中編
今回の舞台は文化祭となります!
「サバゲー部へようこそ!」
「サバゲぇえええぇ部ぅぅううぅ!?」
文化祭。
この俺の飼い主、空耳狗尾がお世話になっている高校――市立朝日高校の文化祭である。
勘違いした方がいるかもしれないので、僭越ながら訂正させておくれ。
私立ではなく、市立である。
私立高校でもサバゲー部は珍しいというのに、市立高校でサバゲー部。そんなバカな……! おそらく生徒からの提案で設立されたと思われるが、まさかこの町にサバゲー部があるだと……? しかも『サバゲー愛好会』ではなく『サバゲー部』。普通に人気あるじゃあねぇかよ。
うらやましい!
普通にうらやましい!
ずるいぞ、俺が死んだ頃はそんなのなかったぜ?
サバゲーって何ぞや、って人達のために説明してやろう。猫による臨時サバゲー説明会である。
『サバゲー』とは『サバイバルゲーム』の略称だ。
サバイバルっつっても、七徳ナイフを片手に山奥に潜って獲物を狩ったりして自給自足するわけじゃあないぜ?
使うのはエアソフトガンだ。
一般的に外見を実銃に似せ、実弾の代わりにプラスチック製のBB弾を発射する遊戯銃、それがエアソフトガンだ。BB弾は必ずしもプラスチック製とは限らないのだが、分かりやすさ優先のため、ここではプラスチック製と表記する。気になる人は各自で調べな。
そのエアソフトガンを使い、ルールに従って競技するのが『サバイバルゲーム』、略して『サバゲー』。
ルールは運営によって異なるが、一般的なものにはフラッグ戦や殲滅戦などがある。調べたらわかることなのだが、ルールの名称や細部は運営によって様々だ。プレイする際には、お世話になる運営が定めたルールをよく確認しなきゃならねぇ。エアソフトガン(今後エアガンと略す)だけ装備して会場に乗り込んだりしやがったら、入場禁止どころか、皆から白い目で見られることになる。念願の仲間入りだと思ったら永久追放だなんて、そんなの嫌だろう?
まぁ、簡単に言っちまうと、エアガンで撃ち合いをするゲームだ。
そんな十八歳以上のマニアな大人が圧倒的に多いゲームなのだが、その部活がまさか市立の高校にあるとは……。いったいどうやって先生やPTAの連中を納得させたんだ? 俺のようなクズには想像もできない努力があったのだろうなぁ……。心にしみるぜ。しみじみ。
「あの……猫さん? どうしたの? さっきから涙目だけど?」
「いや……、ちょっと、感動してしまってな。若者の無限の可能性を堪能していたんだ」
「いやいや、堪能って、何言ってるの? まだ部室の入口だよ?」
「そういやぁそうだったな」
現在地、朝日高校の部室棟の前。
校舎の脇に位置する、錆びたモダンの屋根と汚れたコンクリートの壁。
この話の最初あたりにも書いてあるとおり、今日は文化祭だ。
高校の入口には飾られた謎のアーチが設置され、玄関前には生徒ではない町の人による屋台が並ぶ。屋台が好きな町だなぁ。
もちろん、校内も生徒らによって飾り付けが施され、教室をまるごと使った出し物が学年ごとにおこなわれる。クラス? そんなもんあるか。田舎なめんなよ。
生徒会が作成した案内図によれば、一年生は猫耳カフェ、二年生はヘヴィメタル、三年生はお化け屋敷だそうだ。
…………。
…………。
おい二年生――いや、もはや何も言うまい。
「ん? 部活からの出し物って、どういうことだ? 学年ごとの出し物があるんじゃねーのか?」
「希望制だよ」
「それでいいのかよ」
「だって私、楽器も弾けないし歌えないし」
「楽器はともかく、歌はな……」
『もはや何も言うまい』と言ったばかりだが、やはり言わせてもらう。
何故ヘヴィメタルにしたんだ……。
みんなが参加できるものにしようぜ……。
先生は何も言わなかったのかよ……。
サバゲー部が許可されている時点で気付いてもよかったものだが、この学校、かなり緩いな。色々と。
「この学校の校訓は『思考、主張、自由』だからね」
「なんだぁ? その校訓。生徒からいいように利用されてんじゃねーよ。思考から主張を橋代わりに自由へとなだれ込んでるじゃあねぇか。現在進行形で」
「校舎からの音の威圧がマジやべえ」
「人間でよかったな狗尾。猫である俺は今にもヘヴィメタに染まりそうだ」
「あー、猫さんの頭がロングヘア―に……」
冗談はさておき。
「よし、では部室、開けるよ」
「よし、ばっちこい」
アルミ製の扉。
曇りガラスには『サバゲー部』と書かれた紙が貼られていた。もう少し詳しく説明すると、『サババ』の上に線が引かれ、その横に『サバゲー部』と書かれている。新しい紙を用意する気はなかったのかよ。
狗尾は扉のくぼみに手をかけた。
そして、扉は手に従って開かれ――
「ぜえはぁ……、ぜえはぁ……」
「いや、さっさと開けろよ」
開かれなかった。
狗尾は扉に触れたまま、肩で呼吸をするように、ぜはぜはと息切れを起こしていた。……もしかしたらもしかしてだが、こいつ、喘息持ちか?
