お約束のチート能力がマジでいらない件について
「ただいま。アンリ、変わりないかい?」
「絶賛引きこもりで変わり様がありませんけど?」
空がオレンジに染まる頃に、二人揃って帰ってきた。
攻撃的に出迎えてしまったけど、八つ当たりだなこれじゃあ。
仕事で疲れて帰ってきてるんだからこれはないな、ちょっと反省。
「おかえりなさい、することないから掃除しといたよ。後は…メリッサさんが訪ねてきてキースさんのこと心配して帰っていったよ」
「メリッサが?」
「えーメリッサちゃん来たの?あのタイミングで?凄いな!」
何故かはしゃぐクロードを、渾身の目力を込めて睨みつける。
「凄いな、じゃないから!クロードが見せてくれた手紙ってさ、まさかキースさん宛てのラブレターだったとか言う?」
「そうだよ」
「こら、人の手紙を勝手に見るなって言っているだろう」
「ほんとだよ、人の手紙を勝手に見せないで!あやうくシメられるとこだったんだから。それとキースさんもさ、私の事言いふらすのやめてくれない?自由になったらこの街で働くつもりなんだから、変な噂たてられたら困るじゃん」
問題児クロードを2人掛りで攻めつつ、私はキースさんにも怒りの矛先を向ける。
ここに来てから怒ってばっかりな気もするけど、2人供あんまり気にするタイプじゃないようで、険悪な雰囲気にならないのがありがたい。
言いたいこと言って、ここで終わり。スッキリ。
ヤロウ2人との共同生活は、案外やりやすくていいな。気ぃ使わなくていいし。
笑って流したクロードがてきぱきと晩御飯の用意をして、席につく。
「ところでさ、メリッサちゃんと話したってことは、もしかして外に出た?」
「あんだけ脅されて出れるわけないじゃん!門からは出ないで、そこで話したの。…もしかして気絶するって言ってた魔法、嘘だった?出ても平気だったの?」
「半分は本当で半分嘘かな。魔法で出られないようにはしたけれど、気絶はただの脅しだよ。まぁ、貴女には効果がなかったようだけれど」
なんだ、冗談だったのか。びびって損した。
外には出ていない、というより出れないようにしたくせに。
非難がましい目で見られつつ、やいやい言い合いながら晩御飯を間食させていただいた。
何の肉か分かんないけど、とろとろに煮込まれた料理が絶品でした!
ま、こんな感じで軟禁生活一日目を何事も無く終えたのであった。
(軟禁って状況が何事だよって感じだけどね)
***
「アンリちゃーん、アンリちゃん起きて」
「こら、勝手に部屋に入らない。寝ているのなら書置きでもしておけばいいだろう」
「あぁアンリちゃん字が読めないそうですよ。キース先輩が学校に行くときに一緒に連れて行ってあげれば?」
…あーあー、夢の中でも文句言ってる…。
「字が?教育を受けていないのだろうか。だとすればグレイの推測は当たりなのだろうか…」
またでた、グレイさん説めっちゃ気になる…。
「待て何をしている!」
「せっかくだから連れて行こうかと思いまして。先輩も分かってるでしょう?役に立ちますよ」
役に立つ?私が?
…もしそうなら、嬉しいな…
と、
夢うつつで
寝込みを襲われた私は、
「グレイ、状況は?」
「あの炭の欠片を取り込んだら、掌ぐらいの火の蝶が俺ぐらいまででかくなりやがった。以上!」
「んぅ…熱っ…」
「起きた?自分で歩ける…あぁ、靴履かせるの忘れてたな」
目が覚めたらクロードに俵担ぎされてた。
「待って待って待って、何処ここ。私普通にベットで寝たよね?記憶がないんですけどー!?」
「やだな、君が綺麗にした畑だよ?もう記憶喪失しちゃったの?」
「そういう意味じゃないから、何で私こんなとこに、熱ぅ!」
言われてみれば、見たことがある畑。私が泊まってた家だ。
何か燃えてるけど。
「…燃えてるけど!?火事じゃん、水みず!」
「何でアンリを連れて来てんだ!危ねぇだろ、避難させとけ」
「火事じゃないよ、見える?蝶々みたいな火の塊、あれがモンスター。近づくと熱いけど、不思議と火が燃え移ることはない」
グレイさんが、剣で火を払うように散らしているのが見える。
実体が無いのか、蝶に剣が刺さった様子は無くゆらゆらと揺れているだけだ。
…とりあえず熱量が半端ない、5メートルは離れてるのに、サウナにいるみたいに汗が出てくる。
「火のモンスターは、飛ぶ動物の形を取ることが多いんだ。近づいて、取り付いて、肌を溶かす。小さいうちなら水で消えるけど、あそこまで大きいと逆に水が蒸発してしまう。今住民を集めて、全方向から一斉に水をかけ続けてみよう作戦の準備中なんだけど…」
妙に親切丁寧に説明しながら、器用に私をお姫様抱っこの姿勢に抱きかえる。
かつ、それはそれは優しそうににっこりと笑っている。
普段態度が悪い人にこんな対応されると、嫌な予感しかしないよね。
いやクロードはいつも愛想はいいんだけどね?っていうかお姫様だっことかぁああ!
近いし恥ずかしいし重いからやめて欲しいし意外と力あるんだなやだドキドキしてきた!
いろんな意味でな!!
「アンリちゃんならイケルんじゃないかとおれは思うんだよね」
「……な、なにが…?」
答えは無く、笑みが深まり、逃がさねぇよとでも言うように腕に力がこもる。
ぎゅうぎゅう抱き寄せられて、クロードの肩に頬が当たる。
「グレイさんどいて下さい、代わります!」
クロードが走る揺れが、ダイレクトに伝わる。
「うそ、ちょ、おまっ」
腕の中でもがいてみるけど、びくともしない…逃げられない!
「ぎゃあああああっ熱、ちょ、クローーーーーーーード!!」
足止めなのか、ただ縋っただけなのか。
咄嗟に、体が勝手に動いてクロードにしがみついていた。
背中から、熱を感じる。
「いーーーーぎゃぁああああぁぁーーー!!!!」
一瞬、サウナのロウリュウサービスで扇がれたみたいにひときわ熱いのがきた。
…でも、それだけだった。
「あぁーー…あれ?」
「アンリちゃん首、しまってる…放してくれる?」
「クロード!アンリ!…何だ今のは、2人共無事か!?」
辺りが急に暗く感じられて、夜風に冷やされた体が寒い。
「……あれ?」
「言ったでしょう、大丈夫でしたよ。アンリちゃんのおかげで被害は無しです!」
「確証はなかっただろう、まったく無茶をして…だが、よくやってくれた」
「アンリちゃんが魔法を無効化するのは実証済みでしたからね」
うん、あんま分かってないけど、盾にされたのは分かった。
そっかー私って特に何も特殊能力ないなって思ってたけど、あったのか。
だから無理やり燃え盛るモンスターに突撃かまされたのかー。
「…いらねー…」
どっと疲れて、そのままクロードにもたれ掛かって瞑目した。




