1.6 パーティメンバーの募集始めました
僕らは今日も平和にビックラビットを狩っていた。
「やっぱりメンバーが増えると効率良いわね。今ので10匹目よ。お金もザックザックよ!」
ユリカの高笑いが草原に響く。その声で僕の目の前の獲物は走り去ってしまった。
「ちょっと!ユリカのせいで逃げちゃったじゃないか。」
「私のせいじゃないわよ。いつまでものろのろしているから逃げられるよの。こう、パァーって行ってドーンってやるのよ。わかった?」
ユリカが声に合わせてジェスチャーで伝えようと、腕を伸ばしたり広げたりと頑張っているが、説明が雑すぎて何を言いたいのかわからない。リナはうんうんと頷きわかったような素振りを見せている。あとでリナに説明してもらおうかな?
「ねぇ、私達3人って少なくない?せめてあと2人ぐらいパーティに入れたいんだけど?」
「私もそれがいいと思います。これから魔物と戦っていくのならば、盾役も必要になってくるのではないでしょか?」
「ほらほら、リナのお墨付きよ。今日は引き上げてメンバー募集しにいくわよ。」
そう言うとユリカは街の方に駆け出していった。その光景を見た僕とリナは顔を見合わせて微笑みあう。なんだか、親の気持ちが少しわかったような気がする。
「リナ、僕達も行こうか」
門番の人にユリカの事を聞くと、凄い勢いでギルドの方に走っていったそうだ。たぶんゲルさんに相談しにいっているのだろう。門番の人に礼を告げゲルさんのもとへと向かう。
「そろそろお金も貯まってきたし、リナの武器も買わないとだね。あとで武器を選びに行こうか」
僕の発言にリナは驚いたようだ。
「わ、私に武器を?」
「武器がないと戦えないからね。防具も買ってあげたいんだけどお金がないからまた今度ね。ごめんね。」
そうこうしているうちにギルド前に着く。中に入るとユリカとゲルさんが受付で話をしていた。
「やっと来たわねノエル、リナ。それで、この紙に必要事項を記入したあとゲルに渡したらいいのよね?」
「あぁ〜そうだ。このインク持って行っていいから上でゆっくり書きな。」
ゲルさんからインクと羽ペンを受け取った後、部屋で話し合う。
「前から聞きたかったんだけど術式ででっかい火の玉を敵にぶつけたりとか、そういう感じの攻撃する術式ってないの?」
「それなら、術式使いの人が使ったりするよ。」
「なら、その術式使いとやらと重装備の盾使いを募集するってことで良いわよね?」
ユリカがこれで終わりと言わんばかりに紙を持って部屋を出ようとする。
「ユリカ、まだパーティ名決めてないよね?」
「それなら問題ないわ、勇者と愉快な仲間達よ。」
「意味がわからないわ」
振り向きながら得意げにいうユリカにむかってリナが思わず口にしてしまったらしい。ユリカに対して過言してしまったと慌てふためいている様子が微笑ましい。このまま見ていたいがユリカもショックで固まったままなので、そろそろ助け舟をだしてあげる。
「そうだよ、ユリカ。もう少しちゃんとした名前を考えようよ。ねぇリナ?」
リナは、僕が同意したことで安堵している。アリサは正気を取り戻し、こちらに戻ってくる。
「そんな、まさか反対されるとは思わなかったわ。いいわ、これからパーティ名を考えよう会議を始めるわよ。」
それから僕らの長い長い夜が始まる。
朝になっても僕ら全員が納得のいく名前を決めることができなかったので、ゲルさんに相談する事にした。ゲルさんに聞くとパーティ名は無理してつけなくても良かったらしい。名前が決まったら登録しにこればいいそうだ。
「これで、あとはパーティメンバーが集まるのを待つだけね。」
「そうだね。あと、ユリカ?人の話はちゃんと聞こうね。昨日ゲルさんが説明したって言ってたんだけど」
僕はユリカに微笑むとユリカはバツが悪そうに目を逸らす。ユリカには、もう少ししっかりとしてもらわないと困るよね。
