表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

(13)

今日の投稿は、こちらで2話目になります。






 レーナ・ダロンは、喜び勇んでリグラスの執務室に向かった。

 ――きっと、上手くいってるわ。

 ユリアとリグラスがたとえ一時でも深い関係をもつのは嫌だけど……。


 前世の記憶の中で、ユリアは強敵だった。

 まず、ユリアの見た目が、異常に面食いなリグラスの好みど真ん中で、おまけに大切な後ろ盾となる公爵家の娘だ。

 ユリアが、もしも、もう少し「緩い女」だったら、リグラスはヒロインによそ見することはなかっただろう。

 リグラスは、愛情をスキンシップで確かめたい、よく言えば「寂しがりやさん」、悪く言えば「スケベ野郎」だった。

 リグラスはユリアに触れたくて、キスしたくて、必死に迫るが、うぶなユリアは戸惑い、おまけに、父親のコルネール公爵を始めとして、周りのガードが固い。

 欲求不満がたまったリグラスに、ヒロインのラッキースケベが炸裂。

 据え膳を目の前にぶら下げられて、あっさり、リグラスは食ってしまう。

 ヒロインは、つまり、赤裸々に言えば、リグラスを身体で篭絡するのだ。


 とは言え、やっぱり、リグラスにとって、ユリアは初恋のひとで、これ以上ないくらい好みで、嫌われたくなかった。

 おかげさまで、物語はぐちゃぐちゃな修羅場の様相を呈する。


 結局、リグラスはヒロインを選ぶが……。

 ユリアがヒロインを虐めていた、とリグラスは思い込んでいたが、実際は、ユリアが嫉妬で精神不安定に陥り、魔力暴走した結果だったり、ユリアの取り巻きが勝手にやっていたことだったと後から知り、リグラスは最後までウジウジと悩む。

 昼ドラも真っ青なモダモダぶりなのだ。

 いつまで未練たらしくやってんだよーと、リグラスを殴りたくなるような、すっきり感のないもやもやが続いて、やっとこさ終わる。


 オーディエンスの立場で見れば、なかなか面白い。

 あー、またドロドロしてるー、とみていられる。

 でも、自分があの主役をやりたいか、と言えば、きつい。


 ――でも、仕方ないわね。

 それに、この世界のユリアの容姿って、かなりダサいみたいだし。


 婚約披露の宴では「すごい可愛い」とかいう噂も流れたので、焦ったのだ。

 でも、実際にリグラスが本人に会ったら「豚の丸焼きが、食い残しの骨になっただけだった」とせせら笑っていた。

 とりあえず、リグラスが本当にユリアに惚れることはなさそうだ。

 ゆえに、安心して計画を進められる。


 ――前世の知識って、ときどき役に立つのよね。


 攻略者が、無理矢理、ヒロインを手に入れるための奥の手だ。

 『身籠らせてしまう』と言うわけだ。

 ただし、単に身籠らせても逃げられる可能性はある。

 この国には『修道院に入る』という逃げ道があるのだ。

 そうなったら、かなりヤバい。

 むしろ、王太子の道は閉ざされてしまうだろう。

 そこで、契約書類に魔法をかけたやつに署名させる。

 国神の名を記しておくのがミソだ。

 リグラスの子を身籠るのと、神の名のもとに契約し署名するのと、このふたつのコンボで結婚を余儀なくさせる。

 とは言え、本当に結婚までしなくてもいいのだ。

 とりあえず、『結婚せざるを得ない』状況さえ作れば間違いなく婚約することになる。


 ――で、リグラス王子は、王太子になれる、と。

 そのうえで、あの婚約破棄イベントに持ち込めばいい。


 ユリアの有責で婚約破棄すれば、リグラスの立場は悪くならなくて済む。

 ――ユリアの子供は、コルネール家で育ててもらえばいいし。

 うんうん、完璧!

