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第17話 新しい生徒会長と学園祭のダンス



 ダンス会場は屋外に設営されている。学園の庭園を使うのだ。


 シオンと一緒にそこにたどり着くとちょうど学園祭の実行委員長が壇上で挨拶をする所だった。その次に学園長の挨拶が続く。


 ちなみにゲームだとシオンは生徒会副会長。ここで新しい生徒会メンバーが紹介される。新旧交代というやつである。


 現在、生徒会長はジークハルト殿下。彼も挨拶を終え次の会長を呼んだ。


 「皆に次の生徒会長を紹介しよう。二年生のリアム・ガードナー君だ。さあ挨拶を」

 「はい」


 殿下に促されリアムと呼ばれたその生徒が返事をし壇上に立った。けれど私は彼の姿をみて唖然とした。


 見覚えのある赤茶髪。ついさっき見た。あの男子生徒達のリーダー的存在の子だ。


 驚いて何も言えないでいると隣でシオンが教えてくれた。彼はあの生徒を知っていたのだ。そして多分生徒会関係者であることも。


 「リリアナ。あれはリアム・ガードナー公爵令息だ。だが心配しなくていい。さっき遭遇した時の姿は今の君じゃない。あの男は君のことを何も知らない」


 だからもう関わることもない。そう言ってシオンは固まったままの私の頬を撫でた。


 もし今後何かあったとしてもあの姿にだけはならないでおこう。私はそう思った。


 来年からはシオンがいなくなる。油断しないで二年間頑張らないと。


 そうしているうちにリアムの挨拶が終わった。ダンスの曲が流れ出しシオンの手が背に回る。私達は自然に手をとりステップを踏む。


 シオンと踊るのは花祭り以来。この学園祭で過ごせるのは今日が最初で最後。本当にこの一年はとても貴重だ。


 彼と目が合う。


 「リリアナ、何を考えている」

 「ううん。違うの。ただシオンが卒業してしまうのは寂しいなぁって、そう思ったの」


 せっかくのダンス。なるべく楽しく踊りたい。私は無理矢理笑顔を作った。


 「ふっ、変な顔になってる」

 「え、嘘」


 私の顔をみて彼が笑っている。戸惑う私の顔をその空色の瞳が悪戯っぽく覗き込む。


 「それなら俺が卒業したら結婚してしまおうか」

 「……シオン?」


 茶化すような言い方とは裏腹に彼の表情は真剣だった。きっとこれはシオンの心の奥底にしまってある本音。


 学生結婚。もしくは結婚と同時に学園を退学することもできる。けれどと私はゆるく首を振った。


 「結婚はきちんと学園を卒業してからよ。私はまだまだ半人前。もっと沢山勉強しないといけないわ」

 「カールトン先生から学んだことに比べればこの学園での勉強なんて全然大したことないと思うけど。でもリリアナがそうしたいならすればいい」


 私がなんと答えるかシオンはわかっているのだろう。瞳が和らいでいる。


 いくつかダンスを踊り疲れてきたので私達は端にあるベンチで休憩することにした。もう陽は暮れてきている。


 中にはまだ踊っている生徒もいた。ある程度経てば自由に解散してよい決まりだ。そのため帰ろうとしている者もいる。


 あれからシオンの機嫌も良くなっているようだ。私はホッとする。けれどそんな私の様子をみてシオンが思い出したように口を開いた。


 「……そういえばリリアナ。さっきの続きは?」

 「……」


 うむむ。やっぱり覚えていたか。


 一度起こった出来事は逐一記憶しているのが彼だ。絶対に忘れるわけがない。


 私は素直に謝った。


 「さっきはその、ごめんなさい。あとありがとう。シオンがいなかったら今頃どうなっていたか……」

 「その通りだ。あそこで俺が助けに入らなかったら君は大変なことになっていた。だが感謝の言葉は嬉しいが、できればそれは行動で示してほしい」


 ん、行動?


 きょとんと私がシオンの顔をみるといつの間にかその整った顔が近づいていた。試すような人の悪い笑み。イヤな予感に私は動揺した。


 「いつも俺がそうしてるように今度はリリアナから。言葉よりもそれがほしい」

 「シオン、ここは学園よ。まだ生徒がいるし誰が見てるかわからない。それは今度にしましょう」


 皆がいる所では恥ずかしい。私が下を向いてそういうとシオンが残念そうに肩をすくめた。


 「暗いからわからない。リリアナは気にしすぎだ」

 「う、……それならシオン。目を瞑ってください」


 「え?」


 突然神妙な口調になった私にシオンが虚を突かれ慌てて目を瞑る。私はすかさず上を向いて彼の顔に唇をよせた。そして一瞬で離れる。


 「…………」

 「……終わりました。今日はどうもありがとう」


 辺りはもう薄暗い。シオンの表情はよく見えないけれど驚いているのだけはわかった。ただ何も反応がないことがすごく不安になる。恐る恐るまた声をかけた。


 「……あの、シオン?」

 「リリアナ。何、今の」


 「えっ、」


 ずれてた、とシオンが言った。思いもよらない言葉が返ってくる。私の必死の行動がむなしく終わる。ショックだ。

 

