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異世界勇者と女子高生の恋  作者: 中町 プー
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第3話

 カタカタと不気味に揺れる髑髏。


 ガギ、ゴギと筆舌に尽くしがたい擬音を発する緑の小人。


 悪臭を身に纏って、豚の頭に肥えた体を持つ二足歩行する生き物。


 四肢を切り飛ばせば、謎の液体が噴き出し、バケモノは体を成さなくなる。


 しかし彼らも生きているのだ。

 自らのコロニーを形成し、森や谷、岩陰、水辺に暮らしを保持している。

 人と同じように家族や仲間もいる。


 しかし、人間の領域を犯すバケモノには制裁を。

 人間を襲うバケモノには死をもって勇者は制裁を与える。


 一体、どちらが先に領域を犯したのかは僕にはわからないが。


 また、そういったバケモノの類だけではなく僕がいる国と相対する人間。

 所謂、自分のいる国ではない他国との戦争。

 縁もゆかりもない地で、知らぬ人間を斬り殺すのだ。


 それは、歯向かう者すべてだ。

 戦争だから当たり前だ。

 その先頭に立って、敵を殺すのが勇者の仕事なのだ。


 人を殺すとうことに戸惑ったのははじめの一人、二人だけだ。

 一人殺せば、百も千も違いない。


 何故、こうも僕の前に死体が山を築いているのだろう?

 いや、ふと我に帰る瞬間があるのだ。


 学生に戦争など理解できない。

 しかし、自国の勇者は、在籍する国を守るのが普通だ。

 有無を言わさず、戦前に立つ。


 涙ながらに命乞いする他国の人間を切り飛ばすことも普通なのか?


 ああ、また目の前で命が散った。

 こうも命は軽いものか?

 命でお手玉するかのように、散る命の真ん中に存在する人間になった。

 ああ、また散った。

 僕は死体の上に立って勇者を名乗る。

 勇者の仕事とは、命を奪う職なのだ。


 おかしい。

 いや、おかしいのだ。


 普通なら発狂していてもおかしくない事態である。

 しかし全く精神の異常もなく、こうして命を摘み取っている自分を疑う。

 異世界では自分が自分ではないようだ。

 あちらにいるときは何の疑問も抱かず暮らしているのに、こちらの世界に帰ってくると異世界での自分の行いを悔いる。


 これが、夢であれば。ただの夢であればと願うのだ。強く強く願うのだ。


 今日が終われば、明日もまた学校に行きたいと。

 異世界ではなく、こちらの世界を生きたいと。


 昨日の部室で出会った後輩を思い出す。

 能天気に部室にきて、僕の練習の邪魔をしてきた後輩。

 彼女と話しながら帰っているとき、ふと異世界のことを忘れられた。


 僕の意味不明な質問にも笑って答えてくれる生意気な後輩と話しているとき、心が軽くなった。


 ふと、また彼女に会いたいと思った。






 桜が完全に散り、五月の始まり。

 四月の肌寒さはなく、過ごしやすい気候につい惰眠をむさぼってしまう。


 春眠暁を覚えずとはよく言ったものである。

 自宅から30分ほど電車に揺られていれば高校は見えてくる。


 昨日、入学したばかりとも思われる心持で、未だ慣れない校舎に着く。

 私は校舎だけでなく、クラスの人間にも慣れていないが。

 この時期になると各々がグループを形成し、皆が友達を作っている。

 しかし私は一人、教室の隅の席で楽譜を見ている現状。

 確かに新入生のあるべき姿ではないし、想像していた学生生活ではない。


 しかしこの現状は私にとって重大な問題ではない。


 軽音楽部に入って目下の悩みと言えば、やはりバンドを組まなくてはならないと言うこと。


 他の子はどんどんバンドを組み始めている最中、私はギターを練習するためにすぐ帰宅するため、バンドメンバーの一人もいないという。というのは言い訳で単に新しい人間関係に戸惑っていた。


 本末転倒とはこのことだ。


 しかし、私にとっての悩みはそれだけではない。

 先輩と話す機会がないのもまた悩みの一つである。


 あの日以降、先輩とは一切話していない。

 部活紹介の時も彼は隅っこでギターを弾いており、新入生歓迎の会なるものに参加していなかった。


 先輩は自分のバンドの練習の時しか顔を出さず、私も部室に行けていない現状、当たり前のことではあるが。


 連絡先も何も知らない先輩とコンタクトを取ることは難しく、またバンドメンバー探しも難航している今、やはり兎にも角にも部室に行かなくては何も始まらないと、放課後少し部室を覗くことが今の私の日課となっていた。


 いつものように部室にお邪魔すると、二、三年生の先輩達がバンド練習をしている中、部室内の隅の方に見知らぬ女子がいた。


 部活の一年生の顔もそろそろ把握してきた時期であったが、部室の端で椅子にその小さな体を預けている女子のことは知らなかった。


 彼女は小動物のような双眸をパチクリパチクリ瞬かせ、先輩達の演奏を興味深そうに眺めていた。


 彼女はどこか不思議な雰囲気がある。

 小さな体に、小さな顔は可愛く、どこか借り物のようにその体躯を小さくさせて目立たせないように努めているが、この部室で彼女の美貌は目立つ。


 遅れて部室に入ってきた部員も彼女を遠巻きに眺めていた。


 私は思い切って彼女に話しかけてみた。

 悩んでいても始まらない。こうして初めて会う人に話しかけることで輪を広げていかないとバンド結成など夢のまた夢である。


「あの、一年生の方ですか?違ったらすいません」


 やはり、初対面の人に話しかけるのは慣れない。思わず、声が裏返ってしまった。


「はい、そうです。貴方も一年生?」


「はい。あの、では」


「え!!?、一年だったのか!俺も一年だよ!何組!?」


 私の言葉は急に遮られた。

 威勢の良い男子生徒に阻まれたのだ。


 さては、この男子。誰かが話しかけるのを狙って待っていたな。

 ずっとこの美少女に話しかけようとタイミングを見計らって、私が話しかけたのを見て声をかけてきたな。


 彼が話しかけたのを皮切りに他の部員も集まって彼女に質問しだす。


 私と彼女は気づけば、部員に囲まれていた。瞬く間に出来上がった、彼女を中心とした人のサークル。


 こう人が密集していると息がしづらい。

 私は二、三歩彼女から距離を取り、彼女に群がる部員から離れた。


 遠巻きに見て、彼女は狼狽したように表情を曇らせながらも部員に応対していたが、やはり、こう人が多いと私では助け舟は出すことは出来ないし、私ももう質問しようとは思えない。


 私は五時になると、この場から立ち去るタイミングを見計らい、部室を後にした。


 未だ、人が多い場所に慣れない。


 高校に入ったときはワクワクとした高揚感に包まれていたのに、今では毎日をただ消費しているだけのように感じられる。


 ため息は春の風に乗って消えていくのに、私の中には言いようのない感情が未だ蜷局を巻いている。


 こんな自分が嫌になる。

 中学校時代には友達もいたのに、だれも知り合いのいない高校での再スタートがこんなにもむつかしいとは思わなかったのだ。


 さっきも、大勢の中で会話に参加し、他の子とももっと仲良くなってバンドメンバーに誘えばよかったのに、こうして逃げ帰っている自分に嫌気が指す。

 私はいつのまにかコミュ症になっていたのか。


 これでは、いつになったらバンドを始められるのかとため息も漏れでてしまう。


「あの、さっきの部室の」


 その時、声をかけられた。


 私が自分の性分に悲嘆していると女性に声をかけられたのだ。


 振り向くと先ほどの部室の美少女がいた。

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