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ホラー系短編集

お盆になるとやるテレビ特番を見ていたら怖いことになった

作者: 如月 一

《"これは倉庫として使われていた雑居ビルで撮られたものである"》


 テレビのナレーターの低い声がエアコンの効いたリビングで静かに響く


 俺はビール片手に画面に見入る


 画面には薄暗いコンクリートが剥き出しの部屋が写し出されていた


 ナレーターが言っていたように倉庫として使われていたらしく、いたるところにガラクタが転がっていた


 良くある、素人が廃墟に肝試しにきたところをビデオで撮っている、というシチュだ


 画面ではその倉庫をゆっくりとパンして終わった。特に何かが起きたわけではなかった


《"お分かりいただけたろうか"》


(へっ? なにか変なもの映ってたか?)


 俺は首をかしげた


《 リプレイ 》


《 □□□□ 》


《 リプレイ 》


《 □□□□ 》


《 リプレイ 》


《"画面隅のマネキンに注目してもらいたい"》


 ナレーションの後、『リプレイ』の文字が点滅する。そして、先程の画面がリプレイされる


 俺は身をのりだし画面を見つめる


 言われた通り画面隅に目を向ける。画面隅には裸のマネキンが横倒しで山積みになっていた。手足がないやつ、頭のないやつ等など。結構、薄気味悪い


 一体、これがなんだと言うのだ


 俺は固唾を飲んで見守る


「ねえ、あなた。

お風呂沸かしてもらえる?」


 女房の声に俺は一瞬、キッチンの方を見る


 女房はシンクに向かって、洗い物をしているようだ。後ろ姿で表情は見えない。食器同士が当たる音がカチャカチャと耳に障る


「今、テレビ見てるんだ。後で良いだろう」


《"お分かりいただけたろうか"》


 ナレーションが入り、俺は慌ててテレビの方に向き直る


 画面ではゲスト達が騒いでいた


(しまった、見逃しちまった)


 俺は小さく舌打ちをする


《"次はキャンプ場での何気ない夕食の準備を撮影したものだ"》


 番組は淡々と次のネタを始める


(えーー、なんだったんだよ。さっきの。

スゲー、気になる)

 

 画面にはハンゴウでご飯を炊いている男を中心にしてキャンプ場の風景が映っていた


 ショートパンツを穿いた女性が画面の左から現れて火の番をしている男の後ろを通って右側に抜けていこうとする


《"薪、ちょうだい"》


 変声されたドナルドダックの様な声


 通りすぎようとした女が三歩程戻り、男に抱えていた薪を数本渡し、去っていった 


《"お分かりいただけたろうか"》


(えっ?なに、なに。全然わかんねー!)


カチャ カチャ カチャ


(食器の当たる音、っるせいなぁ~

集中できねぇ)


《 リプレイ 》

カチャ

《 □□□□ 》

   カチャ カチャ

《 リプレイ 》

 カチャ   カチャ カチャ

《 □□□□ 》

ガチャン     カチャ カチャ カチャ

カチャ《 リプレイ 》

 カチャ ガチャン カチャカチャ

《"画面奥のテントに注目"》ガチャン


「ちょっと、悪いけどもうちょっと静かに洗ってくれないか!」


 俺は少しイライラしながら後ろで洗い物をしている女房に言う。こう煩いと怖い話が台無しだ


チャッ  チャッ    チャチャッ

 

 少し静かになった。俺は画面から目を離さず、一口ビールを飲む


 焚き火と男の間の少し奥に黄色のテントが見えた。今風の少し半円になる奴だ。入り口が画面の方を向いている


 薪を抱えた女が画面を横切り、テントが一瞬見切れる


 女が横切り終えるた次の瞬間、テントの入り口から画面を睨み付けてくる顔があった。それも三つの顔が縦に並んで画面を睨み付けている


《"薪、ちょうだい"》


 焚き火の男の声で戻ってきた女の体で再びテントが隠れる。それもほんの一瞬。女が去っていき再び姿を現したテントの入り口には顔はなかった。


 時間にして瞬き一つぐらいの間だ。その短時間にテントから出たり、隠れたりできはしない


(おおう)

ガチャーン

(うわぁあ!)

 突然、食器が落ちる音がして俺は文字通り飛び上がった。ビールが盛大に飛び散り床を濡らした


 俺は慌てて手近のタオルを掴むと床を拭う


「ちょっ、勘弁してくれよ。

せっかくの雰囲気が台無しだよ。

俺はしっとり怖がりたいんだよ」


 俺は少し本気で腹をたてながら大声で怒鳴る


「タイミング良すぎてスゲー怖かったけど、そーいう、ドッキリ的な怖いのとは違うのよ。

分かるだ……」


 と言いながらキッチンを向いた俺は固まる


 キッチンの電灯は消え、暗かった


 誰も居ない


(へっ?なんで?)