 「もういい。私、寮に帰ります」


 これ以上彼にからかわれるのはごめんだ。私は立ち上がる。


 寮に戻ったら同級生の子達と談話室で軽く打ち上げしようと約束している。早く帰ろう。


 「リリアナ、」


 不意にシオンが私を呼び止める。返事をする前に手を引かれ、気づけばその腕の中にいた。嬉しそうに囁いてくる。


 「好きだリリアナ」

 「……」


 私は彼の吐息が苦手だ。だってドキドキして何も考えられなくなるから。案の定立てなくなった。いわゆる足に力が入らない。腰砕け状態だ。


 シオンが困ったように笑ってまた私を抱きかかえる。寮まで送ってくれるようだ。やっぱりさっきのキスは成功していたんじゃないかと思う。


 だって寮に着くまですごくすごく彼は上機嫌だったから。


 そして私は皆に注目されながら寮に帰った。



◇◇◇



 「なぁリリアナ。あれすごく美味しかった。また菓子を作ってくれないか?」


 図書室でシオンと二人並んで勉強していたら突然魔術師ジュドーが現れた。私は声をあげそうになったのを慌てて飲み込む。


 シオンの方はこういう情景は慣れているのか彼の姿を見ても全く動じる気配はなかった。


 この人もシオンと同様かなりのイケメンだ。


 そして珍しく神妙な顔つきのジュドー。私はちょっとドキドキした。瞬間シオンが横目で私を見た気がするけど気のせいかな。


 「それはかまいませんが。私は寮にいるので調理場がないんです。今度学園の料理クラブにお邪魔した時に作ってきてもいいですか?」

 

 ジュドーがイヤだと首を振った。


 「それっていつになるかわからないだろう。俺はなるべくすぐに欲しい」


 困った。私がどうしようと思っていたら隣でシオンがペンを置き、ふっと顔をあげた。


 「それなら今度の週末、俺の屋敷で作るか」

 「いいのかシオン。やった!」


 「ふふっ、それならすぐに焼菓子お渡しできそうですね」


 それにシオンの所の調理場なら広いし設備も整っている。種類もたくさん作れそう。多く作れば私も持って帰れるし一石二鳥だ。


 ジュドーは喜んで「それじゃ週末な」と姿を消した。


 「所でシオン。ランドール様とは仲が良いの?」

 「特別仲が良いわけじゃない。ただジュドーはああいう性格だからな。気を使わなくていい」


 特に交流が深まったのはシオンがダグラス公爵の罪を明らかにするため攻略対象達に協力をあおいだことが発端らしい。


 「そうだな。ジュドーは俺よりどちらかというとリリアナのことを気に入っているみたいだぞ」

 「え、私?」


 攻略対象に気に入られるのは悪い気はしない。でも一体いつそうなったのだろう。彼と関わったのは図書室でのことくらい。その時何か深いやりとりがあったわけではない。


 私がそう言うとシオンが溜め息をついた。


 「リリアナは天性の人たらしだからな。俺がしっかり見ていないと。これ以上虫が寄ってきたら大変だ」


 卒業後が心配だ、と彼は呟く。


 私はモブだからそこまで心配しなくても大丈夫だと言いたかったが愛想笑いで誤魔化しておいた。


 そして彼は解き終えたばかりの問題を渡してきた。これは私が作った難解クロスワードパズル。しかも100問。今回のはかなりの力作だ。


 なのにまたしてもあっさり解いた。悔しい。私はぶつぶつと恨み言をいう。


 「……シオンのばか」

 「ん? どこか間違ってたか?」

 

 「うう、これからみます」


 答え合わせをする。やはりというか全問正解。私は二重丸さらに花丸つけてシオンに紙を返してあげた。受け取ったそれを見てほんのり頬を弛ませている。


 やっぱりこの人、頭良すぎ。


 この前の中間試験もシオンは学年トップだった。学園の内申点も上々。これなら補佐官の試験も問題なく合格するだろう。


 「でもどうしてシオンは生徒会に入らなかったの?」

 「ああ。一年の時は生徒会に入っていた。二年途中まで手伝ったりもしていたんだが今年は断ったんだ。リリアナとの貴重な時間を過ごしたかったから」


 たしかに生徒会に入っていたらこんなふうに私と一緒にいるのは難しい。でも生徒会を辞退した理由が私だったなんて。こんな有能な人が。勿体ない。


 一人でそう悶々と考えていたらシオンが私の髪を一房とり口づける。長い睫毛が揺れてつい見惚れてしまった。


 「成績ならもうこれで十分だろう。来年からは俺も忙しい。おそらくリリアナとは週末位しか会えなくなる。この学園にいる間はこうして幸せな時間に浸っても許されるはずだ」


 私は眉をさげる。なんだかとても可哀想になってしまった。


 「もうシオンたら。そんなふうに言わないで。私、あなたのお屋敷に泊まりに行くから。それなら寂しくないでしょう?」


 私の言葉を待ってましたとばかりにシオンがにっこり微笑む。爽やかだ。けれどどこか含みのある笑み。


 「じゃあ、週末焼菓子作りに来たあと泊まっていってくれる?」

 「えっ、」


 言質は取ったよと彼はいう。


 それは来年の話だと思って言ったのだ。私がいくらいってもシオンは一切聞く耳をもってくれなかった。


 やられた。がっくりと項垂れる。


 週末、半ば強引に私はまたシオンのお屋敷に泊まりに行くことになった。


  

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