 ホント、最初は、どうしようかと思ったけど。

 あまりにも、なにもかも違ってて。


 まず、リグラスが想像以上の性悪でアホだった。おまけに、ちょっときれいな令嬢がいると、すぐに空き教室に連れ込む。


 ――誑し込むのが、すんごい上手いんだから……。私もやられたから分かるけど……。

 あの美貌で微笑まれながら、「君はとても綺麗だ」とかうっとりと言われると、もう頭がおかしくなるのよ。

 まるで「惚れられてる」ような気になって……。


 でも、実際には、リグラスが誰かに惚れているというのはない。

 断言できる。

 リグラスが好きなのは、リグラス自身だけだ。


 この3年ほどで、すっかり思い知った。

 今は、恋人がレーナしか居ないので、レーナに執着しているように見えるけれど、本当に好かれているか? と言えば首をかしげるしかない。

 ――相変わらず、思いやりの欠片もないし。


 レーナも、リグラスが王太子になる見込みがあると知らなければ、逃げていた。


 ――そうよね、ふつう、見込みがあるなんて、思わないわよね。


 王子のくせに、学園の成績が最下位にほど近いなんて、あり得ない。

 魔法実技の授業で、リグラスが炎撃を放とうとして、ロウソクの炎みたいなやつをちょろちょろさせたときの衝撃が忘れられない。


 『違うーっ!』と叫びそうになった。

 確かに、リグラスは、母親のイレーヌ妃の魔力が最低なために、条件が悪かった。

 ただし、父親の血筋の方は、魔力が高い。

 こういう場合、幼少時に訓練をすると、幾らか魔力を高めることができる。

 リグラスは優秀な魔導の教師が付けられていたので、成人までの訓練で魔力をかなり高められた……はずだった。


 ――……はずだった、のに。

 まぁ、私もひとのことは言えないけど……。


 実は、レーナもそうだった。

 父親は男爵だが、母親は美貌の侍女だ。商家の出で、つまり平民。

 父は男爵のわりに魔力が高い。

 ゆえに、レーナも、幼少時にしっかり訓練をすれば、少なくとも貴族の平均くらいの魔力にはなれた。


 ――くっそー。訓練、しなかったのよね。遊んでて。


 思えば、前世の知識を思い出したのが早すぎたのかもしれない。

 自分がヒロインであることに気付けば、レーナの性格なら、ぜったい、調子にのる。

 レーナは絶世の美少女で、ちょっと微笑んであげれば周りの男の子たちが傅く。

 母の実家に居た頃は、大した家の子は周りにいないけど、なかなか綺麗な少年もいた。

 相手は本気だったかもしれないが、レーナにとっては、恋愛ごっこ、ヒロインごっこだった。

 美形の男の子に、「好きだ」と言わせるのが楽しかった。

 前世知識があるから、勉強もたやすい。

 楽勝楽勝、悠々自適人生じゃん、と思ってた。

 けれど、前世チートの底上げは、すぐに意味がなくなった。レーナは、前世でも算数が苦手だった。

 ――語学とか、発音が難易度高すぎて、やる気おこんないレベルだし。


 もちろん、『ヒロインは王子様を攻略しなきゃ』という目的を忘れるわけがない。

 レーナの王子様は、リグラス第二王子だ。

 この国でもっとも美しいひと。

 苦労の末、物語の通りに編入生として王立学園に通い始めると、リグラス王子はすぐにレーナを見つけてくれた。

 速攻で口説いてくれて、その日のうちに空き教室で結ばれた。

 順調にリグラス王子ルートに進んでいる……。

 ――いや、もう「王子ルート」なんていうもんじゃないけど。

 単に引っかかっただけ、っていう……。まぁ、王子はさすがに美形だからいいけど。


 これで、すんなり王妃になれれば言うことはなかったが、そんな甘いものではなかった。

 想定外のことが幾つもあった。


 リグラス王子があまりにも顔だけ王子で、王太子になれる可能性が低かったこと。

 本当なら、リグラス王子の婚約者は、ユリア・コルネール公爵令嬢だった。

 9歳のころに婚約したはずだった。

 コルネール公爵は厳しいひとで、娘の婚約者であるリグラスをビシバシ鍛える。

 毒親のイレーヌ妃と国王から引き離し、鍛えまくったおかげで、リグラスは第二王子でも王太子候補だった。

 ――実際は違うけど。


 国王がリグラス王子を溺愛していて、激推しなので、大丈夫……と思いたいところだけれど、ローレン王子の可能性も高い。


 ――変だ……。

 ローレン王子は、暗殺者に狙われ毒を盛られ、16歳の成人前には身体が不自由だったはずなのに。


 レーナは、王妃と敵対する貴族を必死に思い出した。

 小麦の独占でぼろ儲けしている富豪だ。

 その金をつぎ込んで、呪薬を手に入れ、王妃と第一王子の暗殺を画策する。

 結果、ローレン王子は殺し損ねるが、身体に後遺症が残り、王太子争いから一歩遠退くのだ。


 ところが……。

 ――調べてみたら、そこまで小麦市場を独占している貴族っていなかったのよね。

 よほどの金と力がなければ、呪薬なんて手に入らないわ。

 王妃は聡明だし、用心深いから、暗殺なんてそう簡単には出来ないし。

 ローレン王子って、リグラスとはタイプ違うけど、美形なのよね……。


 どうもうまくいかない。

 ――でも、とにかく、ユリアとリグラス王子の婚約は必要なのよ。

 あ、そういえば、隠れ攻略者の帝国の皇子も来ちゃうし。

 私の魔力量がもっと高ければ狙えたのにっ!

 知的美人の皇女は、リグラス王子の好みじゃなかったらしくて、浮気の心配はなさそうなのは良かったけど。

 なんか、陛下とイレーヌ妃は、リグラス王子を皇女とくっつけようとしてるし……。

 私が見たところ、皇女は乗り気じゃない感じなのに。


 レーナは、グギギと奥歯をかみしめた。


 その後。

 リグラス王子から作戦失敗の知らせを聞き、さらに奥歯をかみしめる結果となった。








いつもありがとうございます。

明日も1話か、あるいは2話、投稿します。

2話でしたら8時と9時、1話でしたら9時の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