「いやいや、喘息とかはないよ。いざとなると緊張しちゃって……ぜはあ」
「おめぇ、緊張するとそうなるのか。それ、なおしたほうがいいぜ?」
デートの際にそんな息をしていたら、相手はドン引きだろうよ。
「開けねーなら俺が開けるぞ」
「猫さん、開けれるの?」
「お前がいないとき、俺はいつも勝手に出て勝手に散歩して勝手に戻っているよ。家の玄関や窓を開けてな」
「そうだったんだ……知らなかった」
「知らなかったのかよ。配達も俺が受け取っているぜ?」
サインもしている。
この前は配達員にお茶も出してやった。
「んで、開けていいか?」
「あーちょっと待って。まだ心の準備が――」
「失礼するぞー」
「ちょっと猫さん!?」
いちいちお前に合わせている暇はねぇよ。
俺は今日のうちにお菓子を手に入れなければならない。
それも出来るだけ多く、だ。
今夜、シニガミの友達であるシニガミらがやって来る。
シニガミらが「トリック・オア・トリート」と言い、俺が「ほらよ」と言ってお菓子を渡すんだ。ハロウィンだからな。シニガミは何人呼ぶかは告げなかったので何人(何体? 何柱?)来るかは定かではないが、配るお菓子が足りなかった場合だけはどうしても避けたい。
それでブチ切れたシニガミらが、一応アンデットに分類されるであろう俺をぶっ殺そうとするかもしれないのだ。まあ、シニガミだって一応カミに分類されるだろうから、切れたくらいで俺を殺そうとまではしないだろうけれども……。
カミは気まぐれだって言うしなぁ。
「いらっしゃい……はい? 猫?」
部室の壁には部活動中の写真や、サバゲーの説明をしているらしき絵が貼られていた。また、壁際に置かれた長机の上には様々な種類のエアガンが並べられていて、扉の横にはフル装備のマネキンが設置されている(こいつのせいで若干ビビったのは秘密だ)。
そして部屋の奥には……何だ? あの禍々しいオブジェクトは……? ……面倒だし、あとで説明する。
部屋の中心には、先ほどまで折り畳み式のパイプ椅子に座っていた少年がいた。
一部の女子よ喜べ、黒縁メガネだ。
「おー、ミサトくーん」
「空耳先輩? ってことはこの三毛猫、先輩のですか?」
「うん、うちの猫さんだよ」
「ダメじゃないですか、猫を学校に連れてきたら。先生方にバレて部活動禁止にでもされたらどうするんですか」
「バレなきゃ犯罪じゃないよ。先生も色々と忙しいみたいだし、ここに来ることはないでしょ」
「警戒すべきは先生だけではありませんよ。お客さんや生徒……特に、報道部の連中には注意しないと。あいつらのことだから、『化け猫あらわる! 恐怖のハロウィン』という題名で盛り上がりますよ」
…………。
実際に俺は化け猫だし、恐怖のハロウィンでもある。
ちなみに俺は、狗尾以外の人間とは言葉を交わさない。
俺が口を開くのは、誰もいないときか、狗尾やシニガミ以外誰もいないときか、食事やあくびをしているときくらいのものだ。
自分の飼い主にぞっこん、というわけではなく、単純にパニックを起こさないようにするためだ。
猫が喋ったところで悲鳴が上がるだけ。
「あ、紹介するね、猫さん。この子はミサト君、高校一年生、サバゲー部の後輩」
……狗尾は普通に、人前だろうと俺に話を振ってくるがな。
もうすこし、ミサト君の容姿を説明しよう。
一年生の出し物が猫耳カフェだからなのか、執事が着そうなタスキートを着こなしている。メガネや口調が相まって、本当に執事のようだ。右手にはポケットサイズの本。俺らが来るまで読んでいたらしい。
「猫に紹介してどうするんですか」
「猫さんは完全記憶能力の持ち主だからね。私のかわりに人の名前を覚えてもらおうと思って。私が忘れたときは猫さんに教えてもらう」
「仮にその猫が完全記憶能力の持ち主だとしても、猫とは言葉が通じないから無意味ですよ。ってか後輩の名前くらい覚えてください」
「無茶言わないでよ、なんとか君。この学校に後輩が何人いると思ってるの? なんとか君」
