第23話 戦場の一角ー杏林風花ー
*セイルフォン平野
ディル・ジルが契約魔獣召喚 魔界 フェンリルを大暴れさせているころ、杏林風花は自身の異能力“光”を使い、自身を周囲の風景に溶け込ませていた。そのまま敵陣に突っ込んでいき、そこそこ強いと思われるものから、Sランク宝竜刀を使い、一分の隙もなく、敵の首を刎ねていく。
「敵襲。どこかに潜んで…」
「さようなら。」
勘の良い者の中には、見えざる刺客がいることに気付いたものもいたようだが、気付いた時にはすでに遅く、周りに警告を発するもすべてを言い終わらぬうちに、女の別れを告げる声が響き、首と鮮血が舞い、死んでゆく。10分ほどたった後には、その周辺には、敵の屍が重なっているのみとなった。その中に立つ人影。杏林とサーレイド王国騎士団副団長であるセミア・フェルストだ。
「こんなところかしら。大体間引きも終わったし、後はお任せするわね。」
「了解しました。」
「そこの死骸の山の中に隠れているものがいるようだから注意するように。」
杏林は、その返事を聞かぬままその場を去る。目的は、死骸の山の中に隠れた、敵ではなく100メートルほどこの場から東に行ったところにいる強者だ。悠然と歩みを進め、突然虚空に声をかける。
「隠れてないで、出てらっしゃいな。」
その言葉に敵兵と思しきものが男が姿を現す。
「やれやれ、強いとは聞いていましたが、これほどとは。少し貴女のことを見誤っていたようです。警戒度を一段階上げておかねば。」
杏林は、男のことを知らないらしく、普通に話しかける。見たところ武装は、剣のみだろうか。ただ、その剣は杏林の持っているSランク宝竜刀と同じぐらいだと断定した。
「何者ですの?」
男は、その言葉に納得したように言う。
「ああ、私が一方的に知っていただけでしたね。初めまして、フェステル帝国情報部、エイス・スト―ラビットと申します。」
「これはご丁寧に。秘密結社ストロディア所属、“刀桜”の杏林風花と申します。…スト―ラビットですか。確か、帝国の情報部の中で一番長くその立場に就いている名家でしたっけ?階級は確か子爵でしたっけ?」
「ええ、そうですよ。貴女の実力を確かめるためにも、貴女を疲弊させて私が打ち取るためにもあれぐらいの程よい強さを持つものに当たってもらったわけですが、10分持たないとはね。驚きましたよ。」
「それで、そのようなことを言いに来たわけではないのでしょう?次の相手はあなたですか?」
「ええ、そうですとも。そろそろ始めましょうか。私の目的は貴女を、ひいては王国軍を少しでも長くこの戦場に留めておくことですからね。」
「それは、どういう…。」
杏林が言い終わらぬうちに、エイスは剣を抜き放ち、その刀身を横に薙ぎ、杏林の首を刎ねたかのように思えた。あたりに鮮血が舞い、杏林の首が落ちた。それを確認するとエイスはその場を去ろうとしたができなかった。いつの間にかエイスの心臓に杏林の刀の先が貫いていた。
「いつの間に。」
「今、貴方が殺したのは私の幻影です。」
見ると死体があった場所には桜の花弁が大量に散っていた。それがエイスの見た最期の光景となった。




