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第03話 ソウタ vs <神殺し>ユート #2

俺はバラエティ番組のような観客の爆笑に晒されながら、もう一度、上空のステータスを確認する。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

転生名: ソウタ

転生スキル: 【空気が読める】

転生先世界: 『せっかく死んだのに勝手に最弱スキルの<空気が読める>で転生させられて、潜り込んだ勇者パーティーからも追放された件について 〜パーティーがギスギスして困るから戻ってこいと言われても、お一人様を極めて生きるのでもう知りません〜』

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


いやいやいや。


おかしいでしょ。スキル、何て?【空気が読める】?


そんなもん合コンとかで役立つ奴じゃねえか!バトルで使える能力じゃないと不公平だろこれ!?


転生先でも何かパーティーの人間関係に翻弄されてすげー疲れそうな感じするし、そもそもお一人様って何だよ!?


俺の混乱をよそに、無慈悲な実況が響き渡る。


《勝利条件は相手の戦闘不能かギブアップのみ!それ以外の一切のルールはないッッ!》

「おいおいちょい待てちょい待て」

《初めッッッッ!!!》


俺はさらに抗議を続けようとしていたが、その時、対戦相手のユートが大剣――【神をも殺す剣(ラグナロク・オメガ)】を大きく振り上げ、大上段に構えていることに気が付いた。まるで天を突くように、高々と。


いくらバカでかい剣とはいえ、俺の立つ場所まではかなりの距離がある。そんなところで剣を振ったところで、何の意味もないはずだ。


だが。


(……な、何だ?)


俺は()()()と嫌な予感を感じて、とっさに全力で横に飛んだ。


――次の瞬間。


ユートの振り下ろした大剣から放たれた光と衝撃波が、俺がさっきまで居た空間を凄まじい勢いで通過した。


――チリチリと肌を炙り、空気を焼く灼熱。闘技場の床は瞬時に砕け散って瓦礫と化した。


ウオオオオ、と地鳴りのような声で会場が沸き立つ。


《炸裂ウウゥッッ!これが【神をも殺す剣(ラグナロク・オメガ)】!その斬撃は神すらも滅ぼすと言うッッ!!》

「はああああ!?!?ずりーぞ何だこれ!公正取引委員会を呼べ!!」


ちなみに公正取引委員会が何をする委員会なのかは知らない。


後ろを振り返ると、剣の衝撃波に砕かれた闘技場の壁は、みるみるうちに元通りの姿へと修復されていった。


(……なんだ?どうなってんだ、あれは)


そして闘技場の壁の向こうに座っている観客たちには傷一つなく、焦る表情を浮かべている者すらいない。皆、ただ戦闘の高揚に酔いしれているだけだ。こちらから観客を見る限り、野外の野球スタジアムのように何の保護もないまま生身で試合を観戦しているように見えるが、どうやら、透明な壁のようなものが彼らを戦闘から守っているらしい。


【オルデュール】……やっぱり、わけのわからない場所だ。

生と死の(はざま)にあり、異世界への転生を望む魂を集め、そして選抜するための世界。



――と、その時、ユートが俺に向かって叫んだ。


「おい!そんなスキルじゃ勝ち目ないだろ?今のうちに降参しろよ」


よく通る声。自信に満ちた言葉。


「……は?」と俺はユートの顔を凝視する。

「オレは、確かに異世界で無双したかった。だからどんな不条理でもぶっ倒せる武器、()()()()()()()が与えられたんだと思ってる。お前みたいな無力な相手をいたぶるためじゃない。……わかったら、降参しろ」


そう言ってユートは大剣を俺に突きつけた。


優位を確信しているその表情。


正義は我にありと、勝利を疑いもしないユートの澄んだ眼を見ているうちに、俺は何やら……何と言ったらいいのか、とにかく()()()()()きた。


「……うるせえ」

「何?」

「うるせえ、っつってんだ。降参したらどうせ死ぬんだろ?」

「……」

「だったら――ぶん殴ってでも勝つ!」


そう叫ぶと、俺はユートに向かって駆けた。


ユートが大剣を構え直しながら舌打ちする音が聞こえる。


「初戦のザコが、調子に乗りやがって……!」


ユートは大剣を脇に抱え、俺を迎え撃つように構えた。


……いや、俺にとってもお前は初戦のザコだからな?


自分だけが主人公みたいな思考回路しやがって。これだから陽キャは気に食わん。


(せめて……一発殴ってやる)


俺は走りながら昔のことを思い出していた。


小学校の頃から、俺の身体能力は周囲から飛び抜けていた。駆けっこ、木登り、鉄棒に縄跳び、ドッジボール。遊びに限らず、体育はいつだって五をもらった。他の教科は知らん。どうやら普通は運動ができる子供はモテるらしいが、残念ながら仲間とワイワイやる性格を持ち合わせていなかったようで、男にも女にも「わけわからんほど動けるが暗い奴」というアンバランスなレッテルを貼られて過ごしてきた。

高校になった現在、俺は特定の部活に所属していない。だが、毎週のように運動部に助っ人として引っ張り出されている。俺がひとつの部活に留まらないのは単にその方が気楽だからだが、幼馴染はきっと「協調性がないからでしょ」と笑うだろう。


その幼馴染――八雲(やくも)(りん)には、もう会えなくなってしまったが……


と、俺の思考を断ち切るように空気が流れた。


(――()()


瞬間。ユートが、脇に構えた大剣を横薙ぎに払う。大剣から放たれた灼熱の衝撃波が、光とともに闘技場の上を駆け抜けた。

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