベタ惚れなんです。私は別にそうでも無いんですが……』
桜ちゃんは真面目君にベタ惚れ……?
なんてこった、そんな青春の真っただ中に、今私は居るのか?! どうしよう……ニヤニヤが止まらない……桜ちゃんと真面目君をくっつけたい!
『……あの、紗弥さん』
ん? なんだい?
『まだ、他にも色々と確認したい事はあるんですが……とりあえず、私……紗弥さんで良かったです……』
「え、うん、ありがとう……私も紅葉ちゃんみたいな可愛い子になれて……もう死んでもいいくらいだよ……」
『お願いですから命大事に……。あとそれと、律樹さんってお知り合いですか?』
……え?
知り合いも何も……律樹という名前は私の父だ。私が産まれた日に事故で死んだ父。
「うん、まあ、私の知ってる律樹なら……それがどうしたの?」
『いえ、実はその律樹さんと朝に、ご自宅の前で出会って……燈子さんは居るかと尋ねてきたので……』
「……それで?」
血の気が引く。
いやいや、そんな筈はない。律樹……私の父は死んだ。墓もある。同じ名前なだけ? 何故私の母を訪ねてきた? 母には父と同じ名前の知り合いがいるのか?
『それで……なんだか雰囲気が怪しかったというか……ちょっと直観で申し訳ないんですけど……お母様は出かけて居ないと答えてしまって……』
「……うん、ごめんね、それで大丈夫だから」
……違う、私の父じゃない。
だったら誰だ? 父と同じ名前を名乗って家を訪ねてきた? 一体何のために?
それとも本当に名前だけ、たまたま同じだけか? でもそんな朝から訪ねてくる理由は?
『あの、どうかされましたか?』
「……紅葉ちゃん、大学はいいから……さっきのハートマークの人と連絡とって、その人の傍から離れないで。その人と絶対家に帰って。あと律樹って人の話……その人にもそのまましてもらって構わないから」
私は紅葉ちゃんへと、宗吾さんに警護してもらうように要請する。
嫌な予感がする。
とりあえず確認の電話はそれまでにして、また後で連絡すると言いつつ、私はそのまま自宅へと電話をかける。コール音を聞きながら、母親が顔が浮かんでくる。
「……お母さん……」
誰なんだ、律樹……父の名前を語っているのは。
『……はい、漆原ですが』
数コールで出た母親。いつもの冷静な母の声だ。
「おか……いや、あの……私、紗弥さんのお友達の……東雲と言いますが……」
『紗弥の? はい、どうしたの?』
優しい声。きっと私の不安を瞬時に読み取っている。母は感情という物に敏感だ。
「……実は、えっと……」
なんて説明すればいい?
死んだ父の名前を語って、お前を訪ねてきたって言う? そんなの信じて貰える筈が無い、どうすれば……
『……東雲ちゃん?』
「す、すみません、えっとその……実は紗弥さんの家の前で不審人物を……見まして……」
『……え。どこどこ? フライパンで勝てそうな奴?』
ちょぉぉぉぉ! 撃退する気満々でフライパン装備するな!
「す、少しでも変な事が起きたら……警察呼んだ方が……いいと思います」
『あら、わざわざありがとう。でも大丈夫。こう見えて私、強いから』
いやいや、だから心配なんだって。
本当に撃退しに行きそうだから……。
『……用はそれだけ?』
「ぁ、はい……それだけです……」
『じゃあごめんなさいね。今ちょっと忙しくて……紗弥と仲良くしてあげてね』
そのまま通話は切れた。
なんだろう、なんか……違和感を感じる。
気になるが……あとは宗吾さんを頼るしかない……。私がこの姿で行って万が一のことがあったら……紅葉ちゃんが……。
それは絶対にダメだ。私はともかく、紅葉ちゃんだけは守らねば。




