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更新再開します!大変お待たせいたしました。

――見初められた、ねえ……?


ベッドに寝転がったまま左腕を持ち上げる。窓から射し込む陽の光を受けて煌めくのは件の石のかけら。

手首をぐるりと囲むそれは小綺麗な普通の装飾具にしか見えないが、立派な魔除けのアイテムである。果たして効果があるのかは知らないが。


脳裏を駆け巡るのはジョセフのおじいちゃんの言葉。考えるほど馬鹿らしい話だが、彼の声には明らかに憎悪のそれが滲んでいた。真実味を帯びさせる負の感情が。



「でもどうすればいいんだってばよ……」



ひとりきりの空間なので口調が崩れているのは見逃してほしい。だって本当にそう言いたいんだもの。


そこそこ日が経っているが再び教会に赴く話は上がっていない。てっきり通い詰めかと思っていたのでホッとしている。

しかし1回目のことを考えるといきなり連れ出される可能性もある。用心しておかなければ。


はあ、と盛大な溜め息をつきながらベットから降りて呼び鈴を2回鳴らした。そうすればシュゼットを始めとする使用人がやってきて身支度を整えていく。


今は朝ではない。真昼だ。日頃の睡眠不足が遂にアイリーンにバレてしまい、午睡の時間を設けられてしまった。

正直朝起きるのがしんどかったので、例え眠れなくても少しでも横になれるのは有難い。


が、これがバレるわけにはいかなかった。

――睡眠障害。悪魔憑きの症状のひとつであるそれ。そう、それがバレた今、尚のこといつ連れ出されてもおかしくはないのだ。


しくじったな、と髪を緩く纏められていく鏡の中の美少女をぼんやりと見ながら内心で歯噛みする。

とはいえ辛かったのも事実。それにバレたのもその疲弊が原因でボロを出してしまったのだ。


無意識にまた溢れそうになる溜め息を飲み込んで、シュゼットたちに礼を言う。彼女は心配そうな顔で私の気分を尋ねる。何が食べたいか、とも。


あれほど食欲旺盛だった私がついに食事を受け入れられなくなってきた。

いや、それには少々語弊がある。私の食欲にはとても波があって、今はどん底をめがけている時期だ。暫くすればまた食い意地の張った私に戻ることは知っている。


しかし栄養の取り込めない身体は磨耗していくばかり。これではますます悪魔憑きであることが、ひいては重症化していることにされてしまう。これは非常にマズい。

どうにか誤解を解かなくては、と思うが頭の足りない私では打開策が見つからない。焦るばかりだ。


ちなみに旦那様は遠征に行ってしまっている。北の方で小競り合いがどうのとか。血の気の多い話なのであまり聞かせてくれなかった。

だから教会云々の話が上がってこないのだと思うが、それも時間の問題だろう。


気が重いなあ、と移動していたところで何やら使用人たちが集まって何かを話している。



「何かあったの?」



と声をかければ輪の中のひとりが振り向いて事情を説明していく。


どうやら旦那様の書斎を掃除していたところ、提出期限が今日までの書類が見つかったそうだ。

書き損じか、とも思ったが書類に不備はない上にしっかりと署名もされている。立派な提出書類のそれだった。


ではそれを王城に持って行くにも誰が行くか? という話だそうだ。

一番頼りになるアイリーンは既に城へ。家令のチャーリーも本日は貴重な非番で外出中。ならば執事長のルドルフか女中頭のシュゼットが適任か、と本人たちのいないところで候補が上がっていた。



「シュゼットが行くくらいなら私が行くわよ」



ついでに解放地区のカフェでお茶にしましょ、と提案する。

シュゼットは気力こそまだまだ若いが歳を重ねた身体はそうもいかない。先日も腰が痛いと嘆いていたのを私はしっかりと覚えている。


ならば連れて行くのは外出時にお伴してくれる若手侍女のフランに決まりかな。



「リリアーヌ様がそう仰るなら……。でも、体調は大丈夫ですか?」


「ええ、心配いらないわ。みんなには良くしてもらってるからお使いくらいさせて」



私を気遣った掃除婦から書類を受け取ってそう微笑んだ。それならば、とシュゼットは馬車を出すように指示をしていく。


やがて乗り込んだ馬車の中では、連れてきたフランはやたらと私を心配して困り顔しかしていない。

気が滅入るからやめてほしい、と言いたいところを、可愛らしい顔が台無しよ、と言い換えれば彼女は顔を真っ赤にして俯く。そういうところが大変可愛いと思いますねえ。


私と同い年のフランを散々からかって気分が良くなったところで馬車が止まる。

国務省がある場所は分かるから、と伝えて彼女は先にカフェで待ってもらう。そこで用を済ませた私が合流する予定。のはずだった。


地図上では場所を知っていても、自分の方向音痴の度合いを舐めていた。

そういえば初めの頃に屋敷の庭でも道に迷っていたことを思い出す。いや、あれは物珍しさに余所見して道草食うのがいけなかったんだ。きっと。


まさかフランが心配していたのはこれもあったのではなかろうか。

大丈夫よお、とお花畑な頭で返事した少し前の自分を殴って考え直させたい。後の祭りだが。



「ん? こんな辺鄙な場所で貴族のお嬢さんがどうしたんだ?」



人っ子ひとりいない、がらんとした回廊に呑気な男性の声が聞こえた。どう考えても私に声をかけたとした思えない。


書類の入った封筒を抱えて振り向けば、そこには腰に剣を携えた背の高い男性だった。年齢は30歳かそこらだろうか。

やはり顔の造形は整っている。ジョセフのおじいちゃんといい、平民でもこれが普通なのか。それとも私の審美眼がズレてるのか。



「あの、道に迷ってしまって。これを国務省に届けたくて」



件の書類を男性に差し出す。場所真逆だぞ、という声が聞こえた気がしたがきっと空耳に違いない。私は方向音痴ではないのだ。きっと。

封筒の中身を確認する彼は、その呟きが霞むほどの言葉を私にかけた。



「君……、もしかしてグリュンタールくんのお嫁さん?」

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