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第9話 カールトンおじ様とのゲームとドレスの仕立て



 明日は学園の寮へ戻る日。


 私は部屋にこもり荷物の整理をしている。ここは遠いので忘れ物がないようにしないと。


 シオンは私のお父様とお母様に呼ばれている。彼のご両親にも会うなど今後のことを確認するためらしい。


 私はこの後カールトンおじ様に呼ばれているので屋敷を出てそちらへ向かう。明日からまたここを離れるのでおじ様とおば様に挨拶をしておこう。


 中へ案内され応接室に行く。ここはおじ様専用の書斎。今でもたまに役人らしき人が意見を聞きにくる。引退してもそれなりに忙しいようだ。


 おば様がだしてくれたお茶を飲んでいるとおじ様が入ってきた。


 「ごめんねリリアナちゃん待たせたね」

 「いいえ。おじ様こそお忙しいのではないですか?」


 話というのはなんだろう。内心首を傾げる。私の気持ちを察したのかおじ様が口を開く。


 「明日リリアナちゃん王都に戻ってしまうだろう。その前に色々聞きたくて」


 言いながらおじ様は木製の盤をテーブルに置いた。これは私といつもするゲーム。学園に入学するまではピアノを弾きに行ったら毎回のように誘われた。


 「ゲームをしようか。久しぶりに。話でもしながら」

 「はい」


 これは一見チェスに似たゲーム。将棋と駒の動きが似てるのですぐ覚えることができた。


 駒を動かしながら色々なことを話す。学園のこととか勉強のこととか。ラウンジの食事が美味しいことも話す。


 おじ様は学園のことを褒めるとなんだか嬉しそう。


 「エドワルド学園での生活は楽しいようで何よりだ。それはそうとリリアナちゃんは次の王様は誰がいいと思う?」


 突然なにを言うかと思えば不思議なことを言い出した。おじ様は若い人の意見が聞きたいらしい。


 「ええと……王様、ですか?王族とか私詳しくないし。あ、それならジークハルト殿下でしょうか。シオンとも仲が良いし」


 私はダグラス公爵の件で殿下の協力も大きかったことを伝えた。おじ様はうんと頷いている。


 それに殿下は攻略対象だし。これからも彼はこの国に大きく関与する存在だと思う。


 「そうか。たしかに殿下は第一王位継承者だしね。その可能性は十分にある」

 「シオンが殿下のそばにいてくれるならきっと大丈夫だと思います。……あ、王様取れた」


 私はふふと笑って駒を取る。なんだかおじ様、わざと負けてくれたような。


 「リリアナちゃん。シオン君のことよろしく頼むね」

 「頼むってそんな。私の方が彼にたくさんお世話になってます。むしろ足を引っ張らないようにと思っているくらいで」


 「そんなことないよ。シオン君はリリアナちゃんがいるから頑張れている。愛すべき存在がいるのはとても幸せなことだ」


 おじ様の瞳が優しく揺れている。私は恥ずかしくなってモジモジと頬を赤くしうつむく。


 たまにおじ様は恥ずかしい台詞を臆面もなく言う。やめてほしい。


 「きっとこれから彼の前に多くの難題がやって来るだろう。場合によっては繊細なあの子には辛いことかも知れない。でも君がいてくれれば大丈夫だ」

 「……おじ様、」


 おじ様はきっと王都で役人だったからシオンの気持ちがわかるのだ。そしてそんなふうに私のことを信頼してくれて嬉しい。その思いに少しでも応えられるよう頑張ろう。


 そう返事をするとおじ様は嬉しそうに頭を撫でてくれた。



 翌日。


 私とシオンは皆に見送られ馬車に乗り込む。


 車窓から広大な牧草地を眺める。この景色もしばらく見納めだ。


 「シオンは昨日、お父様達となにを話していたの?」

 「もう少ししたらお二人とも俺の両親に会うため王都に来ると言っていた。あとリリアナのことを頼むと」


 シオンが私をみてフッと微笑む。


 やはり両親は私のことが心配らしい。しっかり者の彼と婚約したことで安心しているようだ。


 「リリアナは? 先生なにか言っていた?」

 「いつものゲームをしただけよ。あと、おじ様にシオンのこと頼まれました」


 クスクスと笑う。おじ様にとってシオンは子供みたいなもの。どんなに賢くてしっかりしていても心配なのだ。


 一瞬シオンはきょとんとして、けれどすぐに頬をゆるめる。「そうか」と聞こえた気がした。


 そうして私達は馬車の中で色々な話をして王都に帰った。



◇◇◇



 学園の女子寮へ戻った次の日。


 シオンが突然私の所へやって来た。何事かと急いで準備をし談話室に行く。彼は端のソファーに足を組み座っていた。相変わらずの整った容姿だ。


 けれど休暇中なのでそんなに人がいなかった。良かった。私はホッとする。


 「シオン、どうしたの?」


 今日は特に会う約束はしていなかったはず。なにかあったのかな。


 「急にすまないリリアナ。……その、ドレスのことなんだが。持ってきている?」

 「いくつかはあるけど。学園だからそんなに持ってきてないわ」


 しかも持っているのは流行りの意匠のドレスではない。辺境領地と王都では微妙に意匠が違っている。学園内で着る分には良い。けれど正式な夜会や王城での催しとなれば話は別だ。


