三代目勇者の苦悩
勇者っていえば、冒険してクエスト受注して世界を救う…いやゲームすぎるか。
世界中を旅して、困ってる人を助ける正義の味方ってイメージだったけど
現実ではそうではないらしい。
「じい様はそうだったかもしれないけど、おれは本当に困ってる人に会ったことがなかったよ。借金や浮気、自分で蒔いた種を処理出来ずに泣きついてくる貴族とか、不正がバレて処罰される寸前のメイドもいたっけ」
「昼ドラしてるな!っつーかクロードも貴族?」
「位はないけど、じい様の代から王に直接仕える騎士みたいな扱いかな。城で暮らしてたから、出入りする貴族とはいくらか交流があったよ」
何ていうか、飼殺されてるなぁ…。
勇者の定義が分からないけど、一種のブランド扱いみたい。
「そんな人達もかたっぱしから助けてきたの?」
「…うん。泣いてすがってくるもんだから、力になれればって…できる限りの事はしてきたけど、全てか終わってから噂で聞くんだ。本当に悪いのは誰だったのかってね」
「詐欺だなー、騙されたんだね可哀そうに」
昔ってどれぐらいだろう、この前キースさんが4年の付き合いとか言ってたから…
えー、クロード確かまだ未成年だし少なくとも16歳かな?
大人の事情に揉まれるには早すぎる。
「大きくなってからは何となく…誰が嘘をついてるのか分かるようになったし、調べて真実を知ることもできるようになったけど。それでも、皆の前で助けてって言われたら"反省の意思はあるようです"って言ってあげなきゃ"勇者のくせに"って僕が悪者にされちゃうんだ」
大きくなってから…ってことは、小さい時から正義の味方ごっこさせられてたのか。
っていうか嘘発見スキルは子供時代から磨かれた技なのか…重い。
「そいつらさー"勇者のくせに"って生意気じゃん?それを言うなら大人のくせに子供に頼ってんじゃねーよって感じだよね」
「そうだね…」
「何びっくりした顔してるの?思わなかった?」
「今思った」
そっか、思えたんならよかった。
クロードは中々勇者コンプレックスみたいだなぁ。
「おれ、アンリちゃんより子供だけどそれでも助けてって言っちゃうの?」
「そこはさー!私この世界の事知らないし、クロードの方が強いし、男だし、か弱い女の子を助けてやろうってのが正解でしょ」
「そうだね…アンリちゃんこの国の事知らないもんね」
分かればいいのよ、分かれば。
クロードが一緒に行ってくれるなら、お手柔らかにするように口添え期待してもいいかな?
この勇者さまは頼られると弱いみたいだし。
うん、悩みも愚痴も聞くけど弱みには付け込むよ…
悪いなクロード、私だって自分の身が一番優先なのだよ…。
***
ぽつぽつ喋った記憶はあるけど、いつの間にか寝落ちしてた。
「んー、ちょっと寝不足…」
「落ちないでね?体縛っとこうか」
「やめて」
今日は、昨日までと違ってロデオじゃないからお喋りしながら進んでる。
さてはクロードも寝不足かな。
「ねぇアンリちゃん」
「んー?」
「アンリちゃんが居た国ってどんな場所だったの」
まったりモードで行くのかな?大歓迎!
「記憶喪失だって言ってるのにな?」
「急に知らない場所に召喚されたから混乱してただけだよ。過去にも、人が召喚された例はあるらしいよ。その人は大地が凍る国からやってきて、星と保存食の知識をこの国にもたらした」
その人は…この世界の違う場所から来たのかな。
それとも私みたいに異世界から?凍る国だったらロシアとか北海道とか。
「星を見て故郷の方角に1年進んでみたらしいけど、結局諦めてこの国に帰ってきたよ。ここは魔法と森の大陸だってね。その人の話では海を越えると別の大陸があるんだってさ」
「ん~そうだなぁ、だったら私の国は海に囲まれた四季の大陸とか…この国って季節あるの?」
前例があるみたいだし、私の事を他所から来たって認識自体は合ってるし
面倒だからもういいよね、普通に話しちゃうよ。
勝手に都合がいいように解釈してくれるっぽいし。
「聞いたことないなぁ」
「えっとね、一年間で暖かくなって暑くなって涼しくなって寒くなるの。咲く花とか育つ野菜が違うし、夏は海で泳いで冬は山でスキーとかできるよ。同じ場所に住んでいながら、世界が変わっていく感じかな?」
「凄いね、旅をしなくても十分楽しめそうだ」
「でも衣替えがめんどくさいよ、服の置き場に困るしねー。靴も、布団も」
お昼過ぎに一つ目の街に着くまで、外人に日本を紹介する時みたいに、色々話した。
あ、私の腹時計参照ね。
今までは当り障りなく表面上の事とか生活面の話しかしてこなかったけど、こんなにも話したい事いっぱいあったんだなー…。
やっぱ、隠し事したままじゃ人間深く付き合えないもんだね。
「お昼食べたら、もう一つ先の街まで行こう。この街は綺麗な模様の食器なんかが有名だけど…見たい?」
「食器なら別にいいかな。自分専用のマグカップぐらい欲しいけど、ここで買っても割っちゃいそうだし」
「そっか」
「…どうしたの急に神対応になってない?こんなゆっくりしていいの?疲れた?」
昨日も一昨日もあれだけハードだったのに、今日はめっちゃ和やかなんだもん。
お尻もそんなに痛くない。
「うん、アンリちゃん逃げないみたいだし。無理させたから疲れたでしょう?」
「はぁ!?最初に言ってよ!逃げる気元々ないし!逃げても行くとこないしな!?無駄にスパルタされたってこと?待って急激にムカついた、待ってマジか…マジかー」
国のトップからなるはやで呼び出されたなら仕方ないって思ってたのに!?
逃走防止の強攻だったの?
そんなの首輪でも手錠でもつけて対策してさ、普通の速さで行ってほしかったわ…!
「逃がしたら、おれが怒られるんだもん。まぁ逃げる気なら最初からこんなに深入りしないよね」
「深入りってなに。別にお悩み相談に乗ったからって、切るときはサクっと関係切るよ。もし王様が私の事解剖するってなったら、クロードのメンツとか気にせずダッシュで逃げるからね」
「そうじゃなくてさ、一番最初にキース先輩から寝袋と食料もらっただろ?逃げるならあそこで持ち逃げしてるよねって事」
あれは…、あれは、そういう手もあったの…か?
いや、ないよねー
異世界迷子の私に限ってその手は使えないわ。結局路頭に迷う。
「持ち逃げしたら盗人じゃん、私悪いことしないから」
「そうだね、アンリちゃんあんまり頭働かなそうだもんね」
めっちゃいい笑顔でバカにされたから、
脇腹に思いっきりパンチをいれてやった。