「それじゃユリカは部屋に戻ってて、僕達はリナの武器を買いに行ってくるから。」
「わかったわ。私は寝てるからゆっくりデートを楽しんでね。」
ユリカは、そのままクスクスと笑いながら2階に上がっていった。
リナは少し眠たそうにしているが、寝るのは武器を買ってからでも問題ないと言うので、寝る前にさっさと用事を済まそうと思っただけだ。ユリカを部屋に返したのはリナと2人になりたいとかそんなやましい気持ちは全くない。そう、全くないのだ。誰かが部屋に残っていた方が、パーティに加入したいと訪れた人への対処がスムースに行くから残ってもらっただけだ。他意は全くないよ。
「ご主人様、大丈夫ですか?お疲れなら後でも大丈夫ですよ?」
「ありがとう。大丈夫だよ。ちょっと、ぼーっとしていただけで、何も考えてないよ?ほんとだよ?アリサが変なこと言ってたけど違うからね。」
いきなりリナに話しかけられて動揺してしまった。自分で何を言っているのかわからないぐらいに。リナは僕の事を心配そうに見つめてくる。微妙な空気を変えようと話題を変える。
「そ、そう言えばリナは、どんな武器がいいとか希望はある?」
「そうですね。私は武芸の事はほとんどわからないのでご主人様に選んで頂きたいです。」
リナは少し考えたあと、俯きながらそんな事を言ってきた。僕自身も短剣しか使った事がないので、他の武器の事はわからない。さっきゲルさんに相談しておけばよかったと後悔する。
「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しですか?」
武器屋に入ると小太りな男性が店の奥から出てきた。
「あの〜この子にあうような武器はありますか?」
「そうですね。これなんか如何ですか?斧やハンマーに比べると槍なんかは女性でも扱いやすいと思いますよ?」
そういうと店員は、店の奥から槍やメイスを持ってきた。確かに槍は斧より軽かったが、メイスが意外と重かった。店員によると、術式で後方支援をする術式使いや神官は、メイスを装備する人が多いそうだ。他にも短剣や片手剣なども見せてもらった。
「何かしっくりくる武器はある?」
「ご主人様と同じ短剣か槍かで迷っているんですが、やはり、短剣はご主人様に任せて私は槍にすべきでしょうか?後方から弓で狙撃というのもいいと思うんですが、弓を上手く扱える自身がないので……。」
リナの話は止まらずとても長かった。店員が苦笑いをこぼすほどに。でもそれは、それだけ真剣に考えてくれているということなのだろう。結局リナはもう少し考えたいというので、今日のところは一旦帰る事にした。あとでゲルさんやユリカにも相談してみようと思う。
「すみません。私のために付き合ってくださったにも関わらず、何も買わずに武器屋さんを出る事になってしまって。」
「いいよいいよ。時間はいっぱいあるんだから、それによく考えずに買って後悔するよりも、ちゃんと考えて自分に合った武器を買った方がいいもんね。自分の命を預ける大切な物だし、慎重になるのは当たり前だよ。」
リナが少し落ち込んでいたので、できるだけ明るい口調でリナの行動を肯定してやる。最近は僕と普通に話せているが、過去の奴隷の習慣か、僕の奴隷という現実があるからか、自分の事を否定したり、押し殺す事がまだまだ多い。いつかリナが本当に笑えるように、僕が、僕たちが彼女を支えていこう。
リナと部屋に戻るとユリカとゲルさんがいた。僕らの募集を見てパーティに入りたいと受付にきたらしい。それを知らせにゲルさんは来てくれたようだ。希望者は受付の奥の部屋で待っているそうだ。やっと寝れると思ったが寝るのはまだまだ先になりそうだ。さっさと面接を終わらして熟睡したいよ。
「はじめまして。僕は術式使い(見習い)のルビといいます。歳は15歳です。今日冒険者で登録したばかりです。お願いします。」
