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鴉羽の返り血人形  作者: 銭ころ助
1/1

プロローグ



のどかな田舎にあるすこし大きな屋敷。



その書斎に本を一人読んでいる濡れ羽色の髪の少年がいた。その側には四冊の本が積み重ねられていることと、四冊の内二冊が勉強本であることから、読書が趣味で、勤勉であることが分かる。



唐突に少年は自分の影を見て



「誰?」



と呟いた。目線の先に目視出来る生き物がいるわけではない。少年だけが目に見える、というわけでもない。



「…見えないなにかって君だったんだ。」



だが、少年には直感で自分の影の中に何かがいることがわかっていた。



この世界の全ての生物は、例外なく自らの内に星霊と呼ばれる不思議な存在を宿している。この少年は自分の影にいる何かをその類いだと判断したのか、そこまで気にすることはなく、読書を再開した。



しばらくしたのち、書斎のドアが静かに開き、一人の少女が入ってきた。



少年は忍び足で少年に近づいた。どうやら少年を「ワッ!」とおどかすつもりのようだ。顔をにやつかせていることからイタズラをするのが好きなのだろう。



「エルシア姉さん?」



「あっ」



速攻でバレた。



エルシアと呼ばれた銀髪の少女は、ムスッとした顔で少年のところへ来た用を言った。



「…ウィンデル、お父さんが来てって言ってたよ。」



「父上が?」



「うん、なんか将来に関わる大事なことだって。」



「分かった。」



そう言ってウィンデルは本をしまおうとすると、エルシアが本の題名を見て



「“他を支える一人”?お母さんから読んでもらってから毎日読んでない?」



“他を支える一人”、家族や友人、知人といった関わった人達のために影から支える一人の男の話だ。

諸々の理由からそこまで人気な作品ではないが、ウィンデルは母から読み聞かせてもらってから毎日一回は必ず読むようになった。



「もっと面白い本がいっぱいあるのに、なんでそれがいいの?」



「…さあ」



そういって、書斎を後にした。






ウィンデルが“執務室”と書かれた扉の前に立ち、二回ほどノックして、



「失礼します」



と言い、しばらくしないうちに



「入れ」



と扉ごしに入室の許しをもらい、入室した。






「エルシアからはどんな話か聞いてるだろう?」



と息子の髪と同じ色の髭を少し伸ばし、精悍な顔つきの男、ハインツから聞かれ、



「はい」



ウィンデルはそう答えた。



「来て早々悪いがついてきてくれ」



そう言って、屋敷の人気のない奥までついていくことになった。何か壁をいじりながら男、ハインツは



「早速だが、ラペシュール家は、に関わらず初代当主の代から続いてるある裏家業を営んでいる。当主の子供達が五歳になると、その家業を継ぐか継がないかを選択させる決まりとなっている。」



と語りかけてきた。



「…もやっとする言い方ですね」



そう言い終わったのと同時にガチャンと音が鳴り、壁が消え、下へ続く長いらせん階段が現れた。







階段を降りていく最中、ハインツが話を続けた。



「…大きな組織、団体…わかりやすくいえば国やそういったものだな、そこにいる人間は大きく分けて二つに分かれる。王様に忠実で、誠実な、国のためにはたらく者、そして自らの欲を優先し、国を危うくさせる者がいる。国を危うくさせる者の中には、法律から逃れ、悪事をはたらく者がいる。そう言った者達は、早々に切り捨てる必要があるが、裁くためには長い時間がかかる。だが」



「父上」



ウィンデルがそう遮ると、彼は



「理由なく話をさえぎりごめんなさい。でも、五歳の僕でもそこまで言われれば分かります。

…殺しているのですか?」



と言った。ハインツは少し驚いた仕草を見せた。



「…少し驚いたぞ。勤勉な子だとは思ったが、その歳でそこまで察せれるとは。…暗殺者が出てくる小説でも読んだのか?」



「…何度か」



その後、二人とも一言も交わさずしばらく階段を降りていた。



「!、そろそろ下に着く。ここで止まってくれ」



そう言われ、ウィンデルは首をかしげ



「?、まだ階段は続いていますよ?」



そう聞いたがハインツは



「いいから」



と返した。言ったとおりに止まると、父がウィンデルと同じ目線になるよう屈み言った



「さっきは裏家業について話した。今からはウィンデル、お前自身の人生について話す」



「?、はい」



「暗殺者になることは家業とは言ったが、なにも子供に継ぐよう強制させるわけではない。ちゃんと別の道だって用意されている。だが、暗殺者になることを選べば、その道を選ぶ機会は二度と訪れない。別の道を選んでも、家業自体秘密だから、この話に関係する記憶を消す決まりになっている。つまり、この選択は人生の大きなの選択だ。だから、慎重に選らんでほしい。」



「…、ひとつだけ質問があります」



「言ってみなさい」



「この家業はどれだけの人が救えますか?」



「…、本来、人を救うという仕事ではないからな。多からず、少なからずといった中途半端な人数だろう。それに誰にも気付かれないように行うから、救った人達は誰もお前に感謝しないぞ」



「“感謝そんなもの”いりません」



「ほう」



しばらくの静寂ののち、二人は無言で階段を再び下り始めた。



らせん階段を降りた場所には、大きな鋼鉄の扉が一つあった。ハインツが扉を開けた先には、異様な雰囲気が漂う空間だった。



「何でしょうか、ここは?」



そう言ったウィンデルが見たものは目と口を塞がれ、両手両足を拘束された人種、老若男女問わず数十人ほどの人間が檻の中に閉じ込められていた。



「国内外問わず集めた死刑囚や終身刑が決まった犯罪者たちだ。もちろん非公式のルートでだが」



「この人達は何故動かないんですか?」



「状態維持の手術を施したからだ。手術後その者だけが時間が止まったようにするもので、食事も不要になる。」



「…ここに来た理由は?」



「人が動物を自らの手で直接殺すとき、ほとんどの人間は躊躇う。同族を殺すに至ってはその躊躇いがさらに大きくなる。」



「つまりこれは練習ですか?」



「そういうことだ。…五人ほど術を解く。二人だけでもいい。これで殺しなさい」



そう言い、ハインツはウィンデルにナイフを渡し、檻から五人引っ張り出してきた。ハインツが指を鳴らすと、その五人は動き出した。発した声は、猿ぐつわに塞がれ、声にはなっていないが、少なくともそれは命乞いの類いだろう。



ウィンデルは比較的近くにいた者の胸ぐらを掴んだが、そこで



「質問がもう一つあります」



とここに連れてこられた理由を知ったときに浮かんだ疑問を投げかけた。



「なんだ?」



「どうして人を殺すことを悪いことだと教えるのですか?どうして暗殺者以外の選択肢を用意するのですか?」



「…私たちラペシュール家は無慈悲な処刑人ではない。判決を下す裁判官なのだ。それだけは伝えておこう」



と、遠回しに実戦で他の理由を探せと言われたことをなんとなく察したウィンデルは、持っていたナイフで相手の首を切りつけた。


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