街で人気の青色
部屋でストレッチをしていると、クロードが一人だけ昼休憩に帰ってきた。
キースさんとはずらして休憩するらしい。
「ただいまアンリちゃん、お腹空いた?お昼ごはんだよ」
「お帰り、お疲れ様。何もしてないからあんまり空いてないんだけどね」
クロードの部屋は、何故かドアノブが動かなくて覗けなかったし、キースさんの部屋は扉がめっちゃ重くて侵入できなかった。
どっちの部屋も物理的にロックされていたと推理している。
ちなみにデリバリーされたお昼ごはんは、海鮮クリームパスタのような料理ですごく好みの味だった。
ご馳走様です。
「頂き物のアップルパイがあるから、おやつに食べてね」
「ほぼ日差し入れもらってない?」
「うん、毎日誰かしら持ってきてくれるね。キースさん人気者だから」
この世界に来てから、ずっとおこぼれにあずかる私。
キースさんゴチです。ありがとうイケメン。
「それと、こっちの袋あとで見ておいて。ラピュレさんが必要だろうって、用意してくれたみたい」
差し出された袋からこぼれる布を引っ張り出すと、綺麗な淡い水色のワンピースがでてきた。
「わぁ、服?ありがたいなぁ、ラピュレさんのかな?貸してくれるの?」
「彼女、ああ見えてもう40だよ?こんな可愛いデザイン流石に…。近所から古着でも貰ってきてくれたんじゃないかな」
「うっそアラフォー!全然見えない、ちょっと年上のお姉さんかなって思ってた…美魔女!」
他にさらさらした生地のブラウス、ハイウエストのブルーのスカートに紺のロングスカート。
青色が流行ってるのかな。
底の方にもうひとつ袋があったので除いてみると、黒い下着が入っていた。
うぉお…お姉様…!
「お礼言いに行きたい!」
「うん、また今度行こうね。今日のところは代わりに言っておくよ」
本当、いい人ばっかり。いい街に来たわ…。
「なにか面白い本あった?って言っても学校で使う本を預かってるから、図鑑とか童話が多いんだよね。小説とか読むなら借りてくるけど」
「あー、それなんだけど。私偉そうに字ぐらい読めるわ!って言ったけど、読めないみたい。記憶喪失も楽じゃないね。子供が文字覚えるような簡単な本あれば欲しいな」
嫌だけど、今後のことを考えると勉強しておくしかない。
やる気はないが、幸い時間はたっぷりある。
私がカミングアウトしてみると、クロードは真顔でじっと私を見てきた。
こんなしょうもない嘘、つかないってば。
「あはは、またまた。…おれにかまって欲しくて冗談言ってる?ごめんね、また君を置いて仕事に行かなきゃいけないんだ」
「うそ。嘘かどうか分かるって言ったじゃん。読めないもんは読めないの!信じられないならもういいけど、代わりに針と糸調達してきてよ。暇だから服の手直ししとくし」
「そうそう、ラピュレから君に手紙だよ」
「読めないってば…じゃあ見るから、後で声に出して読んでよ」
本当に読めないのかどうか確かめたいのか、白々しいタイミングで手紙を渡された。
薄いピンクの封筒に、例の模様な文字が書かれている。これでラピュレかアンリって読むのかな?
とりあえず中の便箋を取り出し、眺めてみる。
青いインクで書かれていてオシャレだ。
「この最後のとこはラピュレって読むの?」
最初と最後に、文章よりも少し大きい字がある。
最初のがアンリへ、で最後がラピュレより的な署名だと名推理してみたところ、
「……っく」
笑いを堪えているクロードが目に入り、ってこれ昨日もやったじゃん。
え、なに全然違うってこと?
「いいよ、笑えよコノヤロー!クロードのばーか!」
「くっく…、えーやめてよ、本当に記憶喪失なの?それ、メリッサって書いてる…ふっ」
「誰それ。服くれた人?」
「えー…困るよ。まさかのグレイさん説の可能性か…。あーあ、やっかいな子拾っちゃったな」
「はいそこ、拾ったんならちゃんと最後まで面倒みてくださーい」
笑いをかみ殺しながら、上着を羽織って出かける準備を始めるクロード。
どうやら答える気はないらしい。
っていうかグレイさん説って何だよそっちもめっちゃ気になるんですけど!?
キースさんの説が私はお嬢様ってヤツだから、それ以外なんだろうけど。
会った時には家出疑惑をかけられてたけど、今どうなっちゃってるのかなー。
***
リンリン
クロードが仕事に戻ったので、一人で食器を洗っているとベルが鳴った。
何の音だろう?近くで何かやってるのかなー。
リリン
いやでもコレ、外から聞こえるんじゃなくて…家の中で鳴ってる?
というよりも家から音がするっていうか、どこからだろ、天井かな。
リリリリリンリン
あ、もしかしてこれ、呼び鈴?
そう思いついて玄関まで走ると、案の定門の所に人が居た。
魔法をかけられたのはあの門の所だから、玄関を出るのはセーフだよね?
「はい、何でしょうか?あいにくクロードもキースも出払ってますが…」
「キ、キース…!?」
恐る恐る玄関を通り過ぎる。セーフなんともなかった!
ほっとしたいとこだけど、そこに待ち構えていた女の子は中々凄い形相をしていた。
えー、明らかにお怒りなんだけど。なに、クレーム?
「キースなら詰所に居るはずですので、そちらへお願いします」
「…ごっ」
「ご?」
「御機嫌よう!」
わぉ。目の前のお嬢さんは、お嬢様らしい!
すごい、ごきげんようだなんて初めて言われた。うぉおちょっとどきどきしちゃう。
「ごきげんよう。私は杏理です、あなたは?」
恥ずかしいけど言ってみた。ふっふ、照れるわ。
何だかこっちまで上品ぶっちゃうなー。
「わ、たしはメリッサと申します。あの…アンリ様はこちらに住まわれるというのは本当でございますか!」
「…あ、ハイ」
…お嬢様、私か!
うーわーー私の事お嬢様だと思って会いに来た子がいる~!
困るんですけどー!
あれ、でもメリッサってさっきの手紙の人?
「メリッサさん、もしかして手紙の件で私に用ですか?」
「へ?あ、え!?よ、読んだんですか!?」
「いえ、何て書いてあったんですか?」
「アンリ様には関係ないです!」
え、関係ないの?私への手紙じゃなかったの?
「平民は、キース様に手紙も出してはいけないのですか!貴族じゃないと、釣り合わないとでも言うのですか!」
「私は別にいいと思いますよ!?そもそも私も貴族じゃありませんから」
「隠さなくてもいいんです、話は聞いてしまいました…高貴な方を預かることになった、と」
絶対これキースさん元凶じゃん。
何言いふらしてんだアイツ。
「同じ平民ならこんな抜け駆け、ファンクラブで制裁物ですがアンリ様にはそんな事できません。ですが、一言聞いていただきたくて無礼を承知でここまで来ました」
「な、何かしら。聞いてさしあげてよ」
絶対制裁されたくないから、メリッサさんの前では貴族やりまーす。
おーっほっほっほ、これでいい?しめられない?
ファンクラブなんてあるのかよ…キースさん半端ねぇな。
「一緒に暮らすからといって、その…遊び半分でキース様に手を出さないで下さいね!」
「…よろしくってよ、指一本触れないと約束してさしあげるわ」
色々突っ込みたかったけど、異論はなかったからとりあえず了承しておいた。