「同じ部活の後輩くらい覚えてください。あと、なんとか君って呼ぶのやめてください。さっきまでミサト君と親しげに呼んでくれていたでしょう。急に記憶喪失しないでください」
「文句が多いねー、後輩のくせに。この狗尾先輩が先輩という立場を利用して先輩としての権力を執行しちゃうよ? それでもいいの?」
「くっ……、すいませんでした……」
ミサト後輩が頭を下げたのを受け、狗尾先輩は満足げに胸を張った。
……自分の飼い主が先輩の権力を執行するぞっと後輩を脅している……。
わかるか? 今の俺の気持ち。
怖い先輩がさらに上の怖い先輩に媚びを売っているのを見ちまったような気分だ。狗尾は先輩として後輩を脅したはずなのに……。
「で、お客さんは何人来たの? ちゃんとアピールできた?」
「えーと、それがですね……。できませんでした」
「そっかー、できなかったかー……。ま、しょうがないよ! 次はきっとできる!」
「あーと、それがですね……。お客さん、来ませんでした」
「え?」
え?
「一人も?」
「一人も」
「誰一人?」
「誰一人」
「ゼロいこーるゼロ?」
「ゼロいこーるゼロ」
「まじか…………」
サバゲー部にはお客さんが誰一人いらっしゃらなかった。
その事実にショックを受けたらしい狗尾は、しばらく、ふらふらと覚束無い足取りで部室内を何周か歩き回り、ドスンと、パイプ椅子へと腰を落とした。
燃え尽きたボクサーみたいになってやがる。
これは例の夏祭りのときにも思ったことなのだが……、こいつショック受けやすすぎじゃあねぇか?
と、ここでだ。
大丈夫ですよ先輩まだ文化祭は始まったばかりですしこれからお客さんきっと来ますよ元気出してください先輩の猫もそう言ってますよご主人様ふぁいとーって――っと、ミサト後輩が一生懸命、燃え尽きた先輩をなぐさめていたその時、部室の扉がギィーと音を立てながら開かれた。
「おー、サバゲー部してますねー」
そんな奇妙な独り言と共に現れたのは、中学生くらいの少女だった。
長くてボリューム感のある髪を後ろで一束にまとめ、その塊を左肩から前へと通している。一瞬マフラーかと見間違えた。
そして赤いカシミアの服を着ていて、その上には白いカーディガンを羽織っている。一見すると暖かそうではあるのだが、かなり短いスカートを履いているので、本人が暖かいと思っているかどうかは不明だ。スカートによって失われる防寒性を補うためなのか、チョコ色のロングブーツを履いている。
突如襲来した来客に反応し、反射的に立ち上がる狗尾と、本能的に挨拶するミサトだったが、どうやら知り合いらしい。
「おー! リサちゃんだ!」
「こんにちは、空耳さん。遊びに来ましたー」
「リサさん、学校はどうしたのですか?」
「サボりました」
「だめじゃないですか、勝手にサボりましたら」
「勝手にサボったのではありませんよ。学校にはちゃんと連絡しました。仮病になったのでお休みします、と。あと外からの音の威圧がマジやべえ」
「仮病だと言っちゃってるじゃないですか。逆にケンカ売ってますよ。外からの音の威圧がマジやべえのは認めますけど」
「お黙りなさい、ミサトさん。私はお客様です。おもてなしを要求します」
「自らおもてなしを要求するお客様は初めて見ました」
「あー、猫さん紹介するね。この子はリサちゃん、中学三年生、来年はこの学校に入る予定」
「いやだから猫に紹介してどうするんですか狗尾先輩」
「わぁ、三毛猫……おいしそう」
リサがなにやら不穏なことを言ったような気がするが、それには触れないでおこう。
しかし……新キャラが登場するのは嬉しいことではあるのだが、敬語系のヤツが二人もいるのか……紛らわしいな。そこをなんとかするのが作者の力の発揮ところなのだろうけれどもよ……うーん。だったらそもそも似たキャラクターを同じ場で出すなよって話になるが、これは作者が書こうと考えている別の物語の伏線でもあるから出したかったんだよなー、リサちゃんとミサトくん。てか待て待て、なんで俺が悩んでいるんだ? 俺はただのモブであって作者じゃあねぇぞ?
