すれ違いはお互い様で
キィとドアの音がして、それから放り投げられた。
ぼすっと柔らかい何か。
体の一部が落ちたりしてないから、ソファーじゃなくてベッドっぽい。
また、キィとドアが軋んで閉まる。鍵をかけた音はしない。
物理的に閉まってないなら、私には問題ない。
この部屋に今、私だけ置いて行かれたのか、連れてきた人も一緒なのかは分からない。
男の声が聞こえる。
…結界が切れてるとかなんとか?
何人か居るっぽいけど、声の違いが良く分からない。
暫くすると、誰か出て行った。
全員なのか、一人なのかは分からない。
その間ずっと手首をぐにぐに動かしてみてたけど、縄が緩んだ感じはない。
あんな一瞬で縛ったのに…。
足は、膝辺りを縛られている。しんどいけどエビぞりしたら手が届く…しんどいけど。
先にこっち外すべき?
ガシャーーーンッ
「っうぅ!?」
何か壊れた!びっくりした!
窓?窓が割れた?喧嘩?
瓶が割れた?うっかり?喧嘩?
「何者だ!」
……探しにきてくれた?
いやいや何期待してんの私。焼き鳥の串も落としてないし手掛かりないっつーの。
見てないけどここの人達、こんな手荒な事するからには悪い人っぽいし?
御用改めついでに、正義の味方に助けられる展開には期待してもいいかもしれないけど。
ぎしっ
えっ、待て待って。
私今動いてない。
ベッド、軋んだよね今。待って怖い。
いきなり縛られた時よりも、心臓がバクバクいってる。
自分の心臓の音しか、聞こえない。
じわじわと、何かが近づいてきてるようで、緊張で息が詰まる。
やっぱり、誰か居る。
じれったくなるほどゆっくりと、顔に被されてる袋を引っ張られる。
今どうなってるのか、見たいような見たくないような!?
知らないから怖くないけど、もしここが血みどろでぐちゃぐちゃの死体とか転がってたらどうしよう!?
私はお化け屋敷も目を閉じてやり過ごすタイプだよ!
思わず、私はきつく目を瞑っていた。
顔が涼しい。こもってた空気よりも呼吸が楽だけど、けど、怖くてうまく息ができない。
口に詰まってた物もとられて、自由になる。
口元も、ぎゅっと閉じる。
頬を触る指…いや、分かんないこれ虫だったらどうしよう私発狂するわ…!
いやでもこんな器用なもん指しかあり得ない、セーフセーフ。
いや、え、どうなんの私、アウト?アウト!?
「大丈夫?」
か細い、女の声。
弾かれるように目を開けると、探すまでもなく目の前に顔があった。
緑の目に、ふわふわ赤毛の美少女。
「解いてげるね」
「あ…お願いします…」
もう一回言っとこうか?美少女が助けてくれたよ。
この子、さっきのガッシャーンで登場したのか、私の前に捕まってたのか?
「助けに来てくれたみたいね、もう怖くないよ」
「それは…よかったです…ね」
「貴女はどこから連れてこられたの?」
「あーいえいえ、自分から来たんですけど…。ここどこだか分かります?最寄りの村とか町とかでも…」
ばんっ
「アンリっ!!!」
「キースさん!?…どうしたんですか?」
まさかのキースさん。
「お疲れ様です。何か手伝いましょうか?」
「ど、なん…え?」
「悪い人捕まえに来たんですよね?」
キースさんが来るような案件なら、まだディエドに近いのかもなぁここ。
「君を追って来たんだよ…急に出て行くなんて、心配するだろう!出かける時は一言いって出かけてくれ!」
「えっ」
「リッドが訪ねてきてね、馬を買ったおまけのおやつを持ってきてくれたよ…アンリはまだ帰ってないのかって。手綱に所有者にだけ居場所が分かる魔法がかけてあるから、牧場の権限を一時的に譲ってもらって追いかけてきたんだ。アンリなら知らずにそのままだと思ったからね、当たってよかった」
待って、この、無事でよかったよかったって私を抱きしめてる人、誰?
リッドには、一応言い訳してから出てきた。
ちょっと外まで走ってくるわ、って。試運転的なノリで。
「…キースさん、私の事…散歩に出て迷子になって帰って来なかった~みたいに思ってます?」
「迷子になって、頼った場所が犯罪者の隠れ家だったなんて、本当君は目を離すと何をしでかすか分からないな」
「私ね、逃げたんですよ。あの家から」
当社比まじめに切り出すと、キースさんは私を腕から解放して、目を合わせてきた。
「…どういうことだい?」
真顔で見られると、ちょっと怖い。
けど、言う。今しかないと思う。
「キースさん、私の事ちょっと避けてますよね?あんまり好かれてないのは分かってるんですけど、正直居心地悪いんですよ。クロードも、優しいフリしてるけど、結局王様の命令で仕方なく私の事騙してるだけだし、あの家は全部、嘘。嘘ばっかり」
騙されてるって知ってても、確かに楽しい時も嬉しい時もちゃんとある。
けど、嘘なんだってふと思うと、全部無意味で、凄く悲しくなる。
「食べさせてくれて、部屋があって、無視するわけじゃなく話してくれて、でも…話すことって学校の事とか仕事の話とかだし、遊んでくれないし、お出掛けもないし」
ずっと一緒にいるけど、あくまで他人。
友達未満の同居人。
「一緒にいてくれるなら、もっと仲良くなりたかった…!」
言葉と同時に、ぼろぼろと涙も出てきた。
そっと、ハンカチを差し出してきたのはクロードだった。
「…なんで居るの」
「迎えに来たよ」
そうやって、優しく笑って、頭をなでるのはやめて欲しい。
「私が居なくなったら責任取らなきゃだもんね」
「そうだね、しっかり見回りしないからだってキース先輩に怒られちゃうね。知ってる?先輩ね、プレゼントに巻いてたリボン大事に持ち歩いてるよ」
「…は?」
「おいクロード」
「先輩ね、手のかかる妹が出来たみたいだってこの前酔って自慢してたよ。素直で、めげない強さもあって見守りたいって。避けてたのは…惚れられたら困るからじゃない?」
「んなぁ!?」
待って、何か、色々おかしい。
「いやいやいやいや…え?あー…え?」
何か言いたいけど、言葉がまとまらない。
あー、とりあえず…。
「…タイプじゃないから安心して下さい」
とりあえず、これだけは絞り出した。




