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聖剣、抜いちゃいました。  作者: さぼてん
トラック1 轟々咆哮、氷の刃
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02 再会と、叫びと

「うし、そろそろ帰るかー」

それから数日後。

今日は店が定休日。俺は街へと繰り出し、休みを満喫していた。

大体の用事を済ませ、帰路に就こうとしていたその時。

「ん?」

何やら、路地裏の辺りが騒がしい。大声――これは、怒鳴り声?

喧嘩でもしているのか、と俺はのぞき込む。そこには――


「さっさと返しやがれ!わかってんだぞコラァ!」

「ガキだと思って甘いこと考えてんじゃねぇ!」

「そうだそうだ、痛い目にあいたくないだろ!」

3人で一人を囲み、口々に怒鳴りつけるガラの悪い連中。その相手は、


(あれって、この前の!)

あの日、俺から財布を盗んだあの少年だった。彼は後ろ手に財布を隠し、3人を睨みつけていた。またひったくったのか!?

しかし、相手は大人。このままでは大事になりかねない。

最悪の事態が俺の脳裏をよぎる。瞬間、俺は思わず走り出し、彼らへ向けて叫んだ。


「あのー!ちょっといいっすか?」

「何だてめぇ!取り込み中だ、すっこんでろ!それともお前、コイツの保護者かなんかか?」

「違います。けど、そういう訳にもいきませんよ。子供相手によってたかって、ってのはちょっと見過ごせないっす」

俺は話しつつゆっくりと、少年と男たちとの間へと割って入る。

「ハハハ、正義の味方気取りかぁ?」

「コイツぁ傑作だ!」

「ぎゃはは、バカみてぇ!」

俺を馬鹿にしながら笑う男たちだが、それはどうでもいい。

これで気は少しそれたはず――俺は少し振り返ると、少年に囁いた。

「ほら、早いとこ返したほうがいいっすよ」

「……」

しかし、少年は黙りこくったまま動こうとしない。

そして――


「まぁいいや、とりあえず邪魔だ!」

「ぶっ!」

男の拳が、俺の顔面を捉えた。

思わずしりもちをつき、顔を抑える。拭った腕には、鼻血の跡がついていた。


「お兄さん!」

ここで初めて、少年が声を上げた。彼は起き上がろうとする俺の側に駆け寄り、おろおろと俺を見つめている。


「っつつ……大丈夫っすよ、これぐらい」

俺は彼を安心させるべく、笑って見せる。

だが、この状況はかなりマズい。下手に抵抗するわけにはいかないし、どうすれば――そう考えていると。


「なぁに余裕こいてんだぁ?」

「がっ!」

男のうち一人が、俺の背中を蹴りつけた。それを皮切りに、男たちの目的は俺を痛めつけることにシフトし――



「あでっ、ててて……おやっさん、もうちょっと優しく……」

「文句言うな。ったく、どうしてこうお前はトラブルに首を突っ込みたがるんだか……」


カフェ『スターズ』の2階の一室――俺の部屋。俺はおやっさんに傷の手当てをしてもらっていた。

あれから数分ほど痛めつけられた後、少年が財布を返したことで、何とか男たちの気は収まった。

傷だらけで帰ってきた俺を見ておやっさんはコーヒーを噴き出していたけど、とにかく最悪の事態は免れ、俺は内心ほっとしていた。


「あの……」

少年――名前はケンというらしい――が、申し訳なさそうに話しかけてくる。

「その、ごめ――」

「いいのいいいの!こんぐらい、気にしなくてもいいっすよ!こう見えても俺、鍛えてるんで!」

彼が言い終わるより先に彼の頭をわしゃわしゃと撫で、力こぶを作るジェスチャーで大丈夫だ、と言うアピールを送る。


「それにしてもお前さん、この前こいつからも財布ひったくったんだって?何でそんな年で盗みなんかに手ぇ出してんだよ。親御さんはどうした?」

「それは……」

当然の疑問を投げかけるおやっさん。ケン君は目を反らし、少し後ずさる。

するとその拍子に、彼の懐からくしゃくしゃの紙が一枚床へ落ちた。

「ん、何すかこれ」

俺はそれを拾い上げ、広げてみる。それは―


『おかあちゃん だいすき』


そう書かれた文字の下で手をつなぐ、母子の姿を描いた絵だった。


「へぇー、いい絵っすね!ケン君が書いたんすか……って、いいっ!?」

俺が彼の方へと目線を戻し、そう言った直後。なんと彼はぼろぼろと涙をこぼし、泣き始めてしまった!


「ごめん!勝手に見ちゃいけなかったっすね!これ、お返しするっす!」

慌てて絵を返そうとする俺だったが、彼はふるふると首を振り、衝撃的な一言を放った。


「おかあちゃんに……おかあちゃんに言われたんだ!金目の物を盗って来いって!」


それから、彼の感情は一気に爆発した。わんわんと泣きじゃくりながら、たまった思いをひたすらにぶちまける。

数十分に渡って続いたそれを、俺たちはただ、黙って聞いていた――



「あ、おやっさん。ケン君は部屋っすか?」


それから少し経ち、夜。1階でカウンター前の椅子に座っていた俺は、階段を下りてきたおやっさんにそう尋ねる。

「ああ、ぐっすりだよ。よっぽど辛かったんだろうな」

カウンターの中の椅子に腰かけ、おやっさんはため息交じりに言う。

「実の母親が、わが子に盗みを強要するとはねぇ。胸糞悪い話だ」

「はい……けど」

「ん?」

俺は少し息を飲み、まっすぐおやっさんの目を見つめて言った。


「どこか、引っかかるんすよね」


話によれば、ケン君の母親は優しい女性だったらしい。それが2週間ほど前から、急変したというのだ。

一日中金目の物を盗ませるために彼を外へ放り出し、何も成果がないときは彼を怒鳴り、罵り、さらには暴力を加えたのだという。

彼の体のあちこちにある殴られた時の傷跡や痣から、その激しさ、そして彼の感じた恐怖と悲しみがひしひしと伝わった。

しかし、俺はその話に何処か違和感を覚えていた。

そんなに突然、人の性格が変わってしまうことなどあるのだろうか?それも少しというレベルではなく、180度変わってしまったと言っていい具合に。

そんなの、まるで――


()()()()()()()()()()、か?」


俺が考えていたことをピタリと言い当てたおやっさんは、少し口元をにやりと曲げる。


「はい。やっぱり、あまりにも急すぎます。まさか……」

「まぁ可能性が無くはないな。で、どうするよ」

「直接行って、会ってみます。もし俺のカンが当たりなら……」

「そうか。けどそうじゃない場合、深入りはするな。そん時は然るべき所に任せる他ない」

「それはわかってます」

「オッケー。なら、明日は空けてやるよ。行ってこい」

「ありがとうございます!」


そう言って、俺は部屋へと戻った。ベッドには、すやすやと眠るケン君の姿。

俺は彼の頭を少し撫で、呟いた。

「よく言ってくれたっすね。後は任せて。必ず、君のお母さんを助けてみせるっす」


そしてソファへと横になり、目を閉じた――


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