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記憶喪失(のフリ)やってます!~異世界に馴染むまでの奮闘記~  作者: 丸晴eM
起:まずは居場所を確保せよ!
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最初の第一本

トントントントン


連続した音に、目を覚ます。

もう明るいなぁと思ったけど、電気つきっぱなしだったわ。


このトントントンが、台所から聞こえていたら朝ごはんを準備する素敵な音なんだけど、生憎玄関の方から聞こえる。


トントントントントン


いつから叩いているのか知らないけど、めっちゃ連打されてる。メトロノームのようだわ。

とりあえず呼ばれてるみたいだから出るべきかな。ここに人が居るって知ってこんなことするんだから、キースさんだろうし。


「はーい今行きます」


ガチャっと、体当たりする勢いで扉を開ける。


「お待たせしました!ごめんなさい本当に、今起きま」

『バンッ』

「いった」


凄い勢いで閉められた。おでこ強打!

おちゃめな悪戯を許せるほど寝起きがよくないので、文句を言ってやろうと再び扉を押すが、ビクともしない。


「はぁ!?もしかして、扉押さえてません?キースさんですよね?何か用事じゃないんですか?」

「君、そんな格好で開けるなんてどうかしてるよ!常識ってやつを忘れてもらっちゃ困る」

「はぁーっ!?常識どころか名前以外ほぼ忘れてるって!言ってるでしょ!…でもまぁこれはないわ!女子としてないわ、失礼!」


膝上30センチのシャツ一枚。他人に見せる姿ではない。

急いでズボンを穿いて…うん足長いな羨ましい!


「はいはいオッケーです。おはようございまーす」

「あぁうん、おはよう。…昨日はちゃんと休めたかい?」

「ぼちぼちですかね。今何時ですか?」


空を見上げた感じだと、まだ太陽は昇りきっていない。


「なんじ?」

「いや、私が聞いてるんですけど…。家の中の時計見ろよって?…あ、そうだ鍵が扉に吸い込まれてて困ってるんですけど、どうやって取るんですかっていうかどこにいったんでしょうかね?」

「鍵なら内側にささってるだろう」


言われて、今まさに掴んでいる扉の取っ手を見る。

外側とまったく同じ作りになっていて、内側にも鍵を入れる穴があり、確かにそこに鍵がささっていた。

こんな場所、探しもしなかったわ。


「なるほど。ちなみに電気ってどうやって消すんですか?眩しくて眠れなかったです」

「でんき…」

「言い間違えました。明かりです、明かりって言いたかったんです」


電線通ってないなって、昨日思ったのに忘れてた。海外では地下に電線を通してるパターンもあるけど、通じなかったからこの世界には電気がないみたいだ。

じゃあこの照明は何で光ってるんだろ?火?


「鍵を回せば出力が調整できるし、抜けば全ての稼働が止まる。鍵の使い方を知らないだなんて、一体どこのお嬢様なんだい?」

「記憶はないけど一般ピーポーなのは確かです。住所不定、無職中」

「昨日鍵をかけずに休んだのか」

「みたいですね」


そう返すと、私の目の前でキースさんは重いため息をついた。

本人前にして失礼だからね?気付いて、私ちょっと傷ついてるから。


「鍵は、家に入ったら抜いて。家の中にある限り、動力源として稼働するからね。明かりも、火も水も、調節するのにはこの鍵が必要になる」

「あぁ、何か穴があるなとは思ってました」


道理でコンロもシャワーも、スイッチはあるけど調節できないなと思ってた。

丁度言いあたたかさだったから特に問題なかったけど。セーフ。


「…夜遅くまで明かりが付いていたから、様子を見に来たんだよ。休めたのならいいんだ。じゃあ僕はもう行くね」

「ありがとうございました。行ってらっしゃいませ~」


さて、私も朝ごはん食べて作業するか。

 

 

 

*** 

 

 

「えっと…まず蔓を全部外さないとダメなんだっけ」


名前は忘れたけど、この魔草を抜くには草同士の接触を絶たなければいけなかったはずだ。

とりあえず手近な一本を決めて、伸びた蔓を下から順番に解いてみる。


「……」


ぐるぐると何周も巻きついていて、中々めんどくさい。

茎に絡んでるのはまだマシだけど、蔓どうしがぐるぐるしてる場所は即効で肩がこってしまう。

定期的に伸びをして、一本分を解す頃には太陽が真上にあった。


「嘘でしょ…もう疲れた…。この無駄にしか思えない作業めっちゃ心折れる…」


疲労感に襲われながら、解せた茎を引っこ抜いた。

根は張ってないようで、ごぼうみたいにするるっと一気に抜ける。


不思議なことに、抜いた茎はそのままの形状で硬くなり、色も緑から黒へと変化していった。

握り締めていた部分は、私の手の形にへこんでいる。


「何かに使えるかなこれ。売れるかな」


強度を確かめる為にくるくるとした蔓の部分を引っ張ってみると、根元からポキンと折れた。

手を広げた親指と小指までの長さほどは真直ぐで、その先はコイルみたいにくるくるしている。

思いついて、自分の肩までの髪を後ろでまとめて、それでとめてみた。


「イイじゃん。簪になるねこれ」


邪魔になっていたので、スッキリして丁度いい。

次の茎では、形を工夫してみよう。


ひどくつまらない単純作業の中に楽しみを見つけ、少しだけどやる気が回復した。

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