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第1話 婚約後のシオンとの初めての美術館デート

ハッピーエンドな内容です。

【短編】辺境モブ令嬢は攻略対象の宰相子息に溺愛される

というお話の続きです。

好評だったので書いてみました。



 今日は晴天。おでかけ日和。


 薄黄色のワンピースとクリーム色のカーディガン。茶の髪には薄灰色のリボン。


 私は鏡をみてくるくると回ってみた。この服装目立つだろうか。いや、でも私よりシオンの方が目立つはずだ。


 外出届を出し寮をでるとシオンが私服姿で待っていた。


 彼は襟つきシャツにジャケット。下もそれに合わせている。無難な配色なのになぜか人の目をひく。さすが攻略対象キャラだ。


 相変わらずの整った容姿。つい見惚れてしまった。


 けれどシオンは私の姿に気づくと一瞬とまる。何か変なところがあるのかな。


 「お待たせシオン。……その、私の格好、おかしい?」

 「いや、そうじゃなくて。リリアナいつもと違うから」


 シオンの空色の瞳が優しげに細められる。


 それはそうだ。いつもは地味目の服装だけど、今日はせっかくだから私なりに目一杯おしゃれしてみた。なんたって婚約して初めてのデートだから。


 今日はシオンが王都を色々案内してくれるらしい。楽しみだ。


 二人で馬車に乗り込む。走り出して向かった先は王都の中央から少し離れた場所だ。


 「今日はどこに行くの?」

 「王立美術館だ。王都は広いから、今日はそこにしようと思って」


 美術館はさっくり見ると小一時間。じっくりだとその倍は時間がかかる。私の実家は田舎なのでそういった施設はない。なのですごく楽しみだ。


 車窓から流れる景色を見て心が躍る。


 ん、ちょっと待って。シオンと美術館の組み合わせといえば。


 ハッと私は顔をあげた。もしかしてこれはゲームイベントのうちの一つではなかったか。


 「シオン、ありがとう」


 思わず感謝の言葉を口に出していた。感動だ。


 「? リリアナそんなに美術館が好きなのか?」


 不思議そうに返してくる。


 シオンはそんな私の様子をみてクスリと笑う。そうして美術館だけでなく、次のデートでもまた違う場所へ連れていってくれると約束してくれた。


 それにしてもこんな風にシオンと出かけるのは二年ぶり。馬車の中で隣り合わせに座っていたら、手を繋がれる。


 「…………」

 「リリアナ、こういうの嫌?」


 「い、嫌じゃない大丈夫、です」


 友達じゃない。恋人同士の手つなぎデートに身悶えしそうになったが、どうにか耐えた。


 「早く慣れてね。……じゃないと次のことできないから」


 しれっと気になる台詞を言われた気がする。シオンの顔を見上げるも、その表情からは何も読み取れなかった。


 美術館に到着するとさっそく案内してくれる。もちろん手は繋いだままだ。


 馬車の中なら誰もいないのでまだ平気だったけれど、外はやっぱり恥ずかしい。周りをみるとなぜかこっちを見てくる人が多いような気がした。


 きっとシオンがいるからだと思う。


 彼はこの世界のメインキャラのうちの一人だ。眉目秀麗、美しい銀髪空色の瞳。目立たないわけがない。


 「……リリアナ?」

 「あっ、ごめんなさい。何か言った?」


 周囲の目を気にしながら美術品を眺めるのも一苦労。どうしても気が散ってしまう。


 隣でシオンが心配そうにこちらをみてきた。


 「ごめん。色々歩いたから。少し休もうか」


 気を遣わせてしまった。


 館内には併設された上品なカフェがある。ここでは美術品も展示されており、それらを眺めながらゆっくりお茶を楽しめる。


 シオンにここで休憩しよう、と言われ席につく。


 私は季節の果物ののったケーキ、シオンはチーズタルト。それぞれ紅茶を頼む。


 穏やかな空間だ。店内にはピアノがあり、緩やかな調べが流れている。


 先程見てまわった絵画の話やそれにまつわる、この国の歴史についてシオンが教えてくれた。やっぱり彼は博識で、時々歩く歴史書なんじゃないかと思うことがある。


 「ふふっ、シオンはやっぱり物知りね」

 「そんなことない。王都にいれば自然と詳しくなるものだ」


 とはいえ彼は見えない所ですごく勉強している努力家。成績は常に学年トップ。首席で卒業できるんじゃないかと思う。


 「リリアナ、ついてる」

 「……?」


 ふいにシオンの手が伸ばされ、私の口元に触れる。あ、と思った瞬間彼はそれを口にしてしまった。ちょっと微笑んでいる。


 ケーキのクリームがついていたのだ。


 恥ずかしいやら、その時のシオンの仕草がやけに艶めいているやら。私の顔は真っ赤だ。


 すると向こうから給仕と共に紳士然とした男性がやって来るのがみえた。彼はシオンに頭を下げ名刺を渡し話しかけてくる。


 どうやら美術館についての感想を求めているようだ。


 ここは王国の所蔵する美術品を展示してあるが売買できるものも別室に飾られている。この男性は美術商。シオンは公爵家の子息ということを彼は知っていて、美術品の紹介をしたいのだ。


