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いつもありがとうございます。

今日は2話投稿します。

こちらは1話目の投稿になります。






 ラミダとお茶をした帰り。


 手配した馬車が来るのを待っていると、呆れたようにマールスに言われた。

「彼女とは、仲が良いんですか? 悪いんですか?

 あまり性格が良いようには思えませんでしたが」


「性格は悪いと思うわ。そこまで性悪でもないのだけど、自分勝手なの。

 一応、従姉妹だから、幼いころから付き合いはあるし、もう慣れてるわ。

 ラミダが卒業するまでは王立学園の情報をもらえてたしね。

 レン様の学園での活躍を聞きたかったの。

 でも、結局、彼女はリグラス王子の方がお気に入りで、リグラス王子の恋人の話とかばかり聞くことになったけど。

 それに、以前、無視をして振り払ったら、叔父にないことないことホラを吹かれて鬱陶しかったからつい付き合ってしまったわ」

「ああ、叔父上殿ですか……」

 マールスは知っているのだろう。


 ユリアの叔父は公爵家の次男だったが、放蕩がひどく、勘当寸前だったところをアズバン男爵家に婿入りしてなんとか貴族に踏みとどまれた。

 コルネール家の兄……つまり、ユリアの父を逆恨みしている。

 自分の放蕩が原因だったくせに。

 そういう叔父に絡まれるのは鬱陶しいのだ。


 ――貴族やら親族やらの付き合いは、面倒で苛立たしいばかり。


「領地の仕事だけしていられればいいのに」

 ついうっかり愚痴を零すと、マールスに生温い目で見られた。

「ローレン殿下もそう仰ってました。

 好きなことをやってほしい、と」


 ユリアは思わず頬を赤らめた。

 ローレンは、ユリアに甘いのだ。

 今、身につけている認識阻害の魔導具もそうだ。

 もう姿を隠す意味はあまり無いのに、外すなと言う。

 婚約者は、本来なら少しでも見栄えがいい方が、ローレンの評判のためには良いだろうに。


 ローレンがユリアに「一目惚れした」と言ったのは、ユリアが小太りだった頃だ。

 一目惚れなんて信じていなかった。

 ローレンの愛情表現は、小太りの頃から一貫して甘ったるい。

 ユリアが痩せてもローレンの態度は終始変わらなかった。


 コルネール邸に戻ると、裏庭に足を向けた。

 丸太のベンチに腰を下ろすと、目の前に広がるのは小さな畑。

 キビの根本に丸い瓜の蔓が這いまわり、ごつい緑色の実が覗いている。

 豆がもうすぐ収穫だ。

 葉物野菜の周りを可憐な蝶が飛んでいる。卵を産み付けようという魂胆だろう。

 卵がかえれば柔らかい葉は虫食いだらけになってしまう。

 でも、ユリアの畑では、特に虫の好む野菜のすぐそばに、虫よけ効果をもつ野菜やハーブを植えている。衛兵たちもいる。

 ――瓜は育ちすぎる前に収穫しなきゃ、皮が固くなるわ。あの甘酸っぱい果菜ももう食べごろね。


 ふいに土を踏む足音がしたかと思うと、ユリアの隣にどさりと誰かが座った。

 いつもの香りと豊かな魔力の余韻で、足音に気付いた時から誰なのかは知っていた。

「ユリア」

 名を呼びながらローレンがユリアを抱き寄せた。

 ローレンは、ユリアの首にかけられた認識阻害のペンダントを手に取り無効化した。

 ローレンがくれたものだ。

 『私以外に姿を見せる必要はない』とか言いながら。

 当時は、意味がわからなかった。

 今でも、ちょっとわからない。


 ローレンはユリアの頬に口づけし、唇にも啄むような軽いキスを落としてから、

「愚弟と会ったって?」

 と、気遣う目を向けた。

「呼び出されたの」

「私に無断で」

 ローレンの秀麗な眉が歪む。

「王子妃教育の件で、という名目だったから油断してたわ。

 部屋で待っていたらリグラス王子が来たの」


 ローレンの情報が早いのは、マールスからマメに報告がいくからだろう。


 リグラスに呼び出されたのは3回目だ。

 先の2回はローレンが同席してくれた。

 リグラスが「ユリアの婚約者を、兄上から僕に変えてもらう予定だ」といきなり告げた途端、ローレンは即答した。