 私がそう答えるとシオンが頷く。


 「わかった。ドレスを用意しよう」

 「え?」


 言うが早いかシオンが私の腕をとる。馬車に乗せられ向かった先は彼のお屋敷。戸惑う私にシオンが教えてくれる。


 以前約束したようにシオンのお母様とお茶会がある可能性があること。そして今後彼と夜会に出席するかもしれないこと。


 それらを考慮し様々な状況に合わせたドレスをいくつか準備しておいた方がいい。そうお義母様とシオンとで話し合ったらしい。


 「俺は今まで社交界に顔を出すことはほとんどなくてね。こうして婚約もしたしそろそろ出ようと思っている」

 「そうね。シオンは公爵家の人だもの。なるべく招待は受けなくてはね」


 しかも彼は宰相子息。きっと今まで招待状も山ほど来ていたと思う。


 けれどこれから向かう先はシオンのお屋敷。行くならドレスの仕立屋なのに。どうして。


 内心不思議に思っていると彼が車窓から屋敷を見た。


 「ああ、ちょうど向こうも到着している。よかった」

 「向こう? 誰かがいらしているの?」


 仕立屋、とシオンが教えてくれる。


 到着し馬車から降りると玄関先に美しい婦人が待っていた。後ろにも二人女性が控えている。彼女達は私達の顔をみるなり深く頭をさげた。


 「本日は我がリルテ・クチュールをお使いいただきありがとうございます」

 「忙しい中すまない。リルテ婦人」


 使用人に彼女らを案内するよう彼が伝える。私はシオンに手をひかれお義母様のいる部屋へ連れられる。


 「リリアナさん。待っていたのよ」

 「お義母様、お久しぶりでございます」


 シオンのお母様は相変わらず美しい。嬉しそうに微笑まれ、シオンと共にリルテ婦人のいる部屋へ行く。


 「さぁ、これからドレスを仕立ててもらいましょう」


 お義母様がウキウキと目を輝かせている。シオンから聞いた話によると彼女は昔から娘が欲しかったらしい。それもあり私のドレスを選ぶのを楽しみにしていたようだ。


 寸法を測るのでその間シオンは自分の部屋に戻っていった。


 リルテ婦人とその助手の二人が私の体の寸法を測りだす。そして生地を合わせていく。意匠を決めるのは婦人やお義母様にお任せした。


 仕立てはやはり仕上がるまで日数がかかる。それまで既製品のドレスを微修正して何着か使うことになった。


 「やっぱりリリアナさんには水色が似合うわ。薄紫も良いわね」


 あれもこれもと色や意匠が決められる。さりげなくお義母様がピンクも注文している。自信はないけど頑張って着てみよう。


 ドレスに合わせて靴やアクセサリーも選ぶ。こんなにたくさん。私みたいなモブにここまでしてくれることが申し訳ない。


 お金だって相当かかるはず。あとでシオンに少しお金を払うと言っておこう。


 既製品の試着をし確認していたらシオンがそこにいた。珍しく呆けた顔をしている。


 これまでドレス姿を見せたことがない。だからかすごく驚いているようだ。


 あまりにもじっと見ているからだんだん不安になってきた。


 「その、どこか変なところある?シオン」

 「いや……大丈夫。すごく似合ってる」


 なぜかお互い一緒になって頬を赤くしうつむく。


 「シオン。今から仕立てておけば学園の卒業パーティーにも十分間に合うでしょう。他にもこれから使うでしょうから色々揃えておくわね」

 「はい。助かります。母上ありがとう」


 お義母様が嬉々としてドレスの生地を手にし光沢を確認している。


 卒業パーティー。


 どこかで聞いたことのある行事。私は固まる。そうだ。シオンは今年卒業する。だからパーティーがあるのよね。


 たしかゲームでは全学年の生徒が参加する。その時に最も高い好感度のあるメインキャラからダンスのお誘いを申し込まれる。


