出会い
ハーレム要因がついに。
ここまで長かった…。
今俺は馬車に乗っている。
しかしさっきのとは違う馬車だ。辺境伯とだけあってそれなりに豪華であったが今乗っているのはそんな次元のものではなかった。
そして俺の両隣には。
「ロザリオ君、何か不便なことないかな?」
俺の右腕に抱き着きながらからニコニコと人懐っこそうな笑みでそう聞いてくる少女。
「あなたが馴れ馴れしくくっついてるのが邪魔になっています。いますぐロザリオ様から離れなさい。」
凛とした声で今度は左腕に抱き着いた少女がそう答える。
「いいや、そんなことないよ。むしろ君が邪魔なんだよ。僕とロザリオ君の邪魔をしないでよ」
「君付けなんて馴れ馴れしい。まだ私だってしてないのに。とにかく離れてください」
グイっと左に引っ張られる。
「ダメだよ、ロザリオ君は僕のなの」
今度は右に。
左、右、左、右、……。
酔ってきた。
「あのー、そろそろ落ち着いてくれると嬉しいなー、なんて」
「ロザリオ君がそういうなら」
「まあ私もロザリオ様が言うのでしたら」
はあ、これでひとまず落ち着いたかな。
「あ、それならロザリオ君に選んでもらうのはどうかい?」
同じ馬車に乗っていて、先ほどからにやにやしながら見ていた男の人の1人がそんなことを言ってきた。
「それは良いですわね。もちろん私を選びますよね、ロザリオ様?」
左腕にギュッと力がこもる。
「僕に決まってるよね?」
右腕にギュッと力がこもる。
それを見てまたにやにやしだす大人たち。
「せっかく収まったのになんてこと言ってくれてんだぁーーーー」
男の人に向かってそう叫びながら俺はこうなった原因を思い出していた。
こうなった原因は時をさかのぼること1時間。
前方で魔物に襲われている集団を発見した俺は馬車を飛び出して急いで向かっていく。
しばらく走って行くと馬車とそれを守るように何人かの騎士、そしてそれを取り囲むオークの集団がいた。何人かの騎士は横たわっているが、それでもかすかに息がある。
騎士の中で1番えらいであろう男が何とか指揮を執っている。
「ひるむな。我々は死ぬわけにはいかん。守り切るのだ」
騎士団の目にはまだ闘志がこもっていたが明らかに不利な状況であろう。
《トア、メイ、行くぞ》
《はい》
《のじゃ》
トアを刀に変形して刀身を地面と平行にする。そして体制の崩れた騎士にとどめを刺そうとしている1匹の首を後ろから跳ね飛ばす。
「助太刀します」
「ああ。助か……。子供だと。君、危ないから戻るんだ」
騎士の忠告を背に次のオークへと狙いを定めて刀を振るう。
そのまま縦横無尽に戦場を駆け回る。
半数ほど減らした後、今度は風の刃を無数に具現化させまとめてその首を跳ね飛ばした。
「嘘だろ…。あんな子供がハイオークをあんなに簡単に……」
オークだと思っていたがハイオークの集団らしかった。道理で騎士団が押されるわけだ。
ハイオークは単体でさえCランク冒険者4、5人でやっと倒せるレベルだ。その集団ともなればAランク冒険者が出てくるレベルだ。それを受けて死人が出ていないのは、やはりさすがとでもいうべきか。
「助太刀、感謝する。私はこの騎士団で副騎士団長を任されている者でアルバートと言う。今回の指揮官でもある。我々もこんなことがあって君の事をまだ完全には信頼できていない。名を聞いてもよろしいか?」
「その前にけが人を先に治してしまいましょう。光魔法 《エリアハイヒール》」
辺りが光に包まれ、先ほどまで横たわっていた騎士が何事もなく起き上がれるようになる。
「な、これほどの魔法まで」
副騎士団長はその顔を驚愕に染めている。
「すまんな。助けてもらった恩人なのは重々承知しているのだが、それでも立場上名を聞かせてもらいたいのだが構わないか」
「いえ、それが騎士の仕事だと理解しておりますので大丈夫ですよ。改めまして、私はカイン・シール・クラウン辺境伯が3男、ロザリオ・シール・クラウンと申します。騎士の皆様、並びに奥の方々に大事が無く安心しました」
「なんと、カイン様のご子息であったか。しかしそれを証明できるものなどが無ければこちらもどうにもできなくてな。すまない」
まあ普通はそうだよな。あんな化け物に襲われた後にそれより強い子供を信用なんてできないだろう。俺だったら不気味に思うな。あれ、自分で言ってて悲しくなってきたぞ。なんか目から汗が…。
「だから君には申し訳ないが……」
「まあ、待て、アルよ」