 「リュミエール様――」

 「リリアナ、少し席をはずしてもいいだろうか?」


 シオンは彼に視線で応じるとこちらに顔を向ける。私はわかりましたと頷いた。


 「ええ、もちろんよ。私はここでゆっくりしているから急がなくて大丈夫よ」

 「すまないリリアナ。すぐ戻る」


 「ここでいい子にしていて」とシオンは美しい動作で立ち上がると、指輪のある方の私の手の甲にそっと口づける。


 周りからキャアと声がした。


 恥ずかしい。それでもどうにか、行ってらっしゃいと言えた。


 シオンが席を外すと途端に静かになった。私は待っている間、美術館のパンフレットを見ることにした。


 いつの間にかピアノの音はやんでいる。


 あれ、と振り返ると奏者の姿がみえない。きっと休憩時間になったのだろう。


 けれどポーン、ポーンと音が聞こえた。見ると子供が遊び半分に鍵盤をたたいている。


 私はその子のそばに行くと声をかけた。


 「おねえさんが何かひいてあげようか?」

 「ひけるの?」


 「うん」


 なんでもいい、とその子が答えたので私はピアノの前に座った。


 序奏は私好みの切ない感じの映画の曲を微修正し弾く。そしてこの国でも有名な曲を違和感なく組み込んだ。


 この美術館の穏やかな空気に溶け込むように。

 

 これまで前世にあった曲を弾いても全て適当に作ったといってすませてきた。不審に思われたことはない。


 カフェ内にいた人達がまぁ、と好意的な声をあげた。


 集中して弾いていると、隣に誰かが座った気配がした。周囲がざわめいている。


 わ、どうしよう。さっきの奏者の人、帰ってきたのかな。


 まずいと思って手を止めようとしたら、その人も鍵盤をたたきだす。これは連弾だ。


 主導権はこちら。この人は合わせて弾いてくれている。ただ者じゃない。


 繊細でそれでいて跳ねるような指使いだ。さすがプロ。それでも四つの手で弾けるなんて、滅多にない。夢中になって弾いた。


 曲が終わり拍手が聞こえる中、顔をあげる。隣をみると青い髪の若い男の人だった。すごく綺麗な人だ。


 「……あの、すみません。勝手に弾いてしまって」

 「かまわないよお嬢さん。俺は仕事で弾いてるけど、基本誰が弾いてもいい決まりだ」


 上手だね、と褒められた。ちょっとというかかなり嬉しい。相手はプロだし。


 その男の人はふわりと笑って、私の手を持ち上げる。そしてそこに唇を近づけた。


 だがそれはもう一人の人物の手によって阻まれる。


 驚いて私がその手の主を見上げると、よく知る銀髪が目の前で揺れている。


 「シオン、」

 「申し訳ないが、彼女は俺の大切な人なんだ。手を離してくれないか」


 シオンは私をみていない。彼の視線は青い髪の男性に向けられている。男性は驚いたように慌て、すぐにパッと手を離した。


 「これは失礼しました。貴方の奥様でしたか」

 「あっ、まだ結婚――」


 「リリアナ、」


 シオンに睨まれた。ちょっと鋭い目になっている。


 きっとその人は私の指輪に気がついたのだろう。薬指にだから結婚していると思ったのだ。


 この指輪はそういう風にもとれるのね。


 一人納得していると、シオンが私の手を掴んで立たせる。


 「リリアナお待たせ。行こう」

 「うん」


 連れられて歩いていくと広い庭園に出た。


 美術館には絵画だけでなく彫刻も展示されている。屋内だけでなく屋外にもいくつかあるのだ。


 美術商の件はシオンのお母様に任せるらしい。宰相であるお父様は日々多忙で家政にかかわることは難しい。そのため、リュミエール家では妻が領地や家の中のことを取り仕切る。


 「まぁ、父も母に任せきりでなく、時間のある時母の相談にのったり決めたことを確認しているけどね」

 「そうなのね。シオンのお父様、国政にたずさわるのだもの。お忙しいわよね」


 それでも聞いている限り、シオンのお母様は超有能。相当できる方のように思う。


 お父様はきっとお母様を信頼しているのね。


 綺麗に手入れされた庭園を二人で歩く。ベンチがあり、シオンに促され腰かける。


 「それはそうとリリアナ。さっきのことなんだけど」

 「……?」


 どうしたのかと不思議そうにしていると、シオンが私の頬に触れてきた。


 「君の演奏は素晴らしいし俺も好きだ。けれどあれは感心しないな。女性ならいざ知らず男となど」


 いい子にしてって言ったのに、とシオンは傷ついた顔をしている。


 「ごめんなさい。……その、ピアノを弾いていたらいつの間にかあの人が戻ってきて隣に座って……。でも途中で私がやめるべきだった」


 けれどシオンはそうじゃない、と眉を寄せた。


 「違う。俺が言いたいのは、君があまりにも無防備すぎるということ。あんなふうに簡単に触れさせないで。あれを見た瞬間、俺が何のために今まで我慢していたのか……おかしくなりそうだった」


 苦しいようなやるせないような表情。最近みせるようになった顔の一つ。こんなのゲームに全然なかった。

 

 「リリアナ、もっと俺の気持ちに追いついて」


 シオンはいうなり私を抱き締めてきた。


 驚く間もなく私はそのまま口づけられる。


 シオンは奏者の男性が私に触れたのが許せなかったようだ。けれども私も油断していたと謝る。


 「ごめんなさいシオン。今度から気をつける」

 「ん、」


 そうして私達はまた庭園内を歩き出す。精緻で美しい彫刻をみて感想を語り合う。シオンとこんな風に意見を交わす時間が私は好きだ。


 気がつけば二時間以上は経っている。庭園にある水時計でそれがわかったのだ。


 私とシオンはお互いに顔を見合せ微笑む。


 「そろそろ帰ろうか、リリアナ」

 「うん、そうね」


 また連れてきてね、と今度は私からシオンの手をつないだ。

 

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