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第15話 初めての学園祭と演奏会の助っ人



 学園の授業。一時限目が終わった。私は次の授業のため教室を移動する。二時限目は特別講義。お茶会や夜会でのマナーについて講師から習うのだ。


 けれど習うといっても大体の子女は入学前に一通り修得し終えているのが普通。よって講師もさわり程度に教えるだけである。


 そんなふうに次の授業のことを考えながら廊下を歩いていると女生徒達の黄色い声が聞こえてきた。


 見るとそこは修練場。主に男子生徒が体術や弓術をおこなっている。


 授業はまだ始まっていない。


 私も女生徒達の人だかりに混ざり向こう側をのぞく。そこにはよく知る男子達がいた。


 わ、シオンだ。


 相変わらず凛々しい姿。姿勢が良いせいかさらに背が高く見える。そして他に攻略対象四人の姿もある。彼らは弓を手にし的に向かって矢をつがえている。


 そして矢を一斉に放った。


 矢はほぼ同時にそれぞれの的に命中した。私は呆然と口を開ける。


 「す、すごい」


 同時に周囲からワッと声があがる。拍手もだ。


 「リリアナ、」


 不意にシオンが振り向いた。私の姿に気づきこちらにやって来る。周りにいた生徒達がサッと離れた。


 目立つ。これはハッキリいってすごく目立っている。


 私は恥ずかしすぎてうつむいた。逆にシオンはすごく嬉しそうな顔をしている。


 「今の。見てたのか?」


 私は「少しだけ」と答える。すごい人だかりだったのでしっかりとは見えていない。すぐにシオンに手を引かれ私は修練場の端にあるベンチに腰かけた。


 「シオン、汗が」

 「ん、ああ」


 彼の顔から汗が流れていたので私はハンカチを取り出し拭いてあげた。すると彼はわずかに照れ「ありがとう」と微笑んだ。


 三年生の男子は次は修練場で弓術をおこなうらしい。早くに来たので仲の良い五人でどちらがうまく的に当てられるか競争することになったそう。


 「ふふ、シオンもそうだけど。皆上手だったわ」

 「そうだな。あいつらだけは特別だ。他の生徒とは全然違う」


 シオンも他の四人の実力を認めているのかフッと笑みをこぼす。その姿から察するに仲も良さそう。その関係が続く限りこの国はきっと安泰だ。ふとそう思った。


 そうして修練場に集まっていた生徒達がパラパラと散っていく。それをみて私も思い出したように慌てて立ち上がった。


 「いけない。私、これから特別講義があるから違う教室に行くの。またねシオン」

 「ああ。昼休みにまた」


 私はシオンと分かれ急いで教室に向かった。



 そしてお昼休み。


 私はいつものようにラウンジでシオンとランチを楽しんでいる。テーブルには私達二人だけ。チラリと彼をみる。


 「あの、たまにはあの四人とランチしなくても良いの?」


 かねがね気になっていたことを聞いてみる。だって前はよく五人一緒にラウンジにいる所を見ていたから。


 シオンがふっと小さく笑う。


 「いいんだ。あいつらとは合同授業でよく一緒になる。あとリオデルは婚約者ができたから俺達同様よく二人で過ごしている。他の三人は自由に楽しんでるし」


 ちなみに魔術師ジュドーは神出鬼没であちこちで食事をしている。ジークハルト殿下は桃色髪の子と食事をしたり他の子としたりで不特定多数の女子との交流を楽しんでいるそう。


 あともう一人。隣国の王子様は食事は基本一人がいいらしい。


 「そう。それならいいの。でも私にばかり気を使わなくていいのよ。シオンはもう少しで卒業なんだからもっと好きに学園生活を過ごしてほしい」

 「ありがとうリリアナ。でも俺は君と一緒にいたい。こんなふうに過ごすことが俺にとってはかけがえのないものだから」


 シオンの真摯な言葉が返ってくる。私は頬を赤らめた。


 ところでと学園祭の話になった。ちょうど二週間後にそれがある。私の組でも色々準備があるので学園祭が終わるまでしばらくシオンと一緒に帰るのは難しくなりそうだと伝えた。


