表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失(のフリ)やってます!~異世界に馴染むまでの奮闘記~  作者: 丸晴eM
転:怒涛の流れに身を任せ(強制連行)
20/26

これからの為の、今まで

夜。

私はクロードの実家で待機。

勇者なおじいちゃんはもう亡くなってるそうで、クロードの親は魔法の研究員らしくあまり家に帰って来ないらしい。

というわけで、一人ストレッチしたり、メイドさんに美味しい紅茶出してもらったり、画集を見たりしてまったり待ってたんだけど


「はいアンリちゃん、これ食べて」


クロードは王様と話してくるって出かけたくせに、結構すぐ帰ってきた。

そして帰ってくるなり葡萄色した飴みたいなものを差し出してきた。


「何これ、飴?」


聞きながら、受け取って口に放り込む。

甘くはないな。


「普通さー、良く分からないものすぐ口にする?」

「いや、アンタが渡してきたんじゃん。お菓子?噛む?」

「まぁ飲み込んでみてよ」


手元に残っていた、冷めた紅茶で流し込む。


「ソレが、陛下の条件」

「ん?」

「アンリちゃんは魔法が効かないから、安心できないんだってさ。アンリちゃんは記憶を失くしたかわいそうなただの女の子なのにね?」

「ほんとそれ。無害だからほっといて欲しいって言っとい、て……よ」


途端、眩暈がした。

産れてこの方貧血なんて起こしたこともないけど、多分そんな症状。

ぐにゃりと体から力が抜けて、座りっぱなしだったソファーにぐったりする。

これ、立ってたら受け身も取れず顔面強打だったな…。


「今の薬、嘘をついたら膜がとけて中の毒が体に回るんだ。アンリちゃんは魔法が効かないから、特別調合だよ。死ぬよりマシだよね」


悪魔かよコイツ。

少なくとも勇者が言うセリフじゃないわ。

って言うかこの体で覚えさせる戦法マジ止めて欲しい、普通に口で説明して!


「ろくでもねぇー…これ治るの?毒で死ぬ…」

「朝まで動けないかな。その間にどうとでもできる手段として、ね。おれが適当に食事に混ぜて食べさせとくから気にしなくていいよ」


毒を盛る宣言された…。

こんな、鍛えてもいない普通の女の何が怖いんだか。


まぁ、うん。殺されるよりいいからいっか。

嘘つかなければ害ないしね!


「いいよいいよもう、好きにして。私も好きにするし」

「変に潔いよね」

「人生諦めも肝心。…でも、帰れるなら…」

「帰れないよ」


強い口調で、遮られた。

ぼんやり天井を見ていた視線を、何とかクロードに向ける。


「ごめんね」

「…いいよ別に、仕事きつかったし。でもお母さんとお父さんは心配してるんだろうなって。行方不明は死亡よりタチ悪いからね」


そうだ、私今向こうでどうなってるの?

一人暮らしだったから、多分私が居ないって最初に気付くのは会社の人。

無断欠勤、からの音信不通。そんで親に連絡がいって…みたいな?

今時無断欠勤で仕事辞める子とか居そうだし、適当にクビきられてるのかもしれないけど。


帰れないなら帰れないで、ちゃんと死亡扱いして欲しい。

親孝行できなかったからせめて私の生命保険受け取ってほしい…!

無駄に払い続ける家賃とか通信代もムカつくし、来月行く予定だった旅行も早くキャンセルしないとキャンセル料がかかる。

あぁっ思えば思うほど帰りたい!一瞬だけでもいいから!


「…ごめんね」


クロードが謝るほど、私も謝りたくなっていく。

ごめんね、勝手に居なくなって。私のせいじゃないけど。

ごめんね、ごめんなさい。もう会えないみたい。

寂しい、悲しい、申し訳ない。

最後に交わした言葉はなんだったっけ?


今までも、考えたことがなかったわけじゃないけど。

自分で手一杯だったから、考える余裕がなかっただけだったみたい。


「謝ってすむ問題じゃないし、クロードが悪いんじゃないでしょ。どうしようもないんだったら放っておいて」


私だって、どうしていいのか分かんない。

…どうしようもないんだけど。

考えられない、考えたくない。


「…ベッドまで運ぶね」

「そうだね、あのね、この状況はクロードの責任だからがっつり謝ってくれていいよ」


意識はしっかりしてるのに、体が動かない私。

ソファーから横抱きに抱き上げて、ベッドに寝かされる。

はい、ちょっと待ってナニコレ恥ずかしい…!


「ごめんねアンリちゃん。…おやすみ」


私の目元を撫でて、明かりを消す。

なるほど気付かなかった、私、泣いてたみたい。


「待って」


妙に目がさえた私は、クロードを引き留める。


「一緒に寝よう」

「は?」

「寝かさないけどね」


泣き顔を、見られた。

ゆっくりとした瞬きしかできない今、この涙を我慢する術を私は持たない。

一人で一晩中ないたら、きっと明日は酷い顔だし、テンションもどん底。

ぐるぐるどうしようもない事を謝り続けて、根暗モード確定。


ならもう、うじうじせずに全部ぶちまけてやろう。

いっぱい泣いて、全部出して…そのかわり、この話は今日でおしまい。


私はいつも、嫌なことがあっても泣かない。

ゴミ箱を蹴って、ストレス解消!


「私の愚痴に付き合うべき」


意味なんて、通じなくてもいい。

相槌もなくていいから、私の話を聞いて欲しい。

とりあえず来月の温泉旅行をいかに楽しみにしていたかを聞いて欲しい。

女子会プランで、眺めのいいお部屋で美味しい物食べて、スイーツバイキングで、露天風呂。

しかもクーポン割引で一人1000円OFF、見つけたのは私!


「はいはい、仰せのままに」


ジャケットを脱いで、私の隣に寝っ転がる。

あやすように、頭をなでる。


「そういうオプションいいから」


聞いて、私の今までの話。

多分、もう話せる機会もないだろうから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