庭付き一軒家GET(期間限定)
再びキースさんの後について歩くこと、10分程度。
ちなみにこの10分っていうのは超アバウトな私の勘なので、そんなに参考にならない。
あ、すぐ着くかと思ったけどまだ歩く?と思ったぐらいに到着した。そんな感じ。
自宅からコンビニまでの距離参考。
「ここがその空家。二週間後に引っ越してくる予定なんだけど、畑が荒れ放題でね。誰か雇って綺麗にしておかないとって話してたんだ」
「畑がヤバイ事になってるんですけど!?っていうか二週間って、掃除して終わりじゃないですか」
車が二台停められるぐらいの畑は、私の身長と同じぐらいに育った草がみっちり生えていた。つまり160センチほど。
隣の家に寝泊りさせてもらえるようだが、畑がインパクト強烈すぎて特にコメントはない。普通の家だわ。
「給料代わりに食事と寝床は保障する。畑を綺麗にするのが君に頼みたい仕事だよ」
「火ぃつけて一気に燃やしていいですかね?」
「変な生え方してるけど、これはレトラ草だよ。前の持ち主が、畑が荒れないようにってわざわざ柵を作ってくれようとしたけれど、種を全部ひっくり返してしまったらしくこの状況さ」
いや、あなたの言いたいこの状況がよく分かりませんけど。
っていうか住宅街で燃やしたら危ないからするつもりもないけど、そこは突っ込まないのね。
「雑草ってわけじゃないんですね。で、これで柵を作ればいいんですか?周りの草は残してほしいから燃やすなってことでいいんでしょうか」
「レトラ草だから燃えないよ」
「…すいませんねー、レトラ草って何なんですか?さっきも言いましたけど、私記憶が曖昧で、色んなことが思い出せないんですよ。気付いたら森に居て、そこから記憶がスタートしてるんです」
ちょっと強めの口調で、再度訴えてみる。
みたけど、そういえばさっき言ったのはグレイさんに対してだったわ。まぁいっか。勢い大事。
「………」
「…その、無言で笑顔向けるのやめてもらえますか?」
困って固まってフリーズしているのでなければ、静かにイラついてる合図だわこれ。
こっわ。
それとなく距離をとる為に畑に近づいて、草に触ってみる。
まっすぐに伸びる長い茎から、蔓がたくさん伸びて他の茎や蔓同士が絡み合っているようだ。
「レトラ魔草は蔓を繋げることで結界をつくれる。畑や家の周りに等間隔で植えて、結ぶことでその効果を発揮するんだけど、ここでは密集しすぎて蔓が絡み合っているからすべて解してからじゃないと抜けないよ」
「めっちゃめんどくさい事さらっといいましたね」
このこんがらがった蔓を全部ほぐさないといけないなら、どんだけ時間がかかるのか想像するだけで気が滅入る。
スーパーで売ってる豆苗を見たことがあるだろうか?目の前に、その豆苗の森が広がってる感じだ。
一袋の豆苗を駐車場スケールに拡大したみたいな密集ぐあい。×2スペース。
茎の太さは手首ぐらいある。ランダムに伸びている蔓は指ぐらい。
ところで豆苗、豆腐が入ってる入れ物とジャストフィットするから二回目育てる時に使うといいよ!
私はもうこの知識を活用することはないんだろうけど。
「もうじき暗くなってくるし、明日から始めていいよ。寝具はないから寝袋を貸すね。家の鍵はなくさないように気をつけて」
「はーい」
食糧と、寝袋と、お風呂セットと、男物だけど服を貸し出してくれた。案外手厚いサービスがありがたい。
下着はないけどしょうがないよね、用意されてもどんな顔していいのか分かんないけど。
「詰め所の場所は分かるね?また明日顔を出して。明日はクロードという赤毛の兵士が居るから、アンリさんの事伝えておくよ」
「了解です。ありがとうございました!」
畑のことは明日でいいとのことなので、今日は早めに休むことにする。
この世界に来たのは、昨日の早朝だ。元の世界で何をしていたタイミングなのかもハッキリしないが、寝る時の格好だったので寝込みを襲われたのかもしれない。
目を開けたら、森に寝そべっていた。
夢と思いつつ、特に目的もなくとりあえず徘徊し、甘いいい香りを目指してみたら花畑に出た。
そこにはカラフルな少年少女達がたむろしていて、ぼけーっと眺めていたら続きはまた明日ねの合図で帰っていったのだ。
なんとなく着いていったら街にでて、うろついていたら公園にたどり着いたので、お隣さんに習ってベンチで昼寝をした。
そして目を覚ましたとき、夢の続きの場面だったので、私はひょっとしてこれは現実なのではないかと気付いたのだ。
悲しいぐらいお腹が空いたからってだけが理由ではない。
それから街の様子をチェックしに再度見回りし、また公園のベンチに戻って眠れぬ夜を過ごした。
こんな、外で、無防備に寝れるはずがないもんね…!
昼は、まぁ人がいっぱいいたし、私の他にも寝ている人がいたから、いいとして。うん。
要するに眠たいから早くねちゃおうって言いたかっただけ。
家のドアに鍵を差し込むと、勝手に明かりがついた。
鍵はそのままドアに吸収されちゃったんだけど、コレいいの?大丈夫?どうしようもないけどさー。
あ、靴箱も段差もないから、これ土足タイプだ。
「まず食べて、お風呂はいって、寝よう」
台所で、もらった食糧の袋を広げる。
りんごと、じゃがいもと、肉の塊と、パンと、チーズの塊と、レタス一玉。後はよく分からない粉と果物か野菜っぽいもの。
台所には冷蔵庫はないが、コンロはあった。
駄目もとで弄ってみたら、火がついた。ガスは通っているようだ。
「…でも鍋もフライパンも食器も、包丁もないわ!」
とりあえずパンとりんごと、肉が燻製っぽいのでこれを豪快に齧って晩御飯とする。
お風呂場とトイレは分かれているのは良かったけど、浴槽はなくてシャワーだけ。
こっちもお湯が出るだけよしとしよう。お風呂グッズにシャンプーとリンスがなくて石鹸だけだったのは、時代が古いなぁと諦める。
下着は洗ってヘビロテ。借りた服は何着かあるが全て大きいので、一番長いシャツをワンピース扱いで過ごす。
もういいから寝よう、というタイミングで、電気の消し方が分からない事に気付く。
勝手に付いたものなので、壁にスイッチらしきものはない。
マジか。こうも明るいと寝にくいよ。
人生初の寝袋の、狭くて身動きできない寝苦しさも加わり、あぁ床が固いなーって
一回思ったとこまでは覚えてるんだけど、実際はその後3秒ぐらいで寝れました。