まぁ、登場人物と作者の中身はある意味同じでもあるけど……。
メタい話はさておき。さておいたところで回収するつもりは到底ないが。
閑話休題だ。
ちょうど暇だった狗尾とミサトは、一応来客であるリサにおもてなしをするらしい。簡単に言えば部活紹介だ。
机の上に並べられていたエアガンをミサトが代表して紹介していく。
「これがLugerPO8。ドイツで開発され、ドイツ軍にも採用された自動拳銃です。トグルアクション式機構が特徴なのはもはや言うまでもないですよね」
「あー、尺取虫ですよね」
「このエアガンはガス式で、あの動きも見事に再現されています」
「見たいです。見事に再現されたあの動きを私にも見せてください」
「残念ながら、僕は十七歳ですので……」
「いいじゃないですか、とっとと見せてください」
「副部長であるこの狗尾先輩が許さないよー」
「ちぇッ……」
「で、隣のこれがM320やらドラムマガジンやらを取り付けたM4カービンです。部長のお気に入りですので壊すと死にます」
「ほほう、M320ですか。私はM203のほうが好きですね。シンプルで邪魔になりませんし」
「いやしかし、M203の進化型であるM320のほうが優秀なのは間違いないですけどね」
「は? M320なんて、無駄にでかくなっただけじゃないですか。機動力が落ちるのは致命的ですよ?」
「機動力が落ちる? はあーい? 使ったことあるのですか? 僕本職ですよ?」
リサとミサトがケンカを始めた。
ミリタリーの話なので、俺には何で揉めているのかちんぷんかんぷんではあるが、くだらない事で揉めているのは分かった。あとミサトお前、サバゲー部しているだけで本職名乗ってんじゃねーよ。
狗尾も仲裁に入るべきか否か決めかねているようだ。しっかりしろよ副部長。
俺は黙って見守ることにするぜ。夫婦の喧嘩は猫も食わないって、よく言うしな。
さてこの争い、リサとミサトのどちらの優勝となる?
「私、アメリカで実銃使ったことありますよ?」
「参りました……」
リサの圧勝だった。
ミサト弱え……。
本職名乗ったくせに弱え……。
「まあ、私が使ったことあるのはグロック26やビッグバンなどの拳銃だけで、M4カービンとかは使ったことありませんけどねー」
「リサちゃん、ぱないね」
「くそ、悔しい……!」
「ミサトさんはいつまでも未成年用のエアガンで遊んでおけばいいんです。ところで、さっきから気になっていたのですが……あの、禍々しいオブジェクトは何ですか?」
そう、それだ。
俺もそれが気になっていたんだ。
部室の奥に設置された謎のオブジェクト――一丁の拳銃が左右上下から伸びる計四本の鎖によって空中にがっちりと固定されている。
見るからに怪しく、近寄りがたい。
霊能力者が見れば、黒と紫をごっちゃ混ぜにしたような明らかに邪悪なオーラで身を包んでいることだろう。
面倒だったから無視していたのだが、考えないようにしていたのだが、少しばかりこのオブジェクトについて考察してみよう。
四本の鎖によって縛られている拳銃(『未成年の保護を目的として支給される拡散型電流開放装置』かとも思ったが、どうやらエアガンらしい。百円ショップで売っていそうな安物だ)の銃口は、オブジェクトのさらに奥を指している。そこには簡易的な棚があり、いくつかのお菓子が並べられていた。撃てばお菓子に当たるだろう。
銃、棚、お菓子――まさか。
「いやいや、見ればわかるでしょ? 射的だよん」
「やはりか! てかあれが!?」
「誰ですか今の!?」
しまった、声に出してツッコんでしまった。
いやしかし、これはツッコまざるを得ないぞ? 不可抗力だ。
棚とお菓子は理解できるし、夏祭りの詐欺事件が実は伏線だったのも理解したが……。
この鎖はいったい何だ。何故こんなふうに、危険な魔物を封印するかのように、百円ショップ並みのエアガンを本格的な鎖で縛ったうえに宙に浮かしているんだ?
