21:突撃? 隣国のお城訪問
再び兵士に囲まれるのではないかと、一応の警戒はしていたのだが。
町に戻ってみると、俺の予想に反して状況は一転していた。
ひとまずギルドールの家に向かうべきかと思っていたのだが、その道中で何やら仰々しい集団がやってくる。
それは兵士たちだったのだが、行きに包囲された時のように、武器を向けられることはない。
「魔獣連れの一行だな。国王陛下がお会いしたいと申している。ご同行願う」
威圧的な物言いにも聞こえたので、グレイが思わず威嚇する態度を取る。けれど、どうやら無理矢理にでも連れて行こうというわけではなさそうだ。
恐らくだが、俺たちが不在の間にシアとギルドールが話をしてくれたのだろう。
そう信じて、俺はその兵士たちについて城へ向かうことにした。
「……何か、妙な感じっスね」
「とりあえず、ギルドールさんたちが上手くやってくれたことを願うしかないかな」
グレイの言いたいことも、わからなくはない。
町ゆく人々はこちらを奇異の目で見てくるのだが、恐怖して逃げ出すこともなければ、石を投げられるようなこともないのだ。
兵士たちと一緒だからということもあるのだろうが、俺たちは縄で繋がれているわけでもない。
少なくとも、罪人として連行されているわけではないことは、理解してもらえるだろう。
招き入れられた城は、ルカディエン王国の城とはまた違った造りをしていた。目にも賑やかな調度品が多い印象だ。
町が祭りのように賑わっていたこともあって、この国の国王もそうした雰囲気を好む人なのかもしれない。
そんな中で通されたのは、応接用の部屋ではなく玉座の間だった。
入り口から国王と王妃のいる玉座まで、真っ赤な絨毯が敷かれたその両脇には、兵士たちがずらりと並んでいる。
思わず回れ右をしたくなったのだが、その前に背後の扉が閉じられる音が聞こえた。
退路は断たれた。腹を括るしかない。
「そなたが黒き魔獣を従えた勇者か」
「は、はい……」
勇者だなどとは思っていないが、それが一番手っ取り早い説明であることは承知している。俺は渋々ながらに国王の言葉を肯定した。
この国でも、その言い伝えについては共通だと聞いている。
悪人ではないと認めてもらえたのだろうかと思う一方で、今度こそ投獄される可能性もあるのではないかという不安も拭いきれない。
「だから、魔獣じゃなくて猫だってば!」
そこに響いたのは、緊張感のある空気を台無しにするような少女の声だ。
再び背後の扉が開いたかと思うと、遅れてやってきたシアが俺たちの所へと歩み寄ってきた。
今日は城の中だからか、白地に髪色と同じくピンクを基調としたドレスを身に纏っている。こうして見ると、お姫様だというのも頷けた。
「おお、スマンな。どうにもそのネコという呼び方に慣れんのだ」
「っていうか、アタシの友達だって言ったじゃない! アンタたち、大至急ここに椅子を持ってきなさい!」
「いや、シア、大丈夫だから……!」
どうやら、俺たちはシアの友人として城に招かれたらしい。とはいえ、国王と王妃の前で椅子に座って談笑をするというのは違う気がする。
バダード国王は友人として扱ってくれているが、この国の国王や王妃とはそういった関係性は無いのだ。
傍にいた兵士に命令をする彼女を慌てて止めると、不満そうな顔をしながらも思い留まってくれた。
「まずは、そなたたちが悪意ある人間だとして、捕らえようとしてしまった非礼を詫びよう。プリシアが友人だと言い出した時には、騙されているのではないかとも思ったのだがな」
「無理もありません。俺たちは急にこの国にやってきて、しかも魔獣を連れていたんですから」
「プシリアは奔放な子でね、私たちも手を焼いているのよ。だからこそ、万が一がないように、信頼のおけるギルを目付け役にしていたの」
「万が一なんか無いわよ! アタシ、人を見る目はあるんだから!」
「今は彼らと話をしているんだ、お前はちょっと黙っていなさい」
国王は厳しそうな見た目をしていると思ったが、シアとのやり取りを見ていると、普通の親子と変わりないように見える。
自分の娘が悪人に騙されていないか。心配をするのは、親として当然の反応だろう。
「そういうわけでな。捕らえにやった兵士たちが、プリシアの命令で戻ってきたと聞いた時には耳を疑ったが。ギルドールの話を聞いて、本当にそなたらが悪い人間ではないのだと知ったのだ」
「オレもまさか、魔獣に関する治療に手を貸す日が来るとは思っちゃいませんでしたけどね」
「ギルドールさん……!」
次いで現れたギルドールもまた、今日は正装をしている。といっても白衣なのだが。
国王や王妃と対等に話をする姿を見て、彼らは本当にこの城に関わりの深い人間であるのだと、改めて実感する。
「お話した通り、魔獣は害の無い生き物だ。それは彼らに同行する過程で、実際にオレの目でも確かめました。隣国では魔獣と共に生活をしているという話も、裏付けが取れましたしね」
「だからアタシが直接見てきたって言ったじゃない! 信じなかったクセに!」
「さすがに、魔獣と共生していると言われても信じられんだろう。お前ではなくギルドールが言い出したことだったとしても、信用はできなかったよ」
彼らの話しぶりを聞くに、どうやら猫カフェのあるルカディエン王国に、事実かどうか確認を取ったのだろう。
頭ごなしにあり得ないと決めつけるのではなく、この国の国王は、きちんと真偽を確かめてくれる人のようだ。
「俺たちは、本当に魔獣と一緒に暮らしています。ただ、それによって新たな病が出てきてしまって……その治療法を探すために、この国に来たんです」
「ああ、その話も二人から聞いたよ。それで、伝説の薬草というのは、見つけることができたのか?」
「はい、見つかりました。シアやギルドールさん……みんなが協力してくれたお陰です」
俺は、袋の中から取り出した薬草を証拠として見せた。
発光する薬草に国王たちは驚いていたが、ギルドールは興味深そうにこちらへとやってくる。
彼に薬草のひとつを手渡すと、観察するように色んな角度からそれを眺めていた。
「確かに……形は普通だが、こんな薬草は見たことがねえな。詳しく調べてみる必要はあるが、恐らくこれが伝説の薬草に間違いないだろう」
俺たちよりもずっと詳しいであろうギルドールの目から見ても、やはり普通の薬草ではないらしい。
俺は改めてコシュカやグレイと顔を見合わせて、目的を達成することができたのだと喜びを共有する。
「魔獣についての情報は、我々でも精査をする必要がある。……が、プリシアの人を見る目は、確かであるようだな」
魔獣についての情報をすべて鵜呑みにしたわけではないようだが、ひとまずは俺たちの言っていたことが嘘ではないのだと、信じてもらうことができたのだろう。
「そなたらが欲していた薬については、こちらでもギルドールに協力をして、完成させられるよう責任をもって努めよう」
「ありがとうございます……!」
「こんなだけど、腕は確かだから。安心して待ってるといいわ」
「こんなとは何だ。まあ、期待はしておいて構わないぜ」
俺たちにできることはここまでだ。あとは、ギルドールが治療薬を完成させてくれることを願うしかない。
元の世界にも存在しなかった、猫アレルギーを完治させる薬だ。
本当にそんなものが作れるのか、不安が無いといえば嘘になるのかもしれない。
それでも、俺はギルドールならきっと薬を完成させてくれると思った。
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