そう言って馬車から男の人が降りてきた。
その瞬間身体が金縛りにあったように動かなくなった。威圧だろうか。目の前の男に逆らうこと自体許されないと言う圧迫感。武力では俺の方が断然強いだろう。というか半神になった俺にとって勝てない敵の方が少ない。だがこれはもう半分の人間の部分が彼に逆らうことを許さない。圧倒的なまでのカリスマ性。ただ存在するだけで相手を従えるオーラ。
聞かなくてもわかる。そうか、この男が。
「うむ、カインに似て良い面構えだ。先の戦い見事であったぞ。我が名はジークフリード・フォン・ノークス、サリード王国国王である。」
王としての風格。常に堂々たる態度。まさに王道。彼こそが王。そんな風格が漂っていた。
「してそなたは確かカインの3男であったな。ということは今年5歳になり教会に祝福を受けに来たのだな」
「は、はい。その通りであります、陛下」
「ははは、先ほどの猛々しさはどうした。それでなぜ1人でこんなところにいる?」
「先ほどおっしゃられた通り、私は馬車で王都に向かっておりました。しかし途中で前方で何者かが魔物に襲われている気配を感じたため助太刀したしだいです」
「ほう、気配をか。してカインはどこに」
「もうすぐ追い付くかと思われます」
しばらくして後ろから父様と母様、そして家の騎士団がやってきた。
「リオ、無事か」
走ってきた父様に抱きしめられる。
「父様、今はそれどころではありません」
「おお、そうだったな。して襲われていたのは誰だったのだ?」
「我だ。久しいな、カインよ」
「げ、お前かよ」
ちょ、ちょ、ちょちょちょ、あんた国王に向かって何言ってんだよ。
「そう言うな、カイン。我とそなたの仲であろう」
「気色悪い話し方すんな」
「悪かったって。立場上しょうがないだろ。それよりお前の息子凄いな。王家にくれよ」
「アホか」
どういうこと?さっきまでの威厳が嘘のように無くなり、今はそこらへんにいそうなやさ男にしか見えない。しかも父様と仲良く話している。なんで?
「リオ、怪我してない?」
追い付いた馬車から降りてきて母様が話しかけてきた。
「う、うん。大丈夫というか大丈夫じゃないというか…」
「あら、どうしたの?」
何ていえばいいんだ?父様が国王と仲良くしてます、不敬ですってか。
そんなことを考えていると国王の馬車から既視感のある美人さんが降りてきた。どこかで見たことがある。主に毎日。
「お久しぶりです、シェーレ姉さま」
まさか。
「あらミレーネもいたのね」
「ええ。いましたよ。それよりも先ほどはありがとうございました。私あれの妻をやってます。ミレーネと申します。あなたの母の妹に当たるので、あなたにとって私は叔母に当たりますね。気軽にミレーネ姉さんと呼んでください」
やっぱりか。しかもあれの妻って言ってたよな。てことは
「あ、あのー、ミレーネ叔母様「姉さん!」……ミレーネ姉さんは先ほど妻と言ってましたが」
「ええ、立場としては王妃になりますね」
父様は国王と仲良しで母様に至っては王妃の姉だった。
うちの両親怖い。てか家凄くね?めっちゃVIPじゃん。
俺が固まっていると
「お母様、私にも挨拶させてください」
「あ、僕も」
馬車から可愛らしい女の子が降りてきた。
「先ほどは助けていただきありがとうございます。私はサリード王国第2王女、システィーナ・フォン・ノークスと申します。ロザリオ様と同じく5歳になります。先ほどのお姿、とても勇ましく惚れ惚れいたしました。ぜひ私のことはシスティーとお呼びください」
「むー、システィーばかりズルいよ。僕はねエルミーナ・フォン・ノークスだよ。システィーとは従妹なんだ。さっきの魔法凄かったね、かっこよかったよ。あ、僕のことはミーナって呼んでね、ロザリオ君」
システィーは奇麗な銀髪を腰まで伸ばし、すこし大人びた落ち着きのある美幼女だ。肌は白く雪のようで腰や腕は折れてしまいそうなくらい細い。それでいて目は見るものを魅了するほどの惚れ惚れとする深紅であった。
ミーナは活発で元気なこれまた美幼女だ。金髪を肩口に切りそろえ、肌色の肌に映えている。背は小さめだが少し胸が膨らみ始めている。そして目は吸い込まれるような碧眼だ。
彼女たちと自己紹介を終えたころには父様たちの話し合いも終わったらしく、このまま一緒に王都に向かうことになった。
俺は2人と別れて自分の馬車に乗り込もうとしたのだが国王とミレーネ姉さんに無理やり王家の馬車に乗せられた。
そして冒頭のシーンに戻るのであった。