 俺は呆然と立ち上がり、キッチンへ向かう。


 食器類はキチンと棚にしまわれて、シンクも乾いて洗い物をしていた形跡はない


《"……そうですね。お盆の帰省で実家に帰った時の話なんです……"》


 混乱する俺の耳にテレビの声が誰が聞こえてくる


 その言葉で俺は思い出した


 女房は子供を連れて実家に帰っていることに


 そう、だから俺は久しぶりの独身を満喫していた……はずだ


 コンビニで買った弁当と缶ビール


 一人リビングに胡座をかいて、好きなオカルト番組を見ていた


(今日、俺一人だよな。

いや、でも、さっき、確かに誰かいて、食器洗う音も確かにしてたのに。


えっ?



えっ?



だって…… えっ?)


 ふと『虫の知らせ』という言葉を思い出した


(まさか、女房達に何かあったのでは……)


 携帯をとると震える指で女房の携帯に電話をする


プルルルル プルルルル プルルルル


 呼び出しが繰り返される


(なにやってんだ、早く出てくれ)


 繰り返される呼び出し音に、自然と心臓の鼓動が早くなる


『はい。あら、あなた。

なに?なにかあった?』


 諦めかけた時、ようやく女房がでた


 俺は心底ほっとする


「ああ、お前か。えっと、なにか変なこと起きてないか?」


『あっ?なに言ってるの?

何かってなによ?』


「何って、そりゃあ、なにかだよ。

い、今、なにやってる?」


『夕食食べて、庭で花火やってるわ』


「みんなでか?子供たちもいるのか?」


『……当たり前でしょ。何が哀しくて所帯持ちが一人で庭で花火せにゃならんのよ』


「いや、そう言う訳じゃないんだが……

まあ、なにもないならいいや。もう切るわ。

じゃあな」


(とりあえず、あいつと子供たちに何かあった訳じゃないようだ)


 俺は、ほっと胸を撫で下ろす


うふふ


 耳元で女の声がした


 すぐ真後ろだ


 冷たい息が首にかかるのを感じる


 怖い


 心底怖かった。振り向きたいが振り向きたくない。ふり向けば終わる、そんな確信めいた予感があった


 硬直して動けない俺に、女の声が言う


『奥さま思いなのねぇ。でも、なんで?』

 

 女は俺に問いかける。どこか面白がっているような声だ


(なんで?って、ど、どういう意味だ)


 俺は脂汗を流しながら考える


「なんで、自分が危ないと思わなかったの?」


 女は静かにそう言うと、リビングの電灯がふっと消えた





 電灯の消えたリビング


 大画面のテレビだけが明るく光っていた


《"さて、今回の一番怖かった奴を最後にもう一度見てみましょう。

一番怖かったのはやはり、これです!"》


 司会者の言葉と共に画面が切り替わる


《"お分かりいただけたろうか"》


 どこかの雑居ビルが映っている。部屋の片隅にはマネキンが山積みになっていた


《 リプレイ 》


《 □□□□ 》


《 リプレイ 》


《 □□□□ 》


《 リプレイ 》


《"画面隅のマネキンに注目してもらいたい"》


 画面は山積みになったマネキンに徐々にズームインしていく。うつ伏せになったマネキンの生首が幾つもある。画面はそれに近づいていく


 突然、地面に額をつけていたマネキンたちが一斉に画面の方に首を向けた


 テレビから悲鳴が幾つも上がる


《"うーん、何度みても怖いですね。では、もう一回リプレイして、さようならでーす"》


 『もう、やだー』との、ゲストの声を無視して笑顔で手を振る司会者


《 リプレイ 》


《 □□□□ 》


《 リプレイ 》


《 □□□□ 》


《 リプレイ 》


 画面がマネキンにズームインする


 徐々に大きくなるマネキン


ドサリ


 大きな音と共にテレビ画面に覆い被さるように倒れこむものがあった


 一人の男だ


 男の顔は何かとても恐ろしいものをみたかのように醜く歪んで、そして……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2018/08/17 初稿

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― 新着の感想 ―
[良い点] 母子は難を逃れたのだ。でも台所の妻がいたらぶちギレANNKENNであまり夫の運命に差はない? ホラー番組はいいけど、生中継はやめとけと撮影関係者に言われたことがあるけど、いちおうお払いし…
[良い点] 怖い番組見ながらビール、最高っすよね! また暑くなってきたから涼を求めて来ました。 怪奇特集は、子供がトイレ行けなくなるからもう観れない(つд;*)夏の楽しみが……。 いや、子供は観たが…
[良い点] 怖い話をありがとうございました。 [一言] わ~い! 面白かった~。 私はホラーが苦手だと思っていたけど、活字のホラーなら大丈夫だとわかりました。 ウフフッ
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