 「シオンの所はどんな出し物をするの?」

 「俺の組はこの国の成り立ちや政策。そして現在に至るまでの周辺諸国との関係を考察しそれらについて年表等を作って展示する予定だ」

 

 「……そう。シオンはともかく同級生の方達は大変そうね」


 頑張って、と私は心の中で顔も知らない先輩方にエールを送った。


 「リリアナの所は?」

 「私の組は教室を使ってカフェをすることになったの。私は簡単な焼菓子を調理室で作る係よ」


 係はくじ引きで決めたのだけど無事裏方業務になれてホッとしたのを思い出す。あまり目立ちたくないのでよかった。


 ちなみに給仕係は男女混合でそれぞれ服を作る予定だ。女子は可愛らしく、男子は格好よくといった感じ。


 そうなのか、とシオンはちょっと残念そうな顔をした。


 「リリアナの給仕姿も見てみたかった。きっと可愛い」


 何の特徴もないモブにこうして嬉しい言葉をかけてくれる。やっぱりシオンは優しい。

 

 「もう可愛いだなんて。皆と同じ格好よ。でも実は調理係も給仕姿をするの。カフェにお菓子を届けるのに出入りするから」


 あと万が一交代する時用に、と私は答える。


 「あとね私、もう一つの催しに出るから途中で抜けることになってるの」

 「どういうことだ?」


 学園祭では特待生が仕上げた作品のお披露目もある。例えばジルならピアノ演奏。他にバイオリン等の楽器。声楽。絵画芸術作品。様々な分野の特待生達が発表するのだ。


 「それでジル先輩も自分で作曲したものを発表する予定で。私にも少し手伝ってほしいと言われて……」


 「は?」


 何言ってるのと怪訝そうにシオンが私をみている。面白くなさそうな表情。全ての曲ではないがジルに連弾のパートナーにと頼まれたのだ。


 「リリアナ。いつも君は目立つのが嫌だとか言ってるだろう。それなのに皆の前で演奏するなんて。ましてジルと。確実に注目されるぞ」


 それは私もわかっている。だから対策を練ってある。これならきっと大丈夫。


 「それでねシオンにお願いがあるの」

 「断る。今回だけは聞けない」


 珍しい。内容を聞く前に断るなんて。いつもなら協力してくれるのに。私は困った顔をした。


 するとシオンが私から目を逸らしボソッと呟く。


 「……やっぱり聞くだけ聞いてもいい。リリアナはどうしようと思ってるんだ」

 「このままだと目立つから皆にわからないように変装しようと思ってるの」


 「変装?」


 シオンが驚き軽く目を見張る。どうやってと聞いてきた。興味がわいてきたらしい。


 私は彼の耳に近づきこそっとささやく。


 「……え。俺のをリリアナに貸してほしい?」

 「うん。だめ?」


 私の返事にシオンはわずかに考える素振りをした。そして口許に手をやり言いにくそうにしている。


 「それは……」


 やはりダメか。私は胸の前で手を振りさっきの言葉を撤回する。


 「やっぱり忘れてシオン。無理をいってごめんなさい。大丈夫、ジル先輩に借りるから心配――」

 「!? ジルに?ダメだ絶対。俺のを使って」


 「え、」


 途中で私の言葉を遮りシオンが珍しくも大きい声を出した。びっくりした。


 絶対俺のを貸すから他の男から借りるなと何度も念をおされた。私は「わかりました」とこくこく頷く。


 シオンが必死になる理由はよくわからないけどどうにか私のお願いを聞いてもらえることになった。


 まぁ彼の機嫌は微妙だけど演奏会の準備は大丈夫そう。私はホッと息をついた。



◇◇◇



 学園祭当日。


 私は朝から調理室でお菓子作りの真っ最中。


 この学園は貴族の子息子女が通う。そのため料理自体したことのない生徒がほとんど。くじ引きで担当を決めたはいいが、なぜか私がここの料理長的存在になっていた。


 事前に皆でメニューを決め作る練習はしている。飲み物は教室で作るので良いけれど湯はこちらで用意することになっている。


 「リリアナさんチョコクッキー焼きあがったわ」

 「了解しました。冷ましたら深皿に盛りつけてバスケットにうつしてください。あとついでにポットに入れたお湯もお願いします」


