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女の戦い?(1)

感想やブクマや評価をありがとうございます。

「女の戦い?」全3話です。






 それは、ユリアの懐妊が知られ始めた頃のことだった。


「ローレン様ぁ」

 甘ったるい声を廊下に響かせながら、桃色のドレスを翻し令嬢が駆けてくる。

 国王の護衛たちは警戒して剣に手をかけた。

 従者たちの顔も険しい。『ローレン様』ではなく『陛下』と呼ぶべきだろう。

 ローレンは苛つく気持ちを抑えた。即位してまだ1年ほど。足場を固めているところだ。領主会議でこちらに味方する派閥や、関わる家の令嬢であれば穏便に接しておくのが無難だった。


 ローレンは無表情なまま令嬢に視線をよこした。

「バロウ侯爵令嬢。なにか御用か」

「そんなお堅い言い方はなさらないで。

 お昼をご一緒させて頂こうと思いましたの」

 令嬢はにこやかに答えた。

 約束もなく女の方から国王を食事に誘うとは礼儀知らずも甚だしい。

「悪いが、食事中も打ち合わせをする予定だ」

「まぁ……。そんな食事の仕方では体に悪いですわ。誰も陛下の健康を気遣ってくれませんの?」

 令嬢は従者たちに咎めるような視線を向けた。

 彼らは綺麗に無視をしてやり過ごす。この女を避けるための言い訳だと御令嬢は気づかないらしい。


 ローレンは「では失礼する」と言い置いて踵を返す。

「ローレン様、お食事は楽しくゆっくりすべきですわ」

 令嬢はしつこく追い縋ってくるが、護衛の近衛が「ここからは部外者は立ち入り禁止です」と冷淡に告げると流石に立ち止まった。


 最近、ローレンの周りに鬱陶しく女性たちが纏わり付いている。

 王妃が懐妊したことが知られ始めたこの時期に、だ。要するに、国王夫妻が閨事から遠のく……すると、国王が欲求不満になっているところを第二夫人の座を狙った女たちが近づいてくる。

 よくある話だ。けれどマリアデア王国では第二妃を勧めてくる者はごく稀だ。前の第二妃イレーヌが色々やらかした嫌われ者だったので皆、「第二妃はこりごり」と思っている。ゆえに、わざわざ「第二妃は如何か」と言ってくる強者はほぼいない。

 全くいないわけではないが、いても速攻で断っている。それなのに、幾人かの令嬢はあからさまにローレンに言い寄り始めた。


 ローレンが『今度はもっと厳しく言うべきか』と考えながら執務室へ向かうと、宰相と近衛隊長、それに衛兵本部長がなぜか来ていた。


「セーラ・バロウ侯爵令嬢が王宮に入り込んでいると言う報告を受けました」

 近衛隊長が口を開いた。

「隊長は把握されていたか。

 なぜ居たのだ?」

 ローレンは三人をソファに勧めて尋ねた。

「父親が文科部高官と言う立場の侯爵令嬢ですから、門番が止められなかったとのことです。一応、それらしい理由は申請用紙に記してありました」

 隊長は眉間に皺を寄せて告げた。

「父親が令嬢の愚行に関わっているのか、確かめたいと思っています」

 宰相も珍しく険しい顔だった。

「そもそも、入る時に高官に確かめれば良いだろう」

 ローレンは以前から思っていたことを述べた。

「一般人にはそうしています。ただ、高官以上の位の者は、家族なら慣例として許していました。

 ここでいきなりそういうルールを入れる……という方法も良いかもしれませんが、この度は間に合わなかったわけです」

 本部長は言い訳を述べた。

「その件は後で検討しよう。

 とりあえず、さっさと尋問でもすれば良いのでは?」

「高位貴族や大臣に真偽判定の魔導具を使うのは手続きが面倒なのですよ。何しろ、国家機密を握っている立場の者たちですからね」

 宰相はそれをしたくない理由を端的に述べた。

 真偽判定ができないのなら、偽証されまくりではないか、と言外に匂わせる。


「それで、陛下に協力をもらいに来ました。

 令嬢たちをしばらく泳がせていただきたい。証拠固めをする間でよろしい」

「気は進まないが……」

 ローレンはつい、本音をこぼした。


「それは陛下の心情的にはそうかもしれませんが。

 細かいところは陛下にお任せしますから、とにかくのらりくらりと時間稼ぎをしていてください」


 宰相はそう丸投げをしてきた。

 ローレンも宰相の言わんとするところはわかる。さほどの無理を言われたわけでもない。


 防犯には気を使われているはずの国王に平気で近づける女が複数いるのは問題だ。

 近寄ってくるのは、大臣の娘のような高位貴族令嬢ばかりだ。よほど目に余るようなら彼女らの家に「娘をよこすな」と注意すれば良いとローレンは考えていた。

 けれど、宰相らは、

「きちんと調べてそれ相応の処罰を与えた方が良い」

 と言う。

 正論だ。その通り。そうすべきだ。


 ただし、調べは難しいだろう。

 もしも、大臣らが部外者の令嬢を王宮に引き入れたのなら、それなりの処罰が要る。

 だが、もしも令嬢が自分の独断で、父親の立場を利用して王宮内に入り込んだのなら厳重注意で良いだろう。


 要するに、父親である大臣や高官の意図によって結果は違う。調べもしないで処罰をすれば公平に裁けない。

 そのため、「調べがつくまで、待って欲しい」とローレンに言ってきたわけだが、ローレンは『時間がかかりそうだな』と陰鬱に思った。


 ローレンは今の所はやんわりと「執務中だ」とか「予定が詰まっている」とか適当に言って避けていた。彼女らの家を気遣い、邪険にはしなかった。

 だが、鬱陶しいのは確かなので、そろそろガツンと言ってやろうかと思っていた。


 ――とりあえず、証拠固めが済むまでは現状維持か。


「コルネール公爵も『適正な処罰は要るだろう』と仰ってましたよ」


 義父からも言われていたと知り、ローレンは従うことにした。もとより、従うしかない。


 ローレンが次に悩んだのは、

 ――このことをユリアに言うか?