「安全対策だよ」
「危険で物騒だという偏見を持たれやすいサバゲーですが、きちんと正しく使えば安全だとアピールすることによってイメージアップを狙います」
「ここでツッコむべきポイントは二つだ。まず一つ目、鎖から放たれる禍々しいオーラによってイメージアップどころかイメージダウンしているぞ。右肩下がりどころか急降下しているぞ。そして二つ目、エアガンを鎖で縛って宙に浮かしている時点できちんと正しく使っていない!」
「誰ですか今の!?」
しまった、人間だった頃の癖に逆らえずに声に出して長々とツッコんでしまった。あとミサトよ、忘れておくれ。
「射的、ということは、あのお菓子を落とせば貰ってもいいんですよね?」
「ううん、別に落とさなくてもいいよ。当てれたら景品としてあげる。百円のだと火力不足で落ちないからね」
「ほほう……、一回いくらですか?」
「今ならなんと一回十二発で百円ワンコイーン!」
「やる! やります! やるしかありません!」
リサ、禍々しいオーラにも屈せずに挑戦するそうだ。
なんとまあ意外なことに、第二章であるSummerがそこそこ好評だったらしいので、中編までは良かったものの後編がその流れをぶっ壊したらしいので、それを受けて作者が「やっぱみんな射的好きなんや! もう一回やっちゃろ!」と考え、本来は出す予定ではなかったリサとミサトの二人組を引っ張りだして無理やり文化祭を開催し射的を行っているわけでは決してないのでご安心いただきたい。
リサはポケットから百円ワンコインを取り出しては狗尾に渡した。
それは挑戦開始の儀式であり、合図でもある。
もしも今が戦国時代ならば、遠くからほら吹きのほらの音が伝わってくるであろう。それくらいにリサは燃えていた。お菓子を手に入れるために燃えていた。
念の為に言っておくが、リサは決して元気いっぱいなスポーツ系少女というわけではない。むしろその逆で、ジト目と落ち着いた口調が(あるいはのろっとした口調が)相まって一見すると大人しそうだ。
サバゲー部のゴーグルをつけ、四本の鎖に繋がれた拳銃を手に取るリサ。
リサから溢れ出る熱意は、鎖から放たれる邪悪なオーラすら吹き飛ばそうとしている。
表記しなければ、ここが学校であることすら忘れ、コロシアムだと錯覚してしまいそうだ。
明記しなければ、リサの右手に握られた拳銃が百円ショップから買ってきたエアガンであることをうっかりと忘れ、実弾が込められた実銃であると勘違いしてしまいそうだ。
だが表記もするし明記もする。
さらにリサの射撃シーンは全カットだ。
結果だけお伝えしよう。
涙を呑んでお伝えしよう。
ひでぇもんだった。
鎖に繋がれた影響も少なからずともあったのだろうけれども、照準と弾道がぶれっぶれだった。BB弾が散るに散る。たしかに十二発撃ったはずなのだが、一発もお菓子には当たらなかった。当たる気配すらなかった。
さらに詳しく知りてぇか?
いいだろう、この猫さんが詳しく説明してやる。
一発目はお菓子の後ろの壁に被弾し跳ね返った弾が俺の頭に落下した。
二発目は壁から跳ね返りLugerPO8を3ミリほどずらした。
三発目はミサトの黒縁メガネを下から上へと斜め35度に跳ね飛ばした。
四発目は扉横に置かれていたフル装備のマネキンをぶっ倒し、五発目は狗尾の足元へと向かったが狗尾のジャンプによって回避され、六発目はLugerPO8を5ミリほどずらし、七発目は狗尾が着地する寸前に足元へと転がり狗尾を盛大に転ばせ、八発目は窓の鍵をどういう原理かは分からないが解除し、九発目はLugerPO8を2ミリほどずらして机から落下させ、十発目は窓を全開にし、十一発目はお菓子が並べられていた棚を倒し、十二発目はたまたま窓の外に駐車していたゴミ収集車へと飛んでいきゴミと共に回収されたうえに棚が倒れた際に飛ばされたお菓子までもが回収されゴミ収集車は発進した。
以上、リサの射撃結果。
残されたのは、部長のお気に入りであるゴテゴテM4カービンをしっかりと抱擁するミサトと、スカートを限界まで裏返して下着を露わにさせたまま起き上がらない狗尾と、マネキンの下敷きとなった俺と、唖然とするリサ。お菓子はない。
リサ、一言だけ言わせろ。
言いたいことは喉から溢れ出るほどあるが、一言だけ言わせろ。
「リサ、二度と銃を握るな……」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
次回もぜひとも。