 女子だけでは重たい物は心配なので男子とペアになって運んでもらっている。そうすることで交流もできる。ちょうどよい。


 下ごしらえは前日に済ませているのであとはひたすら焼くだけの作業。皆も慣れてきたのか私の指示がなくても動けるようになっていた。


 「これうまいな。リリアナが作ったのか?」

 「へっ?」


 突然声が落ちてきた。背後からひょいと手が伸び目の前にあった焼きあがったばかりのクッキーが一つ消えた。


 振り向くと水色の髪の男子生徒。攻略対象のジュドー・ランドールがいた。モグモグ口を動かしている。


 もう一つ取ろうとしたので私はサッと盆を避けた。


 「わ、つまみ食いはダメです。ランドール先輩。ちゃんとカフェで頼んで食べてください」


 彼は神出鬼没。魔法であちこち移動するのが好きらしい。この国唯一の魔術師一族の青年だ。


 そうこうしているうちにシフォンケーキが焼きあがる。あまりジュドーにかまっていられない。


 ジュドーが瞳を輝かせた。


 「なぁ、これやっぱうまい。少しもらっていいか?」

 「ううん。食券があれば良いんですけど。あっ、じゃあこれ使ってください」


 私はエプロンのポケットから自分用の食券を出し彼に渡す。これなら焼菓子と交換できる。


 今回は特別。私はジュドーにそう言うとクッキーを包み彼の手にのせる。ジュドーは嬉しかったのか、にかっと笑った。


 「ありがとな。この恩は忘れないぜ!」


 これはゲームと全く同じ台詞。私は一瞬固まってその後ふふと笑った。瞬く間に彼の姿は消えていく。


 攻略イベントとは全然違うシチュエーション。だけど意外と好感度上がってたりして。


 まぁモブだから無理ね。


 そんなふうに思いながら私はシフォンケーキを急いで切り分けた。


 「リリアナさんそろそろ交代しましょう」

 「あっもうこんな時間。ありがとうございます」


 同級生の一人に声をかけられる。夢中になって作業していたらいつの間にか自分の休憩時間になっていた。


 調理室入口をみるとシオンがいた。


 休憩時間に学園祭を一緒に見て回ろうと約束していたのだ。私はエプロンを外し調理室を出た。


 「シオンお待たせ。ありがとう迎えに来てくれたのね」

 「ああ。リリアナの所は大変そうだ。俺の組は展示だからそれほど忙しくないんだ」


 シオンは私の様子をみて苦笑した。そして瞳を和らげる。


 「やっぱり可愛い。その姿よく似合ってる」

 「この服ね。フリルがたくさんあってすごいでしょう」


 服は三色ある。ピンク、黄、水色。私は水色を選んだ。カチューシャやエプロンにもフリルがついている。


 この格好で歩くのは恥ずかしい。でも他の生徒で同じ姿の人もいる。少し安心した。


 二人で色々な催しをみて歩く。私にとっては初めての学園祭。シオンが要領よく案内してくれるので歩いていても疲れない。


 お腹もすいたので私達は軽食を提供している組の教室へ行く。そこで私はベーコンエッグのパンケーキを頼んだ。シオンはサンドイッチ。


 「あっ、リリアナさん」

 「わぁ、ケイトさん。すごく素敵な衣装ですね」


 軽食を運んできた給仕姿の女子はケイトさんだ。ミント色のワンピースにエプロン姿。橙色の髪に映えてよく似合う。


 「ゆっくりしていってくださいね」


 ケイトは盆を胸元によせ明るい笑みで次のテーブルへ去っていった。


 「彼女なんだか前と変わったな」とシオンが呟く。私は「そうね」と笑った。


 「リリアナはこのあと演奏会か?」

 「そうなの。それが終わったらカフェに戻って片付けを手伝う予定よ」


 それが終わると学園祭の実行委員の挨拶と共にダンスパーティーが始まる。


 パートナーは自由に決めていい。婚約者がいたり事前に約束している人がいたら、その人が相手だ。私はもちろんシオンと踊る。


 「シオン。私、そろそろ行くわね」

 「ああ。俺も君の演奏を楽しみにしている」


 終わったらパーティ会場で落ち合う約束をして私は演奏会用の衣装に着替えるためシオンと分かれた。


 


 


  

 

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