帰路
音が鳴ったわけでも、眩しかったわけでもないけれど、急にハッキリと目が覚めた。
家族宛てに、異世界に居ることを手紙で伝えるとしたらどう書くかって真剣に相談した事までは覚えてるけど
どうやら寝落ちしてたみたい。
すんなり起き上る事ができたから、薬の効果は切れたっぽいな。
クロードは、もう居ない。
「ちっ…逃げたか」
「おれの事?居るよ、ちゃんと」
「うわびっくりした!」
ソファーの方から声がした。
「隣で寝たら怒るかなって思って」
「いやそりゃぁ寝相悪くて蹴ったとか落とされたら怒るけどさ、別にベッドで寝てよかったのに」
「そうなの?部屋に入ったら怒るから、しっかりしてるなって思ってたんだけど」
「どういう意味よ…っつーか着替えてるし」
いつの間にか、クロードも寝間着のようなラフな格好になってる。
私と話してた時はカッチリしたシャツとズボンだったのに…。
私が寝てから、一回自分の部屋に戻って着替えたのかな。
「わざわざここで寝なくてよかったのに」
「えー、アンリちゃんが寂しくないようにって思ったんだけどなぁ」
そんな気遣いだったのか…。
さすが勇者、面倒見いいなぁ。
私より精神年齢高くない?
「…ちょっとは落ち着いた?」
「うん、ありがとね。まぁ私根に持つタイプだから時々しょんぼりすると思うけど」
「呼んでくれたらいつでも添い寝するよ」
「寮のベッドじゃねぇ、狭いから邪魔」
気持ちだけもらっておこう。
クロードは、優しい。
親身になって寄り添って、それで痛い目見てきたのに、また性懲りもなく気に掛ける。
あ、不憫になってきた…。
「お姉さんが優しくしてあげるからね!」
「それってどういう意味?」
「甘やかしてあげる宣言じゃんよ~」
このまま一緒に暮らすとしたら、クロードは私の中で弟ポジションかな!
キースさんが兄で、グレイさんが…お父さん?いやお兄ちゃんかな。
この世界での、私の家族だよね。
朝食を食べて、また王様に挨拶に行って、行きよりもゆっくりした速度で出発した。
私が召喚された場所…今まで気にしてなかったけど、ディエドって街だそうだ。
行きは街道無視で森を突き抜けて来たけど、帰りはちゃんと道を通ってついでに監察もしていくんだって。
ディエドまでは大体14日ぐらい。色々寄り道するみたいだからもうちょっとかかるかもね。
私、この世界に来てから旅してる期間がぶっちぎりだよね。
行きには大きな街しか立ち寄らなかったから、素朴な村や集落に行ったときは新鮮だった。
道は土がむき出しで、全体的に草原で大自然の中暮らしてますって感じ。
丸太のログハウスだし、犬とか羊とか馬とかがその辺うろついてるし、高い建物がないし、そもそも村の周りがすぐ森。
すれ違う人の恰好も、結構シンプル。基本単色だけど、頭に花を付けてる人が多くて可愛い。
「あの花本物だよね?」
「うん、ポラータは花が特産品なんだ。近くの渓谷に花畑が広がってるんだよ、風が吹くといい香りがするでしょ」
「思った!めっちゃいい所じゃん」
花冠、ポプリ、押し花、リース、花染めの布…etc 全部とっても華やか。乾燥しても色鮮やかって凄いね。
日本で流行ってたハーバリウムはないけど、綺麗にできると思う。
私は数ある商品の中から、青い花の砂糖漬けを買った。
青い紅茶が無かったから、私が気に入ったものをキースさんへのプレゼントにすることにしました。
丁度この青い花は「幸運を運ぶ」って花言葉らしいし、いい感じだよね!
それと、絵付けの食器が有名だと行きで勧められたロウドの街で、私とクロードとキースさん用にマグカップも買った。
柄がお揃いとか色違いは敢えて避けたけど、職人さんが同じでとってのデザインは共通だ。
私のはオレンジベースにピンクや紫のグラデーションが華やかな可愛いやつ。白抜きの水玉が気に入った。
キースさんは…ここまでやるとしつこい気もするけど、やっぱり青色。白地に青の幾何学模様のキレイなやつ。
クロードのは何となく目を引いた白と黒の上下ツートンに、金の模様がランダムに入ってるやつ。
クロードは何色が好きなんだろ?
ここで聞いたら、何か買うってのがバレるから聞かなかったけど。
今度聞いてみようかな。
ディエド、とかロウドみたいに最後が「ド」だと大きな街を表すらしい。
そこそこの町は最後が「ラ」で、「タ」は小さめな村。
集落なら代表者の名前で呼ばれることが多いらしい。
今まで興味がなかったというか、覚える気もなかったというか…
関係ないと思ってたけど、やっぱり日本には帰れないみたいだから、この世界に馴染める努力を始めようと思う。
ディエドを越えて、確か3日目に立ち寄ったのがロウドだったはず。
行きにどれだけすっ飛ばしたのか知らないけど、逆算するとあと5日ぐらいで帰還かな。
「次は私も一人で馬に乗れるようにならないとね」
「グレイさんにお願いするといいよ、馬好きだから」
「それって休日にってことでしょ、申し訳ないから嫌だよ。そう言うスクールないの?」
乗馬スクール、お高いけどカッコいいよね。
体幹も鍛えられそうだし!
とりあえず今回の旅で太ももの筋肉は鍛えられたと思う。
今も、基本自分の太ももで体を支えて、手はクロードのマントを軽く握っている程度だ。
「アンリちゃんって、この世界の人じゃないよね。国じゃなくて、全部が違う気がする」
「えっ」
「話せば通じるのに、アンリちゃんが書く字は読めないし。時々知らない言葉を使うからさ。ひこうきとかけいたいとか、全然想像つかない話するし…そんな国と、空が繋がってるとは思えないんだよね」
空が繋がってる、か。中々詩的な表現をするなぁ。
そういえば空を見上げることなんてなかったな、月は出るんだろうか?
街灯もないし、満点の星空が見れそう!
ん、星はあるのかな?…魔王の話で星が出てきた気がする。あるある。
「うーん…まぁ多分そうと思うよ。ってゆか最初から私は違う世界に来たなって思ってたわけだけど、人類未踏の地の可能性を捨てたわけじゃなかったんだけどねー。私のとこでは、世界一周とか衛星カメラで地球丸ごと丸裸にしてるから、こんな国ないって分かってたからさ」
まぁ違う国の人、も違う世界の人、もあんま変わんないよね。
召喚補正か何か知らないけど、言葉が通じるだけラッキーと思う。
「…知らない環境に飛び込むのってさ、勇気がいるよね」
「そうだね、私の場合強制だったけど、分かるよ。就職する時も一人暮らし始める時もどっきどきだったもん」
「頑張ったね」
クロードの後ろに乗っているから、顔は見えない。
けど、優しい表情なんじゃないかなって思える、労わるような声。
「ありがと。…クロードも頑張ってるね!」
突然褒められて、認められて。
気恥ずかしさを隠すようについでに労うと、小さな笑い声とともにありがとうと返された。




