表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣、抜いちゃいました。  作者: さぼてん
トラック1 轟々咆哮、氷の刃
4/35

03 聖剣使い

「あら?ジンさんはいずこに?」

翌日、カフェ『スターズ』1階。ロゼッタは姿を見せないジンに疑問を感じ、そう尋ねた。

「あー、あいつなら急用出来ちまってな。しょうがねぇから休ませた」

「え、マジですの?」

以前彼が抜けたあの日――財布騒ぎがあったあの日の惨状を思い出し、目を点にするロゼッタ。その額からは、一筋の汗が流れ落ちている。

「おう、大マジ」

軽く返すバイセンだったが、彼にも焦りはあった。急遽決まった故に、欠員の補充はできていない。早い話、一人抜けたまま。


「「……」」


二人は目を点にしたまま見つめあい、沈黙。


(今度何かおごってもらいましょうかしら)

(アイツ外れだったらただじゃおかねぇ)


そんな思いを巡らせながら――



(なんか今、すげぇ寒気した……)

同時刻。背筋に走るものを感じ、俺は身体を震わせた。おっかしいな、まだ夏前だよな?

まぁいいか、と気を取り直し、俺は目の前の家を見つめる。

ここが、あの子の家。

朝だというのに、カーテンをぴっちりと閉め切ったそこからは、異様な気配が漏れ出していた。

俺は意を決し、ドアをノックする。反応はない。試しにドアノブを回し、押してみると――


「……開いた」


「お邪魔しまーす……」

ギギ、と重々しい音を立てて、ゆっくりと扉は開いた。恐る恐る、入ってゆく。

人としてどうかとは思うが、緊急事態だ。悠長なことは言っていられない。

家の中は明かりはついておらず、カーテンを閉め切っているせいで真っ暗。まるで、ここだけが夜であるかのようだ。

木がきしむ音を聞きながら、カンテラの明かりを頼りに、周りを見渡す。

すると――


「こんな時間まで、どこをほっつき歩いていたんだい!」

怒声とともに、『何か』が飛んできた。俺は体を反らしてそれを躱すと、飛んできた方角へカンテラを向ける。そこには――


「……ッ!」




身の丈4メートルは越そうかというほどに巨大な怪物がいた。

人間の女性の上半身の下から生えた、蜘蛛の胴体のような下半身。赤い目を光らせるそれは、明らかな異形のモノ。

どうやら、俺のカンは当たっていたらしい。

「んん?お前、ケンじゃあないねぇ……誰だ?」

怪物の質問に、俺は――





「お前を倒しに来た者っす……『ハイヴァンド』!」


怒りを伴った叫びとともに、応えた。


「へぇー、あたしらを知ってんのかい……まあいいや、朝飯にはちょうどいい」

怪物がそう言った次の瞬間。周囲の景色がぐにゃりと歪んだ。これは――洞窟か。


「!」

それを観察していた時。怪物の口から、何かが吐き出された。黄色く、濁った液体。

俺はカンテラを放り捨て、それにぶつけた。

その瞬間空中でカンテラがドロドロに融解し、べしゃりと落ちた。


「なるほど……まともに喰らうのはヤバそうすね……!」

言葉とともに、俺はあるものを取り出す。

それは――『剣』。

全体的なカラーリングは黒。

刀身は氷の塊を思わせるクリアブルーのパーツに覆われ、ごつごつとしている。

丸鋸と短剣を混ぜたようなフォルムのそれを見て、怪物は驚愕した。

「そっ、それは!まさかアンタ!」

「ああ、その通り、俺は……」


俺は丸鋸の部分、左側面に付いたカバーを開きつつ、あるものを取り出す。

それは、レコードを思わせる円盤。その表面には、『Eject A Monster』と書かれている。

俺はそれを剣の丸鋸部分へセットし、カバーを閉じる。

そして三回グリップを引っ張り、持ち手に付いたトリガーを押した。

すると、

『記録、再生! 剣に宿りし聖なる力が、悪しき魂を分かつ!』

そんな音声が鳴り響き、刀身が白く輝く。


「俺は『聖剣使い』!お前たちを……倒すものだぁっ!」

叫びと同時に、俺は怪物へと駆け出した。


「くっ!」

動揺しながらも尚、俺へと向けて酸の玉を打ち出す怪物。俺は左右に飛んでそれを躱し、どんどん距離を詰めていく。

続いて、糸を固めて槍状にした物体が飛来。

俺は体を回転させつつ剣を振り、横一文字にそれを切り裂きながら、跳んだ。

そして頭上を飛び越し、奴の下半身へ飛び乗る。

「ぬぅ!」

上半身を180度回転させ、俺を睨む。

俺は構わずグリップを三回引き、エネルギーをチャージ。そしてトリガーを押し――

『イジェクションストラッシュ!』

「でりゃあああっ!」

思いきり、怪物の身体へと突き刺した!


「うぐぎゃああああああっ!?」

悲鳴とともに上半身を揺らし、見悶える怪物。傷跡から光が漏れ出しているのが目に見えた。

「よぉし……!」

そして程無くして、怪物の上半身から人間の女性が分離した。俺はそれを抱きかかえつつ、ジャンプ。


「貴様、よくも、よくもぉ……っ!」

呪詛を吐きながら、身体をグネグネと振るわせる怪物。その顔には、くっきりと青筋が浮かんでいる。

俺は女性を壁側にそっと寝かせたのち、奴を指差し叫んだ。


「親子の絆を利用するハイヴァンド!お前は……俺が斬る!」


これで遠慮する必要はもうどこにもない。今こそ、その時だ。

俺は再びカバーを開くと、円盤を取り出し、腰に付けたホルダーへとしまう。そしてそこから別の円盤を取り出し、手をかざす。

すると、口を開けた恐竜の頭部のシルエットと、「Legend Of Dinosaur」という表記が浮かび上がった。

俺はそれをセットし、カバーを閉め再びグリップを三度引っ張る。

そして俺は叫び、トリガーを押す。


獣装(じゅうそう)!」


「ほざけぇーーっ!」

同時に、怪物が酸の玉を放った!

しかし、俺は躱さない。なぜなら――


「何ぃ……!?」

俺の全身を、すっぽりと巨大な氷の塊が包み、それを防いだからだ。


Crash(壊せ)! Break(壊せ)! Destroy(壊せ)! Extinction(絶滅せよ)! レジェンドオブダイナソー!』


そしてコール音とともに、氷が真っ二つに割れた。その中から現れたのは――



「ウオォォォォォ―――ッ!」


『記録、再生! 凍土より蘇りし大いなる獣が、全てを無に帰す……!』

上体を反らせて咆哮を上げる、戦士の姿。

氷のような透明の装甲に覆われた全身に、恐竜を連想させる頭部。

蒼いバイザーの奥に輝く、黄色い瞳。

視点を変えれば、まるで人型機動兵器のようにも映る。



そう、これこそが聖剣使いに与えられた、戦うための姿。

その名は、『メモリアナイツ・レクス』――!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