第2話 帝国内の闇夜にて
*???
フェステル帝国内、現在の時間帯は深夜、空には細い細い三日月が、まるで地上での出来事を嗤うかのように、闇夜に紛れてただ一つ、存在感を放っていた。そんな月の下に浮かび上がる二つの人影。
一つは、大きく、長身で細身な男の影。顔は布で覆われており、その顔立ちや表情は窺い知れない。また、片手には自身の身長の半分ぐらいの長さの銃を持っている。全身を黒い布で覆われているが、身に着けている装飾品や貴金属のおかげで、月明かりの中で良く目立ち、それが人型で空に浮かび上がっているのである。第三者がこれを見たらほとんどの者が人間と答えるであろう。
もう一つは、隣にいる者とは打って変わって、小柄で、これまた、闇夜に溶け込むような黒い布で全身を覆っている男。だが、隣にいた長身の男が身に着けている装飾品や貴金属が反射する月光のおかげで、かろうじて姿がうかがえる程度のものである。
彼らは地上で、赤々と燃え盛る、今まで自分たちの拠点であった屋敷を見下ろしながら、空中で、机と椅子を出し、小さな酒盛りを始めた。小柄な男は上等なワインを注ぎながら、長身の男に話しかけた。その声音には、愉悦を含んでいる。
「いやぁ~、全く上層部も無茶な命令出しますよねぇ。ストロディアに内部抗争が起こっていると見せかけろ、だなんて。そうは思いませんか、三沢恵人さん?」
三沢恵人と呼ばれた男は、やれやれといった感じでそれに答えた。
「まあ、そうは思うけどな。でも、その指示聞いて、すぐさま同志の一人を殺してまで演技するあんたの兄貴もたいがいだと思うぜ、ザック・メクト?」
ザック・メクトは、それに自身のことは棚に上げて答える。
「僕の家族は頭のおかしなのが多いですからねぇ。ドル兄に始まり、姉、父、母…。」
「おいおい、お前も一般人から見れば大抵の行動が異常だぜ?流血沙汰をまじかで見るのが大好きなのはどこの、誰、だったけな?おまけに被害者の悲鳴を子守唄にして寝る、ザックさん?」
「あはははははは。まあ、そんなこと、今は、そこらに、置いておきましょうよ。次にもやることがあるんでしょ?」
そのザックの発言に、舌打ち一つで対応する三沢。だが、すぐにいつもの調子で、というよりこれが普段の彼らのやり取りなようで、二人とも慣れている。
「ちっ。こういうときだけ話をきちんと聞いてやがる。まあいい、次にやることは、ここ最近俺たちの組織のことを嗅ぎまわってるやつが、いるらしい。上層部の見解では、隣国のストロディアってところの回し者らしいが、この際それはどうでもいい。そいつを痕跡一つ残さずに抹消しろってのが上層部からの命令だ。」
「へえ~、どれぐらいの人数ですか?」
「今確認されているのは一人、くれぐれも油断するなって話だぜ。いくらこの組織の後ろ盾に帝国貴族のメルト子爵やスト―ラビット伯爵が付いているといっても、所詮は下の方だ、あまり期待しない方がいい。いつ、皇帝サマから圧力かけられて消えるか、わかったもんじゃねえからな。」
「ふーん、そのための酒盛りだったんですねえ。てっきり上から炎上する屋敷を見せて僕を喜ばせて何か、要求を呑ませようとしているのかと…。」
「なんだって、俺がお前みたいな異常者を喜ばせる真似をしなきゃなんねえんだ?まったく。」
「あはははは。そりゃそうですよねえ…。おや?来たようですよ?」
そういって、ザックは下を指し示した。三沢が、そちらへ視線を向けると、一人火災の様子を見に来ていた。そうしてザックと三沢は、夜闇を駆け下りた。