 だった。

 第二夫人の座狙いの令嬢たちがローレンに近づいていると知ったら、ユリアは気にするだろうか。

 しばし、自分の妻のことを思い浮かべる。

 ローレンは結論した。


 ――ユリアなら、何も気しないな。


 そう思うとまるで自分が愛されていないかのように思われてツキリと胸が痛んだ。

 そもそも、一目惚れしたのはローレンの方だ。ユリアに付き纏い、自分の立場も利用して婚約し、妃になってもらった。

 きっと、愛されていると思う。けれど、自分が妻を愛しているほどではないだろう。

 高魔力もちの魔導士気質なユリアを妻に選んだ時から覚悟はしていたのだ。

 とりあえず、面倒な説明を妻にする必要はないと判断し、いつもの執務に戻った。


◇◇◇


 ユリアは、最近、侍女たちの様子がおかしいことに気づいた。

 なぜかユリアがローレンの執務室に近づくのを避けているようだ。

 ――なんで?


 以前であれば「そろそろ陛下は休憩時間ではありませんか」などと、食事を一緒にとるのを勧めていた。「夫婦仲が良いのは安産の秘訣」とまで言われた。

 それなのに、ここ最近はローレンに会えていない。

 同じ王宮内で暮らしているのだから、ローレンの休憩にユリアが合わせれば一緒に食事くらいはできた。

 ――……なんか、気になる。わざと……よね? どうして理由を言ってくれないのかしら。変だ。


 単に国王が忙しいのなら理由を言えばいい。それに、ローレンは、夜は普通にいつも通りの時間に私室に帰ってくる。それほど多忙とは思えない。

 気になりだすと、あれこれと考えが止まらなくなった。

 ――もしかして? アレ、かしら。


 ローレンは、誰かからもらった果実酒入りの菓子をユリアに内緒で食べていたことがあった。

 酒は妊婦にはよくないと思ったかららしい。

 ユリアが菓子の箱に気づいた時にはすっかり空だった。空き箱に記されていた菓子店の名でわかった。評判の菓子だ。侍女たちが熱心に噂をしていた。

 箱には果実酒の芳醇な香りと菓子の甘い香りが残っていて、香りだけでも美味しそうだった。

 一つくらい味見したって、大丈夫なのに! とユリアはイラっとしたのだが、菓子一つで大人気ないと思い気づかないふりをした。

 ――もしや、また、自分だけ美味しいものをお昼に食べてるのかも……。


 理由を訊けば良い、とは思うがもっと確実な方法がある。

 ユリアは、侍女たちを振り切って、ローレンに会いに行くことにした。

 昼休憩に差し掛かる頃、ユリアは王妃付きの侍女たちに、突然、宣言した。

「ちょっと主人に会ってきます」

「王妃様、でも、あの……」

 突然のことに優秀な侍女が慌てているうちに部屋を出た。

 廊下を突き進み、王族の居住する宮を出てすぐに執務室のある建物に入る。

 護衛はユリアの急足に従っているが、侍女は遅れ気味だった。

 ユリアは領地の田舎道や畑を歩き回って育った。足腰は見た目よりも丈夫だった。


 あと少しでローレンの執務室に至る廊下まで来た……、と行手に数人の男女の姿があった。

 背の高い男性は、ユリアが会おうと目論んでいたローレンだ。

 

 その周りを見知らぬ令嬢が取り囲んでいる。

 煌びやかな一行にユリアは知らず目を見開いた。

 令嬢たちは、まるでこれから宴でもあるかのように華やかだった。紅色、桃色、クリーム色とそれぞれのドレスに身を包んだ令嬢は3人いた。

 髪の色も金色、焦げ茶、赤毛と派手だ。ユリアはゆっくりと近づきながら、令嬢たちの顔まで化粧で派手なことに気付いた。


 なぜそんな令嬢たちが自分の夫に纏い付いているのか?

 わけがわからないが、不愉快なことは確かだ。

 さらに近づくと、夫がユリアに気づいた。

 ここまで近くに来るまで気づかれなかったのは、令嬢たちが熱心に彼に話しかけていたからだろう。

 夫が昼食に誘われているのは甲高い女の声でわかっていた。

 夫は「申し訳ないが、ご一緒できない」と返答をしているのが聞こえた。

 女性たちの声に比べると夫の返事はあまりに控えめで、ユリアは眉を顰めた。

 ――もっと、キッパリはっきり、断るべきよ!


読んでいただいてありがとうございます。

明日も夜8時の予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 令嬢の独断であるかどうかで刑罰が変わる意味が判りません。 令嬢がどう思っていようとも、つまり、その意図がどうであろうとも、(犯罪)行為の事実それ自体は変わらないので、杓子定規で裁けばよ…
[一言] ローランユリアへの愛は筋金入り、なのは王太子時代から側近や侍女たちには知れ渡ってますが、ユリアからの矢印は分かりにくそうですよね。ローランの横に立っても恥ずかしくないよう相応しいように、容姿…
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