1.5 休暇
リナを助けるために倒したレッサーゴブリンは、予想通り畑を荒らしていたグループだった。討伐した証拠として本来なら左耳を切り落としてギルドに提出しなければならない。だが、僕達はユリカの術式によって、レッサーゴブリンの死体を持ち歩く事ができる。ユリカ曰くアイテムボックスと言われる術式だ。僕達がいる空間とは別の空間に保管し、いつでも必要な時にその空間から取り出す事ができる便利な術式だ。ビックラビットの時も使ってくれたらわざわざ苦労して運ぶ必要なかったのにと不満をぶつけると、あの時はまだ使えなかったようだ。宿に戻ってからアイテムボクッスのことを思い出し、練習して使えるようになったのだという。僕にもやり方を教えてくれたので、今練習中だ。
ギルドに帰還後、僕達はゲルさんに報告した。レッサーゴブリンの討伐報酬として銅貨25枚、依頼達成報酬として、銅貨20枚手に入れた。報告のついでにリナの冒険者ギルドへの登録と、3人部屋への移動の手続きも済ました。そして、ユリカには内緒にしていた薬草の依頼達成報酬が青銅貨20枚だった。今回は不足しているということもあって、多めに採ってきた薬草全てを買い取ってくれた。こうして、僕はヘソクリとして、青銅貨20枚を手に入れた。
僕達は宿に着くなりベットに倒れ込み気絶するように眠りについた。次の日は昼過ぎまで誰も目を覚まさなかった。目を覚ますとやけにお腹が減っていた。そういえば昨日の朝から何も食べて無かったな。昨日は少し儲けたし、今日は休みにして、みんなでビックラビットの肉でも食べたいな。
「ユリカ、もうお昼過ぎてるよ。一昨日狩ったビックラビットを食べようと思うだけどどんな料理がいいかな?ねぇ、ユリカ?」
ユリカの様子がおかしい。息が荒く、顔が少し赤い。額を触ると熱かった。僕は、昨日ユリカがレッサーゴブリンとの戦いで傷だらけになっていた事を思い出す。自分の事ばかりでユリカの事など何も考えていなかった。どうしよう、僕のせいのだ。
「ご主人様、落ち着いてください。ユリカ様は疲労による発熱だと思われます。2、3日安静にしていれば、問題ないと思われます。」
「リ、リナ。そうか、ありがとうリナ。」
リナのおかげで少し気が落ち着いた。昨日は皆、寝間着に着替える前に寝てしまったので、ユリカはまだゴスロリのままだ。リナがユリカの着替えを手伝っている間に、僕はギルドから水とタオルを借りに一階へ向かう。戻ってくるとユリカの着替えはすでに終わっており、寝息を立てて眠っている。僕は濡らしたタオルをユリカの額に乗せてやる。タオルが冷たく気持ちいいのか、ユリカの表情が少し緩んだ。それを見て僕は少し安心した。
リナは料理ができるというので、お粥を作ってもらった。それをユリカに少しずつ食べさしてやり、僕とリナは一緒にご飯を済ませた。
次の日も、ユリカの体調は戻らなかったので、ユリカの事はリナに任せて僕はビックラビットを狩りに街の外まで出てきていた。ユリカが休んでる間に防具を買うお金を少しでも稼ごうと思ったからだ。結局その日、ビックラビットを3匹しか仕留める事は出来なかった。そして次の日も、その次の日もユリカの体調は戻らなかったが、少しずつ体調は良くなっているようだ。
レッサーゴブリンの討伐を行った6日後の朝、僕は叩き起こされた。ユリカにだ。
「ノエル早く起きなさい。狩りに行くわよ。ほらリナも起きて。」
「おはようユリカ。体調はもう良いの?念の為今日も休んだ方がいいんじゃない?」
「わ、わはしもその方がひひかと。」
リナはまだ寝ぼけているのか呂律が回っていない。リナは朝が弱いタイプなのだ。
「2人とも何をのんきな事言ってるの?私たちに休んでいる時間はないのよ!」
ユリカはベットの上で右手の人差し指で斜め前の天井を指し、左手を腰に当てるいつものポーズでドヤ顔をきめている。
「あっそうだ。ユリカはその服装を変える気はないの?レッサーゴブリンとの戦いで、もっとちゃんとした装備にしないとって思ったんだけど」
「なるほど。一理あるわね。仕方ない。防具屋に言ってゴスロリ装備を作ってもらうしかないわね。」
真剣な顔で恐ろしいことを言っている。たぶんどこの防具屋でも作ってくれないだろう。それどころか防具について何時間も説教させるだろう。自分たちの仕事に誇りをもっている職人がどう見ても動きにくそうなゴスロリを作ってくれるとは思えない。
「それってオーダーメイドってことだよね?それに、その、ゴスロリって服を作るのは大変そうだし、相当お金かかると思うよ。やっぱり既存の装備をつける方がいいと思うけどなぁー、動きやすいし。」
「むぅ、やはりどの世界でも金か!金が物を言う世界なのね」
そう言うとユリカは倒れ込み、悲しそうな顔を作って白に布を噛み締めている。何をしているのかわからないが、きっと、悲しさを表しているのだろう。悲しそうな顔を作っているし、きっとそういうことなのだろう。
「リナはどうする?なんの確認もなしに取り敢えず冒険者登録したけど、戦いたくなかったら無理に戦う必要はないよ。やりたい事がある言ってみて。」
リナは難しい顔した。
「わ、私は、ご主人様とユリカ様の力になりたいです。ご主人様達が戦うというなら、私も共に戦いたいです。」
「命の保証はできないよ?またレッサーゴブリンに襲われた時みたいに怖い思いをすることだってあるんだよ?」
「それでも、私は……私はご主人様の横に立ちたいです。」
普段声の小さなリナが決意した表情で叫んだ。きっと、彼女にも譲れない何があるのだろう。まずは、リナの装備を整えてあげないとだね。