「断る!」


 珍しく腹を立てた様子のローレンに抱え込まれるように部屋をでた。

 リグラスは驚きすぎて言葉も出ない様子で目を剥いていた。


 2回目の時もほぼ同様で、リグラスは「父上も賛同している」と自信満々に告げたが、ローレンは前回と同じく、

「私は聞いていない、断る!」

 と即答して帰った。

 3回目の今日は、ユリアだけ呼び出したというわけだ。

 敵は徐々に巧妙になっている。


「署名を断れて良かった」

 ローレンが安堵している。

「私は未成年なのに? もしも署名してたら、契約として成り立つの?」


 ユリアは今年16歳だが、あと3ヶ月はまだ成人前だ。


「マールスが覗き込んで見ていたので内容は大体わかるが。

 国神の名があったのだろう?」

「『ゼルべガルム神に誓って伴侶となることを願う』とか書いてあったわ」

 ローレンは険しい顔になった。

「婚儀の誓いを書面で記したようなものだ。

 その上で、ユリアがあいつの子を身籠ることでもあれば、結婚が既成事実化されるだろう。

 たとえ未成年でも、子ができたら事情が変わるんだ」

「ゾッとするわ」

 本当に背筋が寒くなった。

 ユリアが嫌そうにしていると、ローレンが肩を抱く手に力を込めた。

「そんなに私の愚弟が嫌か?」


 ローレンは、ときおり、そんな風に尋ねる。

 確かめるように。

 リグラスは「不思議なほど女にモテる」らしい。

 女を口説く手腕は天才的だ、とローレンは言うのだ。

 本当に不思議だ。

 ユリアは彼に惹かれたことはない。

 初対面で豚と罵られたのも、未だに嫌な思い出として残っている。

 『生きている資格はない』とまで言われたのだから。

 『こんな醜いものを視野に入れるな』とかも言われた。

 あまりにひどいセリフ過ぎて、現実味がなかった。

 おかげで、トラウマというほどでもないのだが、そこまで言われて、美男だからと惹かれるわけがない。

 そもそも、ユリアは、面食いではない。魔導士系のマッド気味な研究者気質で、ひとの顔と名前を覚えるのが苦手だ。基本的にあまり研究対象以外には興味を持たないほうだ。

 そんなユリアにここまで嫌がられるリグラスは、確かに、ある意味、天才だ。


「嫌に決まってるわ。

 顔に性格が滲み出ているし」


 ユリアがそう言うと、心配そうにしていたローレンがようやく、表情を緩めた。

 ――信頼されてないなぁ……。


 少し寂しくなる。


「ハハ。

 でも、ユリアの従姉妹殿が話していたレーナ・ダロン嬢の話は興味深かったな。

 調べてみるよ」

「そう?」

「リグラスが、ユリアとの婚約に乗り気になっているのが気になっていたんだ。

 今、国王は、ソライエ帝国から留学している皇女とリグラスをくっつけようとしているからね」

「くっつくかしら」

「たぶん、無理かな。

 あちらは、きっちり調べてきてるから。

 リグラスは、そんなに魔力は高くないしね」

「王族なのに?」

「母親のイレーヌ妃が、低すぎたんだ。

 低いというより、ほとんどないかな。

 おかげで、母方に引き摺られるようにして、リグラスの魔力は低い。

 父の魔力量は高かったのだから、子供の頃に訓練すればけっこう底上げが出来たはずなんだが。リグラスがきつい訓練なんて、やるわけがない。

 魔力量の鑑定結果を隠しているからあまり知られていないけどね。

 ドマシュ王国の王族は魔力が低いので有名だし。

 リグラスの魔法実技の有様を見れば一目瞭然だな」

「でも、それでも、国王は、帝国の皇女とリグラス王子が婚約することを望んでいるの?

 リグラス殿下に2回目に呼ばれたとき、陛下が私とリグラス殿下との婚約を望んでいると言っていたのは?」

「父上はいい加減だし、リグラスも適当なやつだから、言ってることが当てにならないんだ。

 でも、イレーヌ妃は、今は皇女を狙っているし、まだ諦めていないはず」

「そうなのね……」


 ――それなのに、リグラス王子が私との婚約を画策するなんて、やっぱり変よね。


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