 そして最後に交際、もしくは婚約の申し込みを受けるのだ。


 「リリアナ?どうした。疲れたのか?」

 「え、……わわ。何でもない、です」


 気づけばシオンの顔が間近にあった。気遣わしげに私をみている。


 「申し訳ございません。リリアナ様。すぐに終わらせますね」

 「ごめんなさいね。リリアナさん、もう終わるわ」


 リルテ婦人やお義母様が心配してくれる。本当は卒業パーティーを妄想して興奮していただなんて。とてもじゃないけど恥ずかしくて言えるわけがない。


 「いえ、大丈夫です。私こそぼうっとしてしまってすみません」


 やがてドレスの試着や寸法直しがようやく終わった。もう今は午後三時。


 昼食抜きでドレス選びをしていたため、シオンのお屋敷で食事をすることになった。


 リルテ・クチュールの人達は忙しいようで、道具を片付け帰っていった。


 私は広い食堂に案内される。シオンとお義母様との三人で昼食をとる。料理はどれも美味しかった。


 デザートのプディングを食べていたらお義母様が紅茶を口にし嬉しそうに微笑んだ。


 「うふふ。今日はすごく楽しかったわ。私、思わず自分の若い頃を思い出してしまって」


 相当楽しかったよう。よかった。


 「女の子が欲しくってね。昔シオンが小さい時、私のドレスを着せたりしたこともあったの」

 「母上、」


 「……!」


 シオンが眉をよせる。私はそれを想像して口元をおさえた。絶対に似合う。見たい。


 当時の彼の絵姿もあるらしく見せてくれることになった。シオンはすごく嫌がっている。


 彼のお屋敷はいくつも部屋がある。その中の部屋の一つに案内してくれた。そこは肖像画や絵画が納められている所だ。


 その中にある金色の額縁にお義母様が懐かしそうに触れる。


 「ふふっ。リリアナさんこれよ」


 そこには銀髪空色の瞳。幼いシオンの絵姿があった。睫毛が長い。女の子のような愛らしい線の細さ。そして私の予想通りピンクのフリルのついたドレスを着ていた。


 「か、可愛い」

 「でしょう?」


 でも今はすっかり男の子になってしまって、とお義母様は頬をおさえ残念そうにしている。隣でシオンが不機嫌そうに息をはく。


 「母上、もういいでしょう。俺は男です。リリアナ行こう。今日は庭を案内したいんだ」

 「いいわよ。行ってらっしゃいな。リリアナさん今日はありがとう」


 「お義母様。こちらこそ、ありがとうございました」


 私は礼をするとシオンに手をひかれお屋敷を出る。そして広い庭園にやって来た。


 そこはたくさんの花が咲いている。美しい場所。ベンチがあり促され座る。


 「当時母上にそれはもう着せ替え人形のようにされてね。……全く困った人だった」

 「お義母様の気持ちもわからないでもないわ。あの絵姿は可愛らしくて素敵だったし。でも今のシオンはもうすっかり男の人だもの」


 彼と初めて出会ったのは私が八歳。彼が十歳。その時もすごく綺麗な子だと思った。さらに幼い頃ならもっとであろうと想像がつく。


 ふとシオンがこちらを向いた。安心したような顔だ。


 「良かった。リリアナにはそんなふうに思われたくなかったから」

 「そんなこと思ったりしない。シオンのこと……その、ちゃんと男の人だってわかってるもの」


 綺麗だけど強いし格好いい。男らしい所もある。そしていつも私を気づかって守ってくれる。


 そう伝えるとシオンが笑った。「ありがとう」と頬にキスされる。


 気がつけばもう夕方。そうして彼は馬車で私を寮まで送ってくれた。

 

 

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