1話:アイネ・ガルシア
現在20歳の、俺の一日の本番は夜だ。
朝は寝て、昼は大学の実習という名の睡眠、夜はエナジードリンクを飲んで、ゲームをぶっ通しでやるというのが、俺の日課だ。
しかし今日は大学で疲れており、ゲームのやる気が出なかった。
気晴らしにでも行くかと思い、夜散歩へと出かける。
京王電鉄の調布駅が最寄りであり、新宿、八王子市街、高尾山、そして橋本に行くことができる。
その調布駅まで散歩に行く。
夜と言ってもまだ午後8時なので、塾帰りの小学生や汗を流したサラリーマンが多かった。
季節は春。桜が芽を見せてくる時期だ。
調布市には野川という川があり、そこでは毎年桜のライトアップが開催される。家族連れやカップルがやたらと多く、幸せをもろに出ているのが無性に腹が立つ。
俺は北海道函館市出身。大学のために上京しているため一人暮らし。そのため家族は北海道にいて会うことができない。
彼女?俺にはそんなものはいない。
彼女いない歴=年齢なのである。
だから、幸せをもろに出ているやつをみると腹が立つのだ。
可愛い子が現れないのだろうか。素晴らしい出会いはないのだろうか。
深いため息をして歩いていると、なんということだろう。調布駅前の公園にゴスロリ女がいたのだ。
ここはアキバではない、調布駅だ。ここはコミケではない、調布駅だ。
10代後半くらいだろうか。髪の毛は黒髪ロング。肌は白く、身長は160cmくらい。目はくりくり丸い二重。まつ毛はとても長い。鼻は高く、まるでスラブ系の顔立ちである。
そんな人形のような美少女が調布駅前で杖のようなものを上下に振り回していた。そしてなにか唱えている。
俺はそれを見つめていると、可哀想になってきたので目をそらそうとしたその時。
そのゴスロリ美少女が儀式的なのをピタリとやめ、ゴスロリ美少女は俺に目線を送ってきた。
あ、これやばくね?え、ロックオンされてね?
俺はその場を立ち去ろうとした刹那、警官が走って俺の方に向かって走ってきた。
するとその警官は叫ぶ。
「あぶない!そいつは地震を起こしている容疑者だ!ここから離れろ青年!」
俺は警官の言うことに従い、走って駅前の市役所の方面へ逃げる。
数分後、市役所へ逃げ込んだのでもう安全だ安堵のため息をついた途端、俺の周りにいた人々の動きがピタリと止まった。まさかと思い、腕時計をみると針が止まっていた。
「時が、止まった、だと!?」
俺は叫び声が漏れてしまった。
すると、時が止まっているはずなのに返答が聞こえた。
「ええ。そうよ。あなた以外の奴らの時間は私が止めたわ」
俺は夢かと思った。あぁ、これは夢だ。
と思ったが、ほっぺたをつねっても目が覚めない。
そう、これは現実だったのである。
「わたしは並行世界、んまあ紛らわしくなるから異世界から来たってことでいいわ。王立ソフィア魔術大学の、って言っても、ここは異世界だからわからないわよね。あんたたちの世界だったらアメリカとかいう国にある、ハーバード大学とかいうとこと同じくらいのレベルだわ。それでわたしは魔術の実験をしていたの。そしたら異世界にきてしまったわ。ホッカイドゥー?とかいうとこの湖に降り立ったってわけよ」
今俺は近頃起きていた地震の原因を理解した気がした。
「君がこの世界に降り立った時、その反動で地震が起きた、そういうことか」
俺は独り言のように呟くとゴスロリ美少女がそれに反応してきた。
「そういうわけなの。だから私は起こしたくて地震を起こしたわけじゃない。あと、私が起こした地震はそれっきりよ。他の地震は私じゃない」
「ってことは、他の誰かも、異世界からこの世界に来てるってことか?」
「そういうことになるわ。わたしがこの世界の空間を狂わせてしまったせいで、入りやすくなってしまったってわけね」
「おいおい、ってことはまだまだ地震が起こるってことかよ」
「申し訳ないけど、そういうことになるわ」
ゴスロリ美少女はとても申し訳なさそうに、下を向く。
『ぐぅ』
ゴスロリ美少女のおなかから音が聞こえた。
「もしかして君、お腹空いてるの?」
すると美少女は頬を朱色に染める。
「馬鹿!聞くな!」
「君、ご飯とか住む場所はいつもどうしてるんだ?」
「えーっと、駅前で、私の世界の宗教の儀式をしていたら男の人たちからお金をもらえるというスパイラルに気づいたから、それで稼いでいるわ。シンジューク駅?とかいうところだといっぱいお金もらえるから一週間に一回はいってるわ。住んでる場所は、シンジューク駅の宿だわ。でも、もう宿ぐらしは飽きてしまったわ。ねぇ、あなたって一人暮らし?」
「え、そうだけど、」
「あなたの家に少しの間泊まらせてもらえないかしら?」
美少女は上目遣いで俺をみてくる。
「だめ、、かしら。。。」
「あーー、わーったよ、いいよ」
「やった!」
と思った次の瞬間、時間を止める魔術が切れたようだった。時間が動くと次々に、警官と自衛隊がゴスロリ美少女を取り囲む。
「フタマルサンマル、これより作戦を実行」
「了解」
自衛隊は特攻してくる。
俺は、無意識に体が動いて自衛隊を止めようとしたが、勢いに負けて押し倒され、気を失ってしまった。
鳥の声が聞こえてくる。朝のようだ。
俺は目を開けると自分の家のベットで横になっていた。
「なーんだ、夢じゃねえかよ」
というと、布団の下の方がもぞもぞと動いた。
「なんだ!!」
俺は叫ぶとゴスロリ美少女が布団からひょこっと顔を出した。
「あら、よかったわ。目を覚ましたようね」
「目を覚ましたようねじゃねえ!俺の家までどうやってきた!」
「あなたの頭の中の記憶を探ってここだと分かったわ。あの後、自衛隊と警官にもう一度数少ない魔力を使って時間をとめて睡眠魔法を使ったわ。そしてあなたを連れてここに来たの」
え、普通にすげぇ。
「あなた、名前は?」
「俺の名前は千羽大雅。たいがってよんでくれ。そっちは?」
「私はアイネ・ガルシア、こっちの世界では『あい』という名が多いらしいわね。じゃあ『あい』ってよんでちょうだい」
「よろしくな、あい!」
「ええ、よろしく、たいが」
俺たちは友好の握手をした。