ルビは立ち上がったあと自己紹介を始めた。足が小刻みに震えている。言い回しも少しおかしい部分があり、緊張していることがひしひしと伝わってくる。ルビさん人族の女性で、15歳にしては童顔で幼くみえる。身長は140センチぐらいで僕とユリカの間ぐらいの高さだ。紺色のローブを着ており、手にはつばの広い三角帽子を持っている。ストレートの黒髪は腰のあたりまで伸びている。
「あの〜ルビさん?そんなに緊張しなくても大丈夫だから。僕たちもほんの一ヶ月前に冒険者になったばかりの新人だからね?あっ、座っていいよ。楽にしていいからね。」
ルビさんは失礼しますと言いながらソファーに腰掛ける。
「ルビ、私たちは遊びで冒険者をやっているわけじゃないわ。貴女に命をかけて魔王と戦う覚悟はあるのかしら?」
ユリカはルビを威嚇するように両手で机を叩き、顔を近づける。ルビは怯えて縮こまっている。
「あいた!ちょっとノエル何するのよ!良いところだったのに」
僕は悪ふざけが過ぎるユリカの頭を軽く叩いてやった。
「ユリカ様、少しおふざけが過ぎるのではないかと。ルビさんが怖がっています。折角ご主人様のパーティに入りたいという方が来たのにそのような対応ではいつまでたってもメンバーが増えません。」
「その通りだよユリカ。ゴメンねルビさん。怖がらせるつもりはなかったんだ。ユリカが言うように魔物と戦うのは命懸けでとても危ないことは間違いないよ。それはルビさんもよくわかっているよね?だからこそパーティメンバーは自分の命を預けることができる信頼できる仲間じゃないとダメだと思うんだ。」
「そうよ!その通りよ!そして私達はいずれ勇者になり魔王を討伐するのよ!」
「ま、魔王の討伐ですか?魔王とはあのお伽話にでてくる魔王ですか?魔王は実在するんですか?」
魔王と聞いた瞬間ルビさんの目の色が変わった。さっきは緊張とユリカ迫力で魔王というワードを聞き取れなかったのだろう。ユリカとルビさんが魔王について語り合っている。その光景に僕は呆気にとられていた。
「ルビさん、落ち着いてください。魔王が現実に存在するという事実の確認は未だとられていません。魔王を討伐するために勇者になるというのはユリカ様のいつもの妄言なので気になさらないでください。それよりも、今は貴女の実力がしりたいのですが、どの程度の術式が使えるのか見せて頂いてもよろしいですか?」
ユリカは妄言という言葉に毒づきながらリナに向かってシャーシャーっ猫の威嚇の真似をして抗議しているが、リナはユリカの相手をせず、本来の目的を遂行している。やっぱりリナはとても頼りになる存在だ。ユリカにも少しは見習ってもらいたいものだ。
「あぁー僕はまだ術式使い(見習い)なので、シャインやシャウトとかの術式しか使えないんですよ〜」
ルビさんは目を逸らしながら、あはははと乾いた笑いをする。シャインは小さな光の玉を爆発させることによって、強烈な光を生み出す目眩しだ。シャウトはドラゴンの咆哮のような衝撃波をつくりだし、敵を一時的に怯ます効果があるそうだ。攻撃には短剣を使うそうだが1人だと削り切れないからどこかのパーティに入ろうと思っていたときに僕達の募集を見たそうだ。
「僕はルビさんに入ってもらいたいと思うんだけど皆んなはどう?」
「ご主人様が加入してもらいたいというならば、私も加入に賛成です。」
「期待してたのは攻撃術式でバーンドーンって感じだったんだけど別に入れてあげてもいいわよ。」
「そう言うことで、ルビさんこれからよろしくお願いしますね。あとこれから仲間になるんだから話しやすい話し方でいいからね。」
「は、はい。こちらこそお願いします。」
ルビさんは宿をとっているということだったので、明日の朝、僕らの部屋に集合するということで、ルビさんと別れた。