行政規定外恋慕
政府が深刻な少子化対策に重い腰をあげたのは今から20年ほど前になる。
それはまさに劇薬と呼ぶに相応しい制度であり、限られた世代に限定するという前提ではあるが、結婚・出産・育児に対して行政に介入させる、というものであった。
当時は人権団体やらが当然の如く抗議をし、ディストピアだやらなんやらと騒がれていたが、政府もそれも承知の上でどうしても必要なことだからと押し込んだらしい。
風の噂では特殊警察まで組織して対応していたなどという話もあるが、制度が浸透しきってしまった今となっては、陰謀論などが好きな輩に面白可笑しく語られるのみとなった。
私の住む所では、市がそれらの規定を制定して、幸せな夫婦生活を強制している。
経済的に不自由していた私も、そんな身分に似合ったパートナーがあてがわれていた。
恋だとか愛だとかに縁がなかった私には、この関係に愛があるのかどうかはわからないが、パートナーと共に市民の義務を果たしていた。
あの日、彼女に出逢うまでは。
仕事が軌道に乗ったことで客層を拡げることになり、既存顧客よりも、随分とまともな身分の顧客まで相手にすることになった。
新規顧客の彼女とはお互いに一目惚れだった。
やがて仕事とは無関係に会うようになり、ついには愛を誓い合う仲にまで発展した。
市から半ば強制的にあてがわれているとはいえ、お互いに既にパートナーのいる身だった。
これが正しい行いだと言うつもりはない。
実際これが市にバレれば罰金程度の罰を受け、二人は引き離されてしまうのだ。
それでも私と彼女は密会を重ね、互いに愛を深めあった。
闇結婚式とでも言えばよいのだろうか。
家庭があるので自由にできる金などないが、二人きりでごっこ遊びのような結婚式を開くこととなった。
形式的なもので儀式的でもあった。
もしかしたら、お互いにこの関係が長くは続くまいと諦めのようなものもあり、それを掻き消すためにこの儀式が必要だったのかもしれない。
それでも。例えそれでも。いつの日か離ればなれになろうとしても。心は繋がりあっていると誓い合うのだ。
病めるときも、健やかなる時も――。
市が二人を分かつまで。
一度ジャンル:恋愛(異世界)で投稿してしまったのですが、恋愛物のつもりで読んでこのオチはあんまりにもあんまりなのでジャンル:コメディーに変更させて頂きました。






