第36話 事前の根回し
*ストロディア4名+ダンジョン前の部隊
ランディたち5名が転移した先は、ダンジョンの入り口。そこには、王国騎士団副団長セミア・フェルスト率いる王国の部隊1000名が天幕を張り、待っていた。セミアは、ランディたち5名の様子を確認すると、にっこり笑いかけて口を開いた。
「…その様子を見ると、無事にダンジョン核の破壊を終えたようですね。」
それに対応するのは、エレッタ。
「何の問題もなく終えたよ。そちらの被害状況は?」
「ダンジョンの半径1キロメートルに、魔物が行っても問題ないように、囲ませておりましたが、負傷者多数で、幸いにも死者は出ませんでした。魔物の方も問題なく、住民街へ行かせることなく、殲滅が完了しております。ここまで被害が少なかったのは、スレイマ様が出がけに張られた結界のおかげです、ありがとうございました。」
「どういたしまして。ところで、この後の予定はどうなっているのかな?」
「私どもは、このまま、王城へと帰還します。帰ってから、講和会議等の準備がありますので。すでに、あちらで関係各所へと連絡しているそうです。そちらは?」
ランディ、スレイマ、ディル、杏林が顔を見合わせると、代表してランディが答えた。
「私たちは、この後帰還して、ディルと杏林は、ストロディア拠点の防衛に、私とスレイマは、拠点で物資の補給後、そのまま帝国へ、死の荒野を潰しに向かいます。…そういえば、フィル・ジモン公爵は?」
「ジモン公爵閣下は、王都防衛部隊の編成のため、王宮に戻られました。時間的にはランディ様たちが、ダンジョンへ着いた頃ですかね。もっとも、スレイマ様の結界のおかげで、出番はありませんでしたが。」
ランディは、スレイマに戻る準備の確認のため、まずは報告書の確認をする。
「了解。スレイマ、報告書の準備はできてる?」
「はい、問題ないです。」
その言葉にエレッタは、セミアの顔を見た。
「ねえ、王宮への報告書の準備はできてる?」
当然のように、セミアにそんな時間的余裕はなかった。だから、きっちりとエレッタに現実を突きつける。
「いいえ、というか準備する余裕があったと思っているのですか?」
「全く思っていないよ。でも、戻るんだったら必要だよね?」
そしてエレッタはもう一度、セミアの顔を見て、そして、スレイマへと視線を移す。
「はあ、わかりました。…というわけで、スレイマ様、ストロディア向けの報告書の、王国に必要ない項目を省いたものを、1部でいいので、いただけませんか?」
スレイマは困ったように笑い、ランディを見た。
「…ランディ、“異能報告紙”は、まだある?」
「うん、あるよ。百枚ぐらい。」
「じゃあ、2枚ほしい。」
「わかった。“異能報告紙”顕現。」
ランディが“異能報告紙”を顕現させる。見た目は普通の白紙だ。模様のように入った魔法陣を除けば。スレイマは、それを受け取ると、その効果を発動させる。
「“複製”、“部分削除”。」
すると、ストロディアの報告書の文字が、そのまま“異能報告紙”の真上へと複製された文字が浮かび上がり、新しい“異能報告紙”の上で、踊る。そして必要ない文字が消えていき、残った文字が、新しい“異能報告紙”の上で停止し、そしてそのまま、“異能報告紙”に吸い込まれるようにして報告書となった。作成にかかった時間は1分ほど。
スレイマは、その様子を見て唖然とした表情を晒している、セミアとエレッタに向き直ると“異能報告紙”を渡した。
「これでいい?」
「あっ、はい、確認します…問題ありません。」
セミアが書類入れに仕舞ったのを確認すると、スレイマは、問いかけた。
「王国のストロディア本部までで良ければ、送っていくけど、どうする?」
「では、お願いします、ストロディア本部でしたら、王城も近いですし、良いのですが。しかし、1000名も一度に送れます?」
「それは問題ない。」
「そうじゃなくて、王国本部前が埋まってしまいますが、大丈夫ですか?」
「それも問題ない。あっちに連絡して空間拡張結界をストロディア本部から、王宮までの間に張ってもらっているから。」
「相変わらず、行動が早いですね。ここまで織り込み済みでしたか。では、お願いします。」
「わかった。“空間範囲指定”、“範囲転移”。」
スレイマが術式を発動させると、丸ごと王国のストロディア本部の前へと転移した。そこでランディたちは、王国本部へと入っていく。
「あ、そうだった。言い忘れていたけど、後30分ほどで、空間拡張結界は解除されるから。」
スレイマの言葉に、額にたらりと嫌な汗が流れるエレッタ達。
「解除されたとき、取り残されたらどうなります?」
「運が良ければ、空間が戻った時の反動でつぶれて圧死。運が悪ければ、世界の狭間へと取り残される。どちらにしても死亡は確定だね。じゃあ、頑張ってね~。」
そう言い残したスレイマを見ながら、エレッタは全軍に、指示を出す。
「総員、死にたくなければ全力で王城まで駆け抜けろ‼」
後の話によると、この全力疾走のおかげで、死人は出